020-決着と問題と
最後の俺の拳は意外なほど簡単に砦虫の甲殻を突き破り、ヤツの背中(?)に突き刺さっていた。
あまりの貫通力で、腕の根元まで埋まってしまったほどだ。
俺は不思議に思いつつも、ちょうどいいのでそのまま一気に魂のエネルギーを吸い上げ、このデカブツを仕留めにかかる。
『キチ……』
「『うるせぇ。美味いから死んでろ』」
空腹が過ぎる肉体に、極上のスープが満ちてくる。
量的にはカラカラのスポンジに少量の水を垂らした程度のものだが、俺にとってはそれでもありがたい。
「『しかし……どんな生物でも1匹分ってのは理不尽じゃないか……?』」
物語なんかでは強い生物は強い力を持っているものだが、この星ではどんな生物も魂の力はおおよそ一定だ。
いや、あの地下通路の鈍い生物たちは妙に少なかったが、それ以外の場所では常に同じだった。
正直言って物足りないが、とりあえず村の脅威が取り除かれただけでも良かったと考えるべきだろうか。
「おい、こいつは何をやってるんだ?」
「食事だろう。虫の中身を啜るらしい」
「げぇっ」
「『違っ』、チガウ!」
腕を刺したままにしていると、ヤグとダイエンはそんな勘違いした会話を始めた。
そういえばヤグはそんな勘違いをしたままだったのだ。
確かに俺が啜っているのは中身といえば中身だが、謂わばそれは魂のエキスであって、虫の体液じゃあないのだが。
俺はエネルギーの吸い残しがないように全てを吸い尽くして、腕を砦虫から引き抜いた。
半透明の黄色っぽい液体が溢れてきて、何だか少し気持ち悪い。
そしてその際、ヤツの甲殻の一部がばきりと割れて、ボロリと崩れ落ちるのが目に入った。
「『んん? あれ、脆い……』」
あれほど硬かったはずの甲殻が、なぜこんなにも脆いのか?
分厚くはあるものの、拾ってみれば恐ろしく軽く、力を込めればあっさりと割れてしまう。
これでは普通の虫の外骨格を普通にサイズアップしただけのものだ。
「不思議か?」
「ハイ」
「魔法を知らなかったな……砦虫は魔法で体を強化する。俺たちもやるが、こいつのような防御型は、頑丈さに寄った強化を見せる場合が多い」
俺が首を傾げていると、それを見たヤグが答えを教えてくれた。
彼はそこらへんにある石を拾うと、手を光らせてそれを握り込む。
すると次に彼が手を開いた時、そこには粉々になった石片が存在していた。
それほど力を込めたようにも見えなかったので、どうも魔法での強化というのはかなりの強さを誇るらしい。
あと砦虫は光っていなかったが、人間は光を放つようだ。
その辺りの原理は俺にはさっぱり分からないので、そういうものなのだろうと思っておくことにする。
「『なるほど』」
「……ところで」
「お前、その服の青いのは何だ」
ヤグが何か言いづらそうに口を開いた時、横からダイエンが口を挟んできた。
「? 『ああ、これか』」
何のことかと思って自分の身体を見下ろしてみると、確かに青いシミが大量にできている。
これは最初の突進でボロボロになった時の、俺の血液だ。
「『アー、ンー?』」
「お前の血か」
「! ソウ、血!」
語彙力がないのでどう説明したものかと迷っていると、ダイエンが答えを言ってくれたので、便乗することにする。
やっぱり言葉は早急に覚えないと、不便極まりない。
どこかで言葉の書かれた本でもあればいいのだが……いや、読めないのでそれでは覚えられないかも知れないが。
などと俺が呑気なことを考えていると、ダイエンが大きなため息をついた。
「そうか。しょうがねぇな」
「……むぅ」
「『ん、あれ?』」
どうも二人の様子がおかしい。
これが俺の血だと、何か問題があるのだろうか?
「村長のところに行くぞ。ついて来い」
そうして俺は二人に連行されるように、他の家より少だけ立派な家に連れて行かれることになった。
ただその前に、ジャールたち3人に砦虫の討伐を村人らに伝えてもらうよう頼むのは忘れなかったが。
◇◇◇◇◇◇
俺たちが村長の家に着いた時、村長は家の前に立っていた。
砦虫の襲撃のことを考えると、彼は逃げずにここにいたということだろう。
彼は俺たちの姿を認めると、一瞬だけ安堵したような表情を見せたかと思うと、俺を見て大きくため息をついた。
「砦虫は死んだか。とりあえず良くやった」
「おう」
「ありがとうございます」
「だがそうか、嫌なことはいつも友人を連れてくるというものか……」
「村長……」
「とりあえず、報告は中で聞こう」
村長はそう言うと、自宅の中へと入っていく。
俺たち3人もそれに続いて村長宅に入ると、彼の家はサイズこそ大きいが、間取りはヤグの家とそう変わらないものであった。
土間に板の間。違うのは多少の間仕切りがあること、それとやたらと装飾品が多いことだ。
家屋は和風味があるが、置いてあるものは土産物のような像、何かの石や護符、丸薬の瓶、そしてあれは丸い……鏡?
金属っぽい反射板のような大きなものが壁際に置かれており、そこには確かに景色が映り込んでいる。
銅鏡というものなのかも知れない。何かの祭具、あるいは呪具というヤツだろうか?
いや待て、鏡があるということは、自分の姿を確認できるということだ。
何故村長がこんなものを持っているかは分からないが、これはチャンスではないだろうか?
俺はついて行く途中にスススと銅鏡に素早く近寄って、その反射面を覗き込んで見た。
「む? おい?」
「『ひぇっ』」
後ろを歩いていたヤグに不審がられたが、俺にはそれどころではない。
何せ思わず声が出てしまうほどに、俺にとってはショッキングな光景だったからだ。
肌は完全に紫色で、頭髪は白に近いがこれも薄い紫。顔の作りは多少若返っているが、少なくとも大人のそれなので特に問題はない。
しかし瞳がひどい。白目の部分は真っ黒で、黒目の部分が真っ赤。
正しく悪魔のような外見と言って遜色ない見た目だったのだ。
ちょっとしたホラーのようで、ぶっちゃけて言えばちょっと怖い。
「おい、行くぞ」
「『あっ』ゴメン」
などと俺が鏡に見入っていると、背後のヤグに急かされてしまった。
確かに村長を待たせてはいけないだろう。
彼はこの村の権力者だ。
「気になるか?」
しかしその村長はそんな俺を見ながら、目を細めて俺に問いかけてきたのだ。
昆虫食(魂)。
リアル昆虫食は、ちょっと風味の活かし方が分からなくて難しいですね。
ソイミートは味付けを濃くすれば大体何とかなるのに!




