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High-/-Quality  作者: hime
【第2章:推進】
50/81

第49話:Thoughts That Connect

_


若越は必死に、上がりきってない足を動かし、腕を振り抜いて最後の力を振り絞った。



しかし、2秒程先に蘭奈はゴールテープを切った。



「…っしゃぁぁぁぁ!見たかぁ!!!跳哉ぁぁぁぁ!!!」


ゴールラインを越えて少し走り抜けると、蘭奈はすぐに後ろを振り返って、自分の後にゴールした若越にそう言った。


「…はぁ…はぁ…流石だよ…陸…。」


若越は完全に息が上がっていた。

両膝に手をついて、大きく肩で息をしながらそう言って蘭奈を讃えた。


200mを、練習では8~9割で走っている分、10割以上の力を振り絞った事による疲れだけで無い。

若越は、ラストに感じた恐怖感を全身に覚えながら、少し震えていた。


「…大丈夫か?跳哉。」


蘭奈はそう言って、若越に右手を差し出した。


「…大丈夫だよ。ここでへばるわけには行かないんでね…。まだあと、クラスリレーと選抜リレーが残ってる…。」


若越は、差し出された右手をグッと掴んでそう言った。

蘭奈が勢いよく引き上げると、若越は大きく深呼吸をして真っ直ぐに立った。


「…クラスリレーは負けねぇ。何せこっちは、エース級揃いだからな。」


若越は、自信げな笑顔で蘭奈にそう言った。


「バカ言え!こっちだって負けねぇメンツ揃えてんだよ。絶対負けないからな!」


蘭奈も負けじと、自信満々な笑顔でそう言い返した。




_




その後、2年生の徒競走が行われた。

女子は丑枝、男子は七槻の陸上部コンビが勝利を収めた。


続く3年生。

女子は陸上部を引退した諸橋と紡井の、恐らく最後の一騎打ち…。



「美来ーっ!頑張れーっ!」


「つむちゃーん!頑張れーっ!」


「諸橋ぃー!いけぇー!」


「柚ーっ!負けるなぁーっ!」


3年生の応援席からは、同級生たちの応援の声が響き渡る。


その歓声を浴びながらトラックを駆ける2人の姿に、全校生徒が注目していた。

結果は、僅かに諸橋がリードして1着。

惜しくも、紡井は2着に終わった…。



ゴールラインを越えた2人は、互いに駆け寄った。


「…ありがと、紡。」


諸橋は少し恥ずかしそうに、紡井に向かって一言そう言った。


「…らしくないじゃん?美来ったら。

私の方こそ、2年半一緒に走ってくれてありがと。

何だかんだで一緒に走るのも、これがもう最後かもしれないね…。」


紡井は平然とした態度であったが、諸橋にそう言ううちに自然とその目から、涙が溢れていた。


「…辞めてよ、紡…寂しいじゃん…。

…けど、楽しかったよ。最高の高校陸上人生だった。」


紡井につられて、諸橋もそう言いながら目に涙を浮かべていた。

2人はそのまま抱き合うと、静かに泣きながらお互いを称え合った…。




_


そして、徒競走の最終レース。

3年生男子の各クラスの精鋭達の中に、もちろん泊麻の姿があった。そして、室井の姿も。


「束咲くーん!頑張ってーっ!」


「つーくん!ファイトー!」


「キャーッ!泊麻せんぱーい!」


圧倒的な黄色い声援を集める泊麻…。


「透治ぃぃぃぃ!陸上部部長の力、見せてやれぇ!」


「室井ぃ!泊麻に負けんなよぉーっ!」


「マッスルー!ぶちかませぇぇぇ!!」


対する室井は、同級生男子からの圧倒的な信頼を得ているのか、の太い声援を集めていた。




(…バカ言え。流石にコイツには勝てない…。

俺よりも"走る事"に賭けてきた量が違う…。)


室井は心の中でそう呟きながら、第3レーンのスターティングブロックに入ろうとした。


「…透治ぃ!全力で来いよ。」


その時、隣の第4レーンの泊麻が、振り返って室井にそう言った。


「…当たり前だ。」


室井は少し口角を上げながら、一言そう言い返して構えに入った。




パァァァァン!




ピストルの号砲で、6人は走り出した。

やはり1人、別次元の走りを見せたのは泊麻であった。

他の生徒との走りを見比べても、泊麻の走りはまるで草原を駆ける白馬のように軽やかで爽やかであった。


一方の室井も、力強い走りで泊麻に次ぐ2番手の位置を維持しながら走っていた。



(…透治…ありがとな。

お前がいたから、俺はちゃんと走る事に向き合えた。

お前がいなかったら、俺は今、こんなにも清々しくは走れなかった…。

都築(ライバル)に勝てなかったのは、俺の努力不足だ。

…まあ、それでもいい。俺はお前のおかげで案外楽しかったよ。高校での、陸上生活が。)



(…束咲…お前には感謝してる。

数少ない仲間のお前は、不真面目ながらも最後までこうして一緒に走ってくれた…。

お前がいたから、俺は部長としてもしっかり結果を残そうと思えた。

お前がいなかったら、俺は陸上部の部長も、全国優勝も、夢物語で終わっていた。

…俺はお前と過ごした高校での陸上生活を、忘れる事はないだろう…。)



互いに胸の内にそう秘めながら、室井は泊麻の背中を追い、泊麻は室井の視線を背後に感じながら、ラストスパートを駆け抜けた。


結果はもちろん、泊麻が1着、室井が2着であった。



ゴールした後は、2人とも全力疾走を駆け抜けて息が上がっていたが、お互いの姿が目に入るとスッと平然を装った。


「…透治、1年の頃より速くなったよな。本当。」


泊麻は余裕の素振りで、室井にそう言った。


「…バカ言え、誰の隣で2年半走ってたと思ってんだ?…嫌でも速くなるだろ、そりゃ。」


室井はイタズラな笑顔で、泊麻にそう言い返した。

そして2人は、互いの手を差し出して、固い握手を交わした。


「…俺の最後の相手は、都築じゃなくてお前で良かったぜ。ありがとな。」


「…柄にもない事言うようになったな、束咲。

俺はこの先も絶対忘れない。お前の走りは、な。」




_


グラウンドでは、フィールド内で玉入れや綱引きなどの種目が行われていた。

次に出場する、午前の最終種目であるクラス対抗リレーまで出番のない若越は、応援席で休憩していた。


「…跳哉くん、お疲れ様。」


そこへ、玉入れに出場していた巴月が応援席に戻ってきた。

巴月は、徒競走を終えた若越をそう言って労った。


「ありがとう、巴月。…陸、やっぱやべぇよあいつ。」


「うん。こっちから見てても、迫力が凄かった。」


「…そう言えば、元気ねぇよな?巴月。都大会から。何かあった?」


若越はそう言うと、隣に立つ巴月の顔を見上げた。

普段は、素直な笑顔を見せている彼女の表情は、口角を無理矢理上げているかのような作り笑顔に若越は見えていた。


「…そ、そんなこと…。」


巴月がそれを否定しようとした時、若越は続けて確信を突いた。


「…まだ痛いの?足。」


「…えっ…?」


巴月は、若越の問いに明らかな動揺を見せた。


「…俺もやっと思い出したよ。2年前の大会、巴月出てたよな?都大会。」


若越はあの出来事を知っていた。前後の出来事は巴月と村上しか知らないものの、レースの事は当時大会に出場していた者なら知っている可能性は十分にあった。


「…知ってたのね…。跳哉くんには、話しておこうと思ってたの。」


若越は、グラウンドで行われている種目を眺めながら、巴月の話を聞いた。

巴月の実力の事、大会の事、村上の事、そしてマネージャーになった経緯を…。


「…私ね、最初は跳哉くんも、私と同じように陸上を離れたいのかなって思ってた。

…でも、跳哉くんは私とは違った。辞めなかったもんね。

苦しくて、悔しくて、棒高跳びどころか、陸上も辞めたかった筈なのに…跳哉くんはこうして続けて、既に関東大会に出る選手まで戻ってきてる。

…最近ね、ちょっと後悔というか、私も続けてたら、跳哉くんや陸みたいになれたのかなぁって、そう思うときが増えててね…。」


巴月はそこまで言うと、若越の様子を覗いた。

彼はただ、まっすぐグラウンドを見ている。


「…でも、巴月も離れなかったから、こうして今でも陸上に関わってくれてるんだろ?」


えっ。と巴月が呟いた。

若越は気にせず、そのまま話し続けた。


「勝馬さんに誘われたからって言っても、ここに来たのは間違いなく巴月の意思だ。

それが、何か変わるきっかけに期待してたとしても、陸上に未練があったとしても、決めたのは他の誰でもない。自分自身だ。

…俺は、伍代先輩に負けて、負けたままで終わりたくないって思った。

父さんの事があって、確かに棒高跳びに良い思いをしてなかったのは確かだし、全中優勝したまま終わればよかったと思った日もあった。

だけど、伍代先輩に勝負を持ちかけられて、俺はそれに乗った。

乗ってしまった以上、乗ると決めたのは俺自身だし、決めたことを後悔するつもりもなかった。

…でも、インハイの支部予選で、無様な結果に終わった。ライバルたちはどんどん上に行った。

あの時は確かに、ちょっと後悔したよ。俺はもう、負けたままで勝つことは出来ないのかって…。」


そう言う若越の脳裏に鮮明に浮かんでいるのは、落ちてくるバーの光景と周囲からの落胆の声。


「でも、ライバルたちが上に行けば行くほど、そこにはもっと強いライバルもいた。

それを目の当たりにした時、俺には既に後悔していた事よりも、こいつらに勝ちたいって思いの方が強かった。

同じフィールドにいない自分が、心底悔しかった。

…それで思ったんだよ。

もう辞めるなんて思わねぇ。俺は絶対こいつらに勝ってやる。ってな。」


若越はそこまで言うと、漸く視線を巴月に向けた。


「それに、続けたから、巴月や陸、光季や高津、桃さんや伍代先輩たちに出会えたし、チームメイトになれた。

それだけあれば、前に進むには十分だってな。」


そう言うと、若越は唐突に立ち上がった。

気がつけば、間もなく午前の最終種目、クラス対抗リレーのスタンバイの時間であった。


「そろそろ行こうぜ。リレーが始まる。」


そう言って歩き出した若越の後ろ姿を、巴月は少しだけ呆然と見つめていた。


(…やっぱり、跳哉くんは私とは違うね。

時々思うの。君が羨ましいって。私も、跳哉くんのようになれたらなぁ…。)


手を伸ばせばすぐに触れられる距離にいる若越。

しかし、巴月の目には、そんな彼が遠く高い場所にいるように感じていた…。

彼女は、胸の内に痛みとは違う違和感を覚えた。


(…ねぇ、跳哉くん。私も連れてってくれない?君と同じ場所に…。)



_


午前の最終種目、クラス対抗リレー。

各クラス、男女4名ずつ計8名により行われる。

男子は200m、女子は100mを走り、男子が奇数走者、女子が偶数走者となる。

8人でトラックを3周する大掛かりなリレーであった。



リレーの走順は、事前に体育の授業内で決めていた。


若越たち3組からの出場は、男子が大橋、三伯、八須賀、若越。女子が高津、巴月、佐藤、秋田となっていた。

8人は集まって円になると、早速走順の話し合いを始めた。


「…さて、どうしたものか…。」


八須賀はそう言って腕を組んだ。

若越以外は、互いに顔を見合わせながら険しい表情をしている。


「…なぁ、俺はクラスリレー勝ちてぇんだ。

だから、絶対勝てる順番で行きてぇ。」


大橋はそう呟くと、若越に目線を向けた。

先程から、何処か他所事のように話に入ってこない若越に嫌気がさしたのか、若越を鋭く睨みつける。


「…若越、お前さっきから黙ってねぇで何か言えよ!」


大橋が語気を強めてそう言うと、若越は鼻で笑いながら漸く話に入ってきた。


「…あるよ。必勝法案。知りたい?」


若越が自信満々にそう言うので、大橋は今にも若越に突っ掛かりそうになっていた。

それを制止するように、高津が後に続いた。


「聞かせてごらんよ。私も気になるな、策士の意見。」


高津のアシストを受けると、若越は地面にトラックの図を書き込み、それぞれの走者のルートを記した。


「このリレーで勝つ為の鍵は3つ。

まずはスタート。出だしが肝心かな。

次に中盤。スタートの勢いを何処まで維持できるか。若くはスタートからどれくらい上がって来れるか。

最後はもちろん、アンカー。中盤まで引っ張ってきた順位を、抜かれる事なくゴールまで運び込む。

この3つのポイントさえ押さえれば、ある程度走順の骨組みは出来上がる。」


若越が得意げにそう言うと、高津と巴月は納得の表情をした。2人も、同じ事を考えていたようだ。

三伯、八須賀、佐藤、秋田の4人は、改めて若越に感心したようにおぉー!と声を上げた。


ただ1人、若越の意見に反抗はしなかったものの、納得がいってない様子なのは大橋である。


「…んで?お前は誰が何処走ったらいいか、粗方検討はついてるんだろうな?」


またも大橋は若越に突っ掛かったが、若越はもう慣れたのか、相手にせずに淡々と皆に説明した。



「…俺的には…。」





クラス対抗リレー、1年生の部が間も無くスタートを迎える…。



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