交流の魔機天使
話しても無駄と悟ったのか、あからさまなため息をつくリアンナお姉様。
そこへ、何事かと周囲で訓練していた魔機天使とその契約者がぞろぞろと集まってきた。
茶髪のジョアンナ、青髪のルサルカ、ブルネットの双子、サンドラとルードラに……あれは!
「アドライテお姉様!」
俺はパッと駆け出すと、最年長の超絶ナイスバディ美少女に抱きついた。そして、甘えるように頭をお姉様に擦り付けたのだ。
……ウヘヘヘ……あー、やらかい……。いいかほり……。
中身がオッサンだからといって、セクハラなどと言ってはいけない。
あくまでもこれは、最年長(18歳くらい?)の魔機天使に、最年少(10歳くらい)の魔機天使が慕って甘えているだけなのだからして!
クスクスと笑いながらも、俺をしっかりと受け止めて頭を撫で撫でしてくれるお姉様。もう、好き。
「あははは、甘えん坊さんだなあ!マリーちゃんは!」
むむっ!この声は……。
「……居たのですかエロ親父。」
「相変わらずひどい言われようだね!」
面と向かって罵倒されたのに、カラカラと笑って流すのは、黒髪をオールバックに撫でつけたイケメンのちょいワル風親父だ。
第三ボタンまで開けた白シャツから日に焼けた筋肉が見えて、無駄にセクシーさを醸し出している。
フン!お前なんか、アドライテお姉様の契約者じゃなかったら、口もきいてやらんわい!
エロ親父と呼んでやるだけありがたく思え!
この、見た目三十代後半くらいのオッサンは、アドライテお姉様の相方であるギルバンという剣士である。
そう。俺たち魔機天使の長女であるお姉様の契約者が、よりによって剣士……!!
別に剣士が悪いわけではないのだ。
戦士技能よりレベルアップに必要な経験値が少なく序盤では重宝するし、重武装ができないのも斥候とは相性がいい。
むしろ、通常のパーティなら一人は欲しいくらいである。
だが、先にも述べたように魔機天使の契約者には致命的に向いていないのだ。
脳筋ぞろいで、力 is パワー!を地で行く高レベル魔族連中の馬鹿火力を喰らえば一撃すら耐えられない……まあレベルが上がれば一撃くらいなら耐えられるかもしれないが二撃はまず無理。
つまりは死傷率がめっちゃ高くなるわけで、目の前でバタバタ死なれては魔機天使の、ひいてはアドライテお姉様の心が傷ついてしまうじゃないか!
くそっ……!俺がついていれば、こんなエロ親父を契約者にはさせなかったものを!
でも、お姉様とエロ親父の契約は、俺が起動する前に終わっていたんだから仕方ないじゃないか!
「マリー。ギルバンをそんなふうに呼ぶものではない。
ギルバンは剣聖とも謳われる達人なのだからな。」
「むう……。」
アドライテお姉様に抱きついたまま、俺は不満を現すため口を尖らせる。
たしかにエロ親父は強い。
俺に当てがわれた契約者候補どもと比べたら月とスッポンだ。
具体的には、剣士10レベル、斥候7、身体強化6、魔物知識4。
限界突破はしてないとはいえ、すでに剣士をカンストしているこのオッサンは、もはや国の枠組みを超えた英雄レベルと言っても過言ではない。
斥候技能で先手を取り、スキルの急所攻撃で大ダメージを狙うビルドで、身体強化も回避、命中、打撃に偏重している。
どうせ紙装甲しか着られないなら防御力を上げても仕方ないとばかりに、回避と抵抗力アップ以外は防御系を捨てているという徹底ぶりなのだ。
いわゆる回避盾ってやつだな。
しかも、こいつの頭がおかしいところはそれだけではない。
先手で殺しきれなかった場合、カウンターで殺すスタイルなのだ。
このSUというゲームにおいて、カウンター、つまり反撃スキルとは相手の攻撃に対して、通常なら回避判定するところを自身の攻撃判定で代用し、それに成功した場合、敵の攻撃を防いだ上にこちらの攻撃が命中するという、なかなかに強いスキルなのである。
つまるところ、カウンターに成功し続けていれば、ひたすら一方的に攻撃していられるのだ。
もちろんデメリットもある。
カウンターの命中判定に失敗した場合、相手の攻撃がクリティカルした扱いになり、最大ダメージを受けてしまうのだ。それが紙装甲の剣士なら一撃死はほぼ確定。生存判定に成功して、瀕死(戦闘不能)状態になれたら御の字といったところか。
さらに、1ターン中にカウンターが成功するごとに命中判定にマイナス補正がかかってしまうので、複数の敵に囲まれた場合、すべてにカウンターを仕掛ける、というわけにもいかなくなるのである。
まあ、命中判定が不利なら普通に回避すればいいだけなのだが。
それでも、自分の命を種銭にするなど、大博打にもほどがあるというもの。
いや、回避盾なら回避に専念しろよ!!
お前が死んだら、お姉様が悲しむだろうが!
「いやいや、剣の聖人なんて俺はそんなご大層なもんじゃないって。剣聖だって自分から名乗ったことなんかないんだけどなぁ。」
「謙遜するな。ギルバンが成してきた偉業は剣聖の名に相応しいものだ。
わたしたち魔機天使のように造られた強さではなく、自ら磨き上げ、鍛え上げた剣技なのだからな。
それを使って、魔族の侵攻を止めたことも一度や二度ではない。受け売りだが。」
苦笑いでうしろ頭をポリポリとかくエロ親父に対して、尊敬の眼差しで反論するお姉様。
「エロ……ギルバン。」
「なんだい?お嬢ちゃん。
それと、言いかけて止めるのはいいけど、エロギルバンはエロ親父よりひどくない?」
いいから黙って聞け。
俺は、アドライテお姉様の抱擁から離れ(離れたくはなかったが!!)、エロ親父に向き合う。
「マリーは紙装甲の剣士がお姉様のパートナーなど認めません。
認めませんが……お姉様はお前に敬意を抱いているようです。
実力もあるし、相性も悪くはないのでしょう。
ですが!!
自分の技術に奢って、お姉様を悲しませたりしたら許さないですからね!!
自分の命が、自分だけのものとはけっして!思わないように!!」
ビシィッ!と左手を腰に、右手で指差し、鼻息も荒く宣言すると。
エロ親父はキョトンとした後、フッと柔らかく微笑んで両手で俺の頭をわしゃわしゃと撫でやがった。
わりと強めに。
「あ〜もう、可愛いなあ!マリーちゃんは!」
「や〜め〜ろ〜〜!」
お前の飼い犬じゃないんだよ!
俺の素敵なヘアスタイルが乱れてしまうじゃないか!
「魔機天使はみないい子ばかりだけど、こいつは中でも最高だな!
そうは思わないか?アドライテ。」
「当然だ!マリーはわたしの、わたしたちの可愛い妹だからな!」
やっと、エロ親父の手を振り払い髪を整えているとお姉様の声が聞こえてきた。
お姉様が「可愛い妹」だって……。
思わず顔が赤くなってしまうじゃないか!
「おっ?照れてるなー。可愛い可愛い!」
うっさい!エロ親父!
お前に言われても嬉しくないわい!




