亮太へ
……亮太。これを聞いている時、俺はもうこの世にいないだろう。
……一度やってみたかったんだ、これ。いや、実際やると、思ってたより変な気分だな。まだ生きてるし。
で、どうだ。元気にしてるか。
……元気なわけないか。これ聞いてるってことは、そういう約束だからな。参ってなきゃ、こいつは加奈の引き出しの肥やしだ。
元気な時に聞かせても無駄だからな。物語だってそうだろ。一回ちゃんと落ちるとこまで落ちないと、大事なことに気づかない。現実でまでそんなのに付き合わされるのは腹立つけどな。
当ててやろうか。あのノート、とっくに企画書にしたんだろ。上司はかなり話のわかるやつみたいだが、あの会社では難しいかもな。たぶん通らない。で、それでも諦めきれずに、別の場所に持ち込むなりして、知らない大人に頭を下げたりしてる。
俺のノート抱えて、俺の代わりにやらなきゃって勝手に張り切って、空回って、今、部屋で一人でこれを聞いてる。
……当たってるだろ。
お前の取扱説明書なら、俺が世界で一番詳しいってだけの話だ。何年の付き合いだと思ってんだ。
本題いくぞ。一個だけだ。
俺になろうとするな。俺の代わりはお前にゃ無理だ。
あのな、俺は天才だ。自分で言うが、今さら謙遜したって始まらないだろ。だがな、天才ってのは、一人じゃ何ひとつ世に出せないんだ。
『Dear Loneliness』は俺が書いた。
けど、あれは亮太がいなかったら世に出てない。即売会の申し込み、CD焼き、ジャケット印刷、ケース詰め、当日の売り子、告知。俺が「もうちょっと直す」とか言ってる間に、全部片づいてた。俺がやったのは、締切を破って怒られることくらいだ。
世間ってのは、書いたやつの名前しか覚えない。でもな、作品は書いただけじゃ届かないんだ。届けたやつがいる。
ちょっと昔な、ゲーム会社で絵を描いてたやつがいた。そいつには、文章を書く化け物みたいな友だちがいた。自分じゃ同じものは書けない。でも、信じた。絵を描いて、場所を作って、仲間を集めて、何なら生活費まで出して、同人ゲームという形にして世に出した。
書くやつと、届けるやつがいる。そうやって初めて届く作品があるのは、よく知ってるよな。
スマホでもバイクでもウォークマンでも、なんだってそうだろ。ひとりの名前で語られがちな会社だって、実際は相棒がいて、その後ろに大勢の手がある。
……まあ、何が言いたいかはわかるだろ。
お前は物語を書く側の人間じゃない。絵も描けない。プログラムも、まあ、無理だろうな。
でも、それで俺の隣にいた意味が消えるわけじゃない。
亮太がいたから、俺は最後まで書けた。俺が机の中で腐らせるはずだった孤独を、外に出してくれた。それを才能と呼ぶかどうかは知らんが俺は呼ぶ。文句あるか。
高校ん時から思ってたよ。お前ってさ、ただゲームが好きなだけの連中とも、俺みたいな変なやつとも、どっちとも普通に話せただろ。
俺の大っ嫌いなバスケ部とも、なんだかんだ仲良くやっててさ。そもそも名前が亮太だもんな。バスケ部の連中からしたら、そりゃおいしいだろ。俺が何度お前の名前に救われたかわかんねえぞ。
俺がゲーム作るって言ったとき、笑わなかったよな。手伝いたいって言った。
あれがどれだけ嬉しかったか、言ったことなかったな。
ノートの話もしとく。先に白状する。ちゃんと詰めてあるのは一章までだ。二章から先は、まあ、アイデア帳だな。スマホだのコラボだの採算だの、俺らしくもないこと書いてあるだろ。会社で通すにはああいうのが要るんだろうなって、俺なりに考えたんだ。柄じゃないけどな。ただ、初期キャラと一章の芯は悪くない。そこは自信がある。
だから、二章から先は好きにしろ。俺に遠慮するな。なんならキャラクター殺して新章を始めたっていい。
それとな。ストーリーを書けるやつなんて、だいたい面倒くさいぞ。満たされて、健康で、毎日楽しくて、それで誰かの心を動かせるものが書けるか。いや、書けるやつもいるかもしれないけど、少なくとも俺は無理だ。
こんな体だったから見えたものがある。それは後悔してない。……してないけど、まあ、しんどいもんはしんどい。かっこつけきれないな、これ。
そんなもの、書けないくらいのほうがいいんだよ。そっちのほうが、たぶん幸せだ。普通に生きられるやつのほうがさ。
だから、俺になるな。
その代わり、もし目の前に、俺みたいに人生をこじらせたまんま、それでも物語を書かずにいられないようなやつが現れたら、逃すなよ。首根っこ掴んで言ってやれ。これは面白い、世に出すべきだって。
いつまでも昔の女を想ってないで、新しい女を見つけろって話だ。……もののたとえだからな、わかってると思うが。
忘れろって言ってるんじゃない。俺を言い訳にするなって言ってるんだ。
俺の企画だから変えられないとか、俺の続きだから失敗できないとか、そういうのは全部なしだ。俺は文句を言えない。死んでるからな。……生きてたらめちゃくちゃ言うだろうけど。
どうせ今ごろ一人で背負って迷走してるんだろうから、最後にヒントだ。
いいから一回、落ち着いて周りを見ろ。答えは、たぶんもうある。
絵を描けるやつ。コードを書けるやつ。現場を回せる大人。腹の底に物語を抱えてるやつ。たぶん、いる。いないなら探せ。何をしてでも捕まえろ。
ゲームってのは、そういう連中が揃って初めて形になるんだって思う。まあ俺の想像だけどな。その辺は会社勤めしてたらよーくわかってるだろ。もうとっくに、その真ん中にいるはずなんだよ。気づいてないのは、たぶん本人だけだ。
自分には何もできないと思ってるかもしれない。けどな、そこに集まったそいつらが、亮太がやってきたことの証明なんだよ。
俺にとっても、まあ、その、けっこう眩しかったよ。
俺はやり切ったから悔いはない。だから、俺が残したもんを、呪いにすんな。誓いにするかどうかは、自分で決めろ。大丈夫、仲間はいるはずだ。
……ふう。喋ったな。こんなに喋ったの、久しぶりだわ。最近すぐ疲れんの。
ま、こんなもんか。
じゃあな、亮太。元気でな。長生きしろよ。
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