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High-/-Quality  作者: hime
【第4章:新時代】
100/105

第99話:Higher,Further

_


新人戦東京都第4支部予選。


女子走り幅跳びは、B組の試技が始まろうとしていた。

A組終了時点において、4m60cm以上の記録が総合8位以内に食い込む為の、1つの指標とはなっていた。


真っ白なセパレートタイプのユニフォームに、ピンクと黒のラインと、ピンク字の黒枠で"HAKUHOU"と書かれた戦闘服に身を包んで助走路に立つ星崎は、圧倒的なオーラを纏っていた。

B組第1跳躍者、白鳳女子高校、星崎 結良(ほしざき ゆい)



(…結良さん…やっぱ不思議と目を惹かれる魅力があるよな…。)


競技を終えて、羽瀬高の水色のジャージに身を包んだ睦小路は、走り幅跳びピットの脇から星崎の姿に目を奪われていた。



「…お願いしまぁぁぁぁっす!!」



星崎はそう叫ぶと、体を大きく仰け反って停止し、そこから大きく腕を振りながら助走を駆け出した。


テンポよくリズムを刻みながら駆け抜けていく星崎は、まるで幻想の世界で羽を広げながら天を翔るペガサスを彷彿とさせる。


地を掻く度に跳ねるようにスピードを増す助走は、一直線に砂場目掛けて突き進んでいく。


バコッ!!


力強く踏み切り板を蹴る音と共に、彼女は宙を舞った。

約2秒間。空気を掻いて空中を泳ぐ。


高々と砂を掻き上げて着地した場所は、5mと6mの丁度狭間辺りであった。


「…5m47っ!!!」


観客席は歓声と響めきが入り混じっていた。

というのも、彼女の1本目のその記録は、インターハイ東京都大会における第6位相当。

支部予選では圧倒的優勝圏内。現在もこの記録だけで総合1位に君臨していた。

第4支部における歴代記録においても、上位に相当する記録を叩き出していた。


ざわつく観客席からの声を浴びながら、星崎は自らの着地した砂の跡を見つめていた。


(…まだ行ける…。もっと遠く…もっと高くに…っ!)


星崎はイメージを修正しながら、次なる2本目の跳躍に備えていった…。


_


一方、男子棒高跳び…。



高薙 皇次が3本目にて5mをクリアし、バーの高さは5m05cmに上がった。


(…さて、跳哉は5mのその先に行けるかな…?)


有嶋は心の中でそう呟き、観客席からフィールドの若越の姿をジッと見つめていた。


「…お久しぶりです。有嶋コーチ。」


ふと有嶋の背後から、そう言う聞き馴染みのある声がした。

慌てて有嶋が振り返ると、そこには伍代の姿があった。


「…おっ、拝璃!来たんだな。」


有嶋は伍代の顔を見ると、笑顔でそう言った。

伍代はこれまでのスポーティーなジャージ姿とは異なり、グレーの大きめのデニムパンツに白いTシャツ。そしてその上から革のジャケットを羽織った、お洒落な格好をしていた。


「…まぁ、可愛い後輩の活躍は見ておかないと、です。

…っと、もう5cmまで進んでるんすね。」


伍代は有嶋の横の席に座ると、前屈みになり顎に手を置いてじっくりと棒高跳びピットを見つめていた。


「…残るは江國、高薙、そして跳哉の3人だ。

都大会への心配はないとはいえ、3人とも易易とこの記録で終わる様子は無さそうだ。」


有嶋が伍代にそう解説すると、伍代はニヤリと笑みを浮かべた。


「…まぁ、でしょうね。

若越は間違いなく、俺の記録を越えようとしてますし、恐らくその先を目指してる。

江國も過去の記録は必ず越えてくる…。それに、皇次がどこまで付いていけるかって感じじゃないですかね。」


伍代の、共に肩を並べて競い合った仲としての考察は鋭かった。


「…いや、高薙もここまでいいテンポで来てる。兄貴の例もあるし、油断はできないだろう…。」


「…若越がどう戦って来るのか…楽しみっすね。」


有嶋と伍代は、揃ってフィールドの若越の姿に注目した…。



助走路に立つのは、第1跳躍者の皇次であった。


(…ちょっと前なら、"5m"跳んでるだけで、充分全国の表彰台も夢じゃなかったってのに…。

…それだけ高難易度な世界で戦ってるって言うなら…そこで生き残れなきゃ、男じゃねぇ…っ!

…やってやろうじゃねぇか…。

"高薙 宙一"の弟だから強いんじゃねぇ…。"高薙 皇次"だから強えってこと、証明してやるっ!)


未踏の高さを目の前にしながらも、皇次の心はいつにも増して強気であった。



「…皇次先輩、いつもより怖い顔してるね…。」


そう呟きながら、観客席から彼らを見守る"継聖学院"のジャージ姿の女子部員は、心配そうにフィールドの皇次の姿を見つめていた。

彼女は、継聖学院高校陸上部跳躍マネージャーの、栗山 莉衣奈(くりやま りいな)であった。

黒髪の長髪を真っ直ぐ下ろした小柄な彼女は、今年からマネージャーを務める1年生であった。


「まぁ、いつも怖いけどね…。でもそれがかっこいいよなぁ…皇次さん…。

全然喋ってくれない途識さんとは大違い。…全く、あの人は何考えてるか全然分からないからなぁ…。」


栗山の横に座る、彼女よりも少し長身な女子部員は、皇次に憧れの眼差しを向けながらそう言った。

彼女は、同じく継聖学院跳躍マネージャーの黒岩 ふゆ(くろいわ ふゆ)であった。

肩まで伸びた髪を後ろでポニーテールに纏め上げている彼女は、丸い大きな目で皇次の姿をじっと見つめていた。


「…すまんなぁ。あいつがみんなを怖がらせてるようで。どうだ?あいつら順調か?」


2人の元にそう言って現れたのは、カジュアルな黒いジャケットとスラックスに身を包んだ宙一であった。


「「…宙一さん!?お疲れ様ですっ!!」」


宙一の姿を見て咄嗟に2人は立ち上がると、彼にそう挨拶をした。


「…辞めてくれよ…俺は一応、もう引退した身なんだから…。

それはそうと、皇次も江國も5mは越えたみたいだな。」


宙一がそう言いながら彼女たちの隣りに座ると、すかさず黒岩が宙一に話しかけた。


「とりあえず、今のところ途識さんと羽瀬の若越さんが同率1位。次いで皇次さんが3位の状況です。

寛汰は4m50で4位。まだまだ先輩たちの足元にも及んでないって感じですね。」


黒岩がそう言うと、宙一はそれを聞きながら真っ直ぐ助走路の皇次の姿を見ていた。


「…そうか。んで、5m05の1本目…と。」


(…皇次…ここで江國と若越(あいつら)に離されると、中々厳しい戦いになるぞ…この新人戦…。)


宙一は心の中で皇次に向けてそう言いながら、ただじっと視線を送っていた…。




助走路の皇次は、両手にタンマグを馴染ませると、チラッと観客席に視線を向けた。

そこには兄、宙一の姿があった。


(…げっ…兄貴来てんのかよ…。めんどくせぇなぁ。

…まあ、兄貴に見せつけてやるよ…俺が江國と若越(こいつら)に劣ってねぇところをなぁっ!)


皇次は勢いよくポールの先を高く振り上げた。


「…行きまぁぁぁぁぁっす!!」


吠えるようにそう叫ぶと、皇次は地面を強くかっ蹴りながら走り出した。


「「はぁぁぁぁい!!!!」」


栗山と黒岩が皇次に答えた頃に、彼は既に助走のトップスピードに突入していた。


その姿を、宙一はただただ黙って見ているだけであった。


(…あぁあ。そんなに突っ込んでも…。)



ガコッ!!!



ポールの先がボックスの角に突き刺さると同時に、皇次は地面を強く蹴り込み、素早く身体を振り上げた。


ポールの反発力が伝わる頃には、皇次は真っ直ぐ逆立ちの状態になり、その反発力を利用してバーの上を狙った。



(…確かに、技術はまだまだ足りねぇ…。

…でも、間違いなく…パワーならっ!)



放り出されるようにバーの上に跳び上がった皇次は、素早く右腕を引きつけてバーの上を越えようとする。


しかし、パワーで押し込んだ跳躍では、上空で体勢を立て直す事が出来なかった。

バーを巻き込む形で、皇次の身体はスッとマットの上に落下していった。



「…あぁ…。」


栗山がため息を吐いた。

残念そうな彼女たちの隣で、黙って首を振りながら宙一が立ち上がった。


「…ま、今のあいつならこんなもんだろ。

ちょっと喝入れてくるわ。」


そう言うと、宙一はスタンド席の最前列へと降りて行った。




(…ちっ…上での動きを作る為に…もう少し余裕があれば…。)


悔しそうに眉間に皺を寄せながら、皇次はポールを手にマットを降りると、宙一が皇次に声を掛けた。


「皇次、もうそのポールじゃそこまでだ。

今の力で越えたいんなら、ポール上げるしかねぇ。」


突然の宙一の登場に、観客席は愚かフィールドの選手たちも驚いたようにその様子を見ていた。


「…はぁ?この状況でポール上げろって…何言ってんだ兄貴っ!」


皇次には宙一の意図が理解できていなかったのか、そう言って兄のアドバイスに反発した。


「まあ、土壇場で上げたって何も変わらないかもな。

…でも、今はそんなのに拘ってる場合じゃねぇ。

都大会、関東で勝ち抜く事を考えるなら、俺の言う事を聞いておいた方がいい。」


宙一は真っ直ぐ真剣な眼差しで、皇次にそう言った。

流石の皇次も、何かを悟ったのかため息を吐いて頷いた。


「…はぁ。わーったよ。」


皇次はそう言うと、渋々控えテントにあるポールケースから、1段階上のポールを取り出した。



その様子を、助走路に立つ若越も目の当たりにしていた。


(…あっ、宙一さん…。後で挨拶しなきゃな…。)


そんな事を思いながら、若越は両手にタンマグを馴染ませた。

ここまで来ると、左腕に付けたオレンジ色のリストバンドも、タンマグで少し白くなってきていた。


(…でも、すみません。俺もここで負ける訳にはいかないんで。

…江國も皇次も、ここで引き剥がす…。

『誰よりも、高い空を跳ぶ。』のは、俺だから…。)


すると、若越は左腕を高く挙げて、眩しく照りつける太陽を左手で遮った。

オレンジ色のリストバンドが、少しだけ輝いて見える。


そこから若越は、素早くポールに手をかけると、スッとポールの先を高く振り上げた。



「…しゃぁぁっ!!」



そう叫ぶと、若越は助走路を一気に駆け抜けた。

背中には強い追い風。若越は空を切りながら一直線に走り抜ける。


_


第1コーナーの内側では、男子の円盤投げが始まっていた。


「…22m53っ!」


2投目終了時点で、周藤の記録は全体の中で9位。

全10名中の9位。


(…やっぱ、簡単じゃねぇなぁ…。)


1投目はファール。

全選手2投目終了時点で、1位に君臨している選手の記録は32m27cm。


控えテントの中で周藤は、真っ白な雲が流れる秋空を呆然と見つめていた。





1年前。

中学最後の試合で、周藤は都大会まで駒を進めていた。


志音(しおん)先輩、頑張ってください!」


「都大会入賞行けます!」


後輩たちからの熱いエールを受け取った周藤は、自信たっぷりにフィールドに向かおうとしていた。


「ありがとう、頑張るよ!」


後輩たちにそう答えた周藤に、同級生たちもエールを送った。


「志音、都大会勝とうぜ!一緒に全国行こう!」


周藤の肩に手を回しそう言うのは、中学生にしては体格の大きな同級生、椋木 淳規(むくのき あつき)であった。

椋木は、周藤より一回り大きな体格であり、彼を包み込む程の大きさがあった。

スポーツ刈りの頭に満面の笑顔が溢れている。


その椋木に、周藤は大きく頷きながら答えた。


「あぁ、もちろんだよあっちゃん!」


2人がそう話している中、1人の女子部員も近づいて来た。


「志音、あっちゃん、頑張ってね!2人とも応援してるよ!」


そう言ったのは、女子のエースの栗山 莉衣奈(くりやま りいな)であった。

栗山に応援された周藤は、少し満更でも無さそうに後頭部を掻いていた。


「…ああ、ありがとう。莉衣奈。」


その様子に、椋木は周藤を小突きながらニヤリと笑みを浮かべた。


「…良かったじゃねぇか、志音。こりゃ勝つしかねぇな。」


周藤が栗山に気があることを、椋木は唯一知っていた。

それ故に、周藤が日々の練習を努力し、結果を出そうとしていた事も。


「…ああ。もちろんだ。」




しかし、結果は惨敗。

男子砲丸投げに出場した周藤は、1投目はそこそこ投げられていたものの、緊張によりそれ以降の投擲にミスが生じた。


一方、共に出場した椋木は都大会を優勝。

全国大会出場までを掴み取っていた。




敗北に気を病んだ周藤は、そこから椋木や栗山を避けるように生活し、3人の交流はないまま中学を卒業した。



2人とは別の学校に行こうと、2人に黙って受験した羽瀬高にそのまま進学。

それでも陸上は続けようと、円盤投げへと転向して選手人生を歩んでいた…。





(…結局、このままじゃあっちゃんと莉衣奈から逃げたままだ…。

…変わらなきゃ…。変われるんだって言ってたから…若越先輩が…っ!

もう逃げたくないから…先輩みたいに、勝たなきゃ。)


周藤は大きく息を吐くと、立ち上がってピットに向かった。

3投目進行状態において、都大会へと進む為の最低ラインは、現在27m38cm。


周藤はサークルに入ると、バックストレート側の若越に視線を送った。

丁度5m05cmの1本目に挑んでいた若越は、惜しくもそのバーを落下させていた。

それでも、若越は俯く事なく立ち止まる事なく、すぐに動きの修正をして有嶋コーチへとアドバイスを伺っていた。


(…あっちゃんと莉衣奈が、今も何処かで見てくれているなら…ちゃんと進化した姿を見せなきゃっ!)



周藤は、右手に円盤を抱えると、腕を大きく左右に揺らして助走をつけた。


そこから素早くサークル内を1回転すると、回転の勢いを乗せながら、斜め上空に勢いよく円盤を放った。



「…うぉぉぉぉぉぉぉっっ!!!」



周藤の雄叫びが後押しするかのように、円盤はスルスルと高く遠くへと飛んでいった。



円盤投げピットから聞こえる雄叫びに、ホームストレート側の観客席で競技を見ていた、成條(せいじょう)高校陸上部の椋木は、無意識に視線を送った。

水色の"羽瀬高"ユニフォームを纏った、懐かしい仲間の姿に、彼はニヤリと笑みを浮かべた。


(…志音、良かったぜ。砲丸のエントリーに名前がなかったから、てっきりもう陸上辞めちまったのかと思ったけど…。

…まだ腐らず続けてたんだな。)




一方、バックストレート側の観客席から、自校の江國、皇次の跳躍を見守っていた栗山も、聞き馴染みのある声に視線を向けた。


(…志音…?なーんだ、まだちゃんと続けてたんだ。陸上。)


栗山が微笑みながらその姿を見ていると、勢いよく円盤が落下した。

補助員が素早く記録を計測している。



『…28m76っ!』



その記録で、周藤は3投目にして4位に食い込んだ。




「よっしゃっ!」


サークルを出た周藤も、その記録に思わずガッツポーズを見せた。

審判員が白旗を挙げて有効記録となり、周藤は残り3投へと駒を進めることとなった…。






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