表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界少女、放浪記。  作者: げっとは飛躍のせつなさ
2-6章 あらたな一歩、のおはなし

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

81/83

81 - 緑髪の少女はへこたれない

 緑髪の少女は火だるまになりながら、はるか遠くにまで吹っ飛ばされて、やがて地面に降り立ちごろごろと転がりました。しばらくごろごろ転がるうちに火の勢いも弱まり、やがてうつ伏せになって止まるころには、ぷすぷすと音を立てながら、黒焦げになった煙を吐き出すだけになりました。


 緑髪の少女は顔を地面に突っ伏したまま、どこからともなく白く小さな旗を取り出して、弱々しく左右に振りました。その様はいつかアニメで見た、ネズミにしてやられたネコのように見えて、現実感が失われたように、菜優は感じました。


 これ以上あのモンスターに関わる理由も特段見当たらないので、菜優達はルナーへと針路を戻しました。しばらくも歩かないうちに、緑髪の少女が行く手を阻んできました。今度は猫のような着ぐるみを着ているようですが、そこから覗かせている髪がちりりと焼け焦げているのが見えたので、さっきの緑髪の少女と同じ個体だと、菜優は気づきました。


「イルミナキャットだ!?え、なんでこんな所に?」


 エステルは叫びました。


 ははん、なるほど。菜優はなんとなく読めてきました。エステルの反応を見るに、きっと、イルミナ鮫もイルミナキャットも比較的珍しい―そして同時に、脅威度の高い―モンスターなのでしょう。そんなモンスターに化けて出ては、人を脅かして楽しんでいるのです。


 そうとわかったところで、やるべきことは大して変わりません。この子を倒すなりやり過ごすなりする必要があります。


 無闇な戦闘は避けようとクラッカーを撒いたところで、音に驚いて逃げ去っていくなんてことはないでしょう。そうすると、よく遊んでいたRPGロール・プレイング・ゲーム的に考えれば、この子を倒して押し通るのがいちばん簡単です。しかし気が進みません。この眼前の緑髪の少女が人懐っこいように見えたこともその要因ですが、なにより今の菜優には、ひのきのぼうですら輝かしく見える程度には、まともに使える武器がないのですから。


 ニーマとエステルの二人は既に緑髪の少女と戦闘を始めていて、エステルが両手から放つファイヤーボールダーの魔法が、次々と炸裂していました。しかし緑髪の少女はちょこまかと動き回り、それらの爆風を華麗に避け続けています。ニーマも果敢にタックルを仕掛け、緑髪の少女を捕らえにかかりましたが、こちらもするりするりと躱されてしまいます。なかなかに、すばしっこいやつです。


 どうしたものかな、と菜優は思考を巡らせました。緑髪の少女は構えた木刀でこちらを打ち付けてくることこそあるものの、力がないのか、それとも手を抜いているのか、全くと言っていいほど痛みを感じません。脅威性はほとんどないものの、ちゃんと倒すなりなんなりしないと、道を譲ってくれそうにありません。ルナーに帰るのがひたすらに遅くなってしまいます。


 それじゃあ何かを要求してるんじゃないか?と菜優は考えましたが、その肝心の要求が分かりません。緑髪の少女はひたすらにおねえちゃん、おねえちゃんと鳴くだけで、人語を話せそうな素振りは見せません。こちらの言うことは理解するかもしれませんが、相手の言うことはほとんど理解出来ません。これでは、相手の要求を飲もうにも、そのためのコミュニケーションが成立しません。


「ダメもとで聞いてみるんやけどさ、ケルちゃん」

「何よ」

「あの子の言ってること、分かる?」

「分かるわけないでしょ」


 やんなぁ、と菜優は項垂れました。


 ところで菜優は、ケルが隣で欠伸をかきながら緑髪の少女とニーマ、エステルが戦っているところを、ただぼおっと眺めているだけなことに気づきました。普段なら襲ってくるモンスターがいれば、ケルはすかさずその敵をなぎ倒しにすっ飛んできそうなものですが、今回のケルは、喧嘩が目の前で起こっていると言うのに、全くの無関心です。


「ところで、ケルちゃんはエステルちゃん達、助けに行かんのん?」

「なんで助ける必要があるのよ。()()()()()に興味はないわ」

()()()()()て。エステルちゃんもニーマちゃんも結構苦戦してるように見えるけど」

「あいつが本気で命を取りに来てたら、とっくのとおに屍が二つ転がってるわよ。けれど、そうはなってない。腕くらべして遊びたいだけなのよ。そんなやつに、あたしが構ってやる理由なんてないわ」


 ケルが吐き捨てるように言い放った頃には、エステルも、ニーマも体力を使い果たして、野に大の字になって寝転んでるのが見えました。その真ん中に一人立っている緑髪の少女は、じいっと首だけをこちらに向けてきます。


「おねえちゃん!」


 緑髪の少女が一声嘶くと、両手の木刀を黒い直刀に持ち替えて突撃してきました。漆黒の刃は太陽の光に鈍くきらめき、その切っ先の鋭さが、菜優の目に飛び込んできました。


 菜優はぞっとしました。なぜって、それまで木刀―つまり、殺傷能力が高いとは言えない―を手にしていたのが、突然、真剣―つまり、殺傷能力を持った―に持ち替えたのですから。あの切っ先が菜優の体に触れれば、菜優の命はきっと、そこから喪われていくことでしょう。ひりりとした冷たい感触が、後頭から背中にかけて走り抜けていくのを感じました。


 緑髪の少女は、黒い直刀を手にしたまま、まるで弾丸のようにきりもみ回転をしながら突進してきます。菜優は咄嗟にエーテルソードを抜き身にして、彼女を迎え撃つ準備をしました。視界がぐねりとうなりはじめ、脳を激しく揺さぶられながら、胃の中をかき混ぜられるような気持ち悪さが菜優の内に込み上げて来ました。


 しかし、そんなものに負けていられません。この少女の突進を受け止めそこなえば、あの黒い直刀にずたずたに切り刻まれてしまって、またあのアトロポスとかいうサディズムの塊のような死神に追い回されなければならなくなるのですから。菜優は、うわぁあぁあなどと訳の分からない声を上げながら、気をしっかり持とうとしました。


 視界が霞み、ものの輪郭もよく分からなくなってきました。でも、あの少女の突進は、絶対に止めなければなりません。ぼんやりした意識の中で、菜優はスクルドから貰った指輪のことを思い出して、それに祈りを込めました。


 次の瞬間には、霞んだ視界とは別に、様々な未来のビジョンが菜優の脳裏に飛び込んできます。同時に、気持ち悪さがアクセルをべたりと踏み込んで菜優を苛みます。意識はさらにふわふわとしてきましたが、未来視の力のお陰で、擬似的に視界を確保出来ています。菜優はぐらぐらする体を何とか操って、エーテルソードを少女の突進がくる位置にぴたりと合わせました。


 けれど、緑髪の少女の突進が、菜優に届くことはありませんでした。ケルが気だるそうに前足を振るい、あの緑髪の少女を軽く蹴飛ばしたからです。


「じゃれあいに興味はないって言ったけど、あたしやナユに喧嘩ふっかけてくんなら話は別よ」


 吐き捨てるようなケルの言葉が聞こえたところで、菜優の視界はぷつんと切れました。ぼやけきって何も見えない視界と、薄れゆく意識の中で、菜優は空と地上の境も、方向も分からなくなって、地面に倒れていきました。


 前後不覚で立ち上がることも出来ないまま、菜優は気持ち悪さをなんとか外に追い出そうと、必死に息を吸って吐いて吸って吐いてを、ただひたすらに繰り返しました。それでも気持ち悪さはなかなか出ていってくれず、涙も鼻水もだくだく流しながら、時折胃酸をも吐き出しながら、しばらく、その場に(うずくま)っていました。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ