021-今後の話
「まぁ気になるだろうな。だが先ずはこちらへ来い」
村長は鏡に気を取られる俺にそう言うと、板の間へ上がっていった。
俺もそれに続くようにして、(足を拭く布を要求してから)板の間に上がる。
「座ると良い」
「はっ」
「おう」
「ハイ」
そして促されるままに植物を編んだような敷物の上に座ると、村長はそれを見てから口を開いた。
「結論から言おう。もうお前を村に置いておくことはできなくなった」
「『はえ……?』」
「それと言うのも、お前が魔物であると言うことが確定してしまったからだ」
どうも自体は俺が思っているよりも深刻であるらしい。
ここに連れてこられることになったのは青い血が原因であるから、つまりこれが魔物かそうでないかを見分けるポイントなのだろう。
であるならば、この青い血塗れの服は都合が悪すぎる存在である。
「血……?」
「分かっているなら話が早い。青い血は魔物の証。その姿は村人らが目撃しているはずだ。である以上は、言い訳も立たん」
しかし問題は、そもそも俺が魔物であることが何故それほどまでにいけないことなのか、と言うことである。
何故それほどまでに拒絶されているのか、そして誰に対して言い訳をしなければならないのか。
「良く分からんと言う顔をしているな」
「ハイ……」
そういう文化であると言われればその通りではあるが、こうして会話すれば分かり合えるではないか───などと考えてしまうのは、おそらく俺が差別を経験したことがないが故なのだろう。
「簡単に言えば、魔物とはあらゆる生物に敵対する生き物なのだ。姿形も強さも千差万別であるが、とにかく見境がなく凶暴。人型もいるにはいるらしいが、会話も意思疎通もできんそうだ」
「え、こんなのが他にもいるんですかい?」
「そうらしい。だが言った通り、会話は通じん。つまりお前は、少なくともワシが知る限りにおいて、唯一の例外であるのだ」
村長の言うことは、なるほど分かりやすかった。『なるほど』と言えたら間違いなくそう相槌を打っていただろう。
つまり本来であれば、俺が最初に降伏したことも、捕まって問答をしたのも、あり得ないことだったのだ。
俺のような人型がいるというのはダイエンも知らなかったようだが、たとえ知っていたとしても何一つ対処法が変わることはない。
そのような生き物と認識されているからこそ、俺に聞こえる言葉が『魔物』という言葉になっているのだろう。
「であるから、領主や魔導協会にとっては魔物はとにかく排除対象とされる。砦虫も出たから、報告せんと言うわけにもいかん。それは村のためにはならんだろう」
領主は分かるが、魔導教会とは何だろうか?
名前からして宗教のように聞こえるが、宗教が魔導とは随分とカオスな組み合わせに聞こえる。
「……もうしばらくは時間があると思っていたんだがな」
しかし俺のそんな疑問をよそに、村長はそう口にして、またも大きくため息をついた。
確かに砦虫さえ出なければ、俺が血塗れになることもなかったし、領主に報告する必要もなかっただろう。
あの虫の出現は俺にとって、ひどく都合の悪いことばかりだったらしい。
いや、あんな化け物が村を襲うことで都合のいいことなど、そうそうあろうはずもないのだが。
「追い出す前に一つ聞いておきたい。お前はこの世界の人間なのか?」
「村長?」
話がひと段落したと思ったところで、村長は唐突に、そんな質問を投げかけてきた。
何をどうしてその結論に至ったのか、俺には分からない。
現にヤグも疑問の声を上げているし、あるいは彼の妄想からの質問であったのかも知れない。
だが俺にとって、それは真実をついた問いであった。
「イイエ」
「はぁ?」
「そうか」
村長はそう言って少し笑った後、天を仰いだ。
ヤグもダイエンも信じられないといった顔をする中で、彼だけは納得といった顔をしている。
「お前が言葉を話せるようになったら、もっと様々なことを聞きたいと思っていた……残念だ」
彼はやはり好奇心旺盛で、頭の回る人物だ。
それでいて、思いやりも責任感もある。
そうでなければ、俺を村から逃すという選択は取らなかっただろう。
それこそ好奇心の赴くままに俺からあれこれ聞き出して、知らぬ顔で領主に引き渡せばよかったのだから。
見知らぬ土地で、最初に訪れる村の村長がこのような人物であるなどと言う可能性は、いったい如何程であるのか?
やはり俺は幸運であったのだ。
「だが真実にそうであるなら、教えておかねばならないことがいくつかある」
「ハイ」
「一つ目は、気をつけるべきことだ。王、領主、貴族などの支配者には近づいてはならん。よしんば殺されなかったとして、捕えられれば碌なことにはならんだろう」
先ほどの情報が本当であるなら、これは当たり前のことだ。
彼の言からしてこのあたりは専制政治であり、そうであるならばトップが腐敗していない可能性は考えにくい。
たとえ腐敗していなかったとしても俺が公平に扱われる可能性など限りなく低いし、良くてペット、最悪は実験動物といったところか。
「だがお前にとって最も危険なのは、魔導教会と呼ばれるものだ。連中は魔法を崇めていて、逆に魔物を絶対悪として駆逐を掲げている」
それは先ほども出ていた名前だった。
魔法を崇める宗教とは奇妙であるというか、それはひょっとして邪教の類なのではなかろうか?
いやしかし、魔物を駆除するのは良いことのはずだ。
俺的には何じゃそりゃというような存在であるが、この文化圏においてそれが普通だというのであれば、この場合の異端は俺の方なのだろう。
「無論、人間にとってそれは必要なことだ。だが連中にとって、お前という存在は許容できるものではない。だから今回のことが報告されれば、おそらくお前は追われることになる」
村長の警告は今までの人生で聞いた中でも最も深刻な部類のもので、同時に俺にとってはあまりにも現実感のない響きを持っていた。
なんて男臭い空間なんだ……。
男4人で、そのうち2人はマッチョ!
うーんこの。
あと、味方側の頭のいい善人って、書くの超難しい。




