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「さてさて、エドワード様の婚約者でなくなったら、だいぶお暇になりましたね~」
侯爵令嬢であるフランソワは自分の家に戻ってから、しばらく自宅にこもっていた。
傷心であろう娘を気遣って、両親が気を利かせたのだが、当の本人はあまり気にしていなかった。
親同士の決めた結婚な上に、自分の作ったスイーツを食べてくれないエドワードにあまり魅力を感じていなかったからだ。
第4から第7王子は言わずもがな。
第1第2王子までもが、フランソワのスイーツの虜だと言うのに。
「やはり、作ったものを美味しく召し上がっていただけるといいですわね~」
などと言いながらも、フランソワは結婚自体にはあまり興味がなかった。
自分はスイーツを作れていれば幸せ。
あわよくば、それを人々が美味しそうに食べていればなお。
それがフランソワの基本的な考え方だったからだ。
「そうだ!
せっかくならいろいろと新作を考えましょー!」
フランソワはその後、楽しそうに鼻唄を歌いながら、紙にペンを走らせ続けた。
そして、数年後。
ある国のある洋菓子店には、今日も朝から長蛇の列が出来上がっていた。
「聞いたかっ!
今日はこの洋菓子店『フランソワ』で新作スイーツが出されるらしいぞっ!」
「もちろん聞いたわよっ!
だから開店前からこの有り様なのでしょう!」
「それに、ここの店主は貴族も平民も平等に1人の客として扱うからな。
前にそれに文句を言った貴族はもう一人の店員と、謎の護衛連中に捕まって、姿を見なくなったらしいぜ!
俺たち平民も通いやすいってのが、なお良いよな!」
「そういや、聞いたか?
ここの店主のフランソワって、どっかの国の令嬢だったって噂だぜ?」
「あのフランソワが?
そんなの眉唾だろ~」
「まーそーだよな~」
そして、今日も洋菓子店『フランソワ』の開店の時間がやってくる。
扉が開くと、並んでいた人々は行儀よく、一人ひとり順番に入店していき、一定の人数になったら入れ替えが済むまで再び待機する。
人々はそんなルールを律儀に守る。
すべては、フランソワのスイーツを食べるため。
「いらっしゃいませ~」
来店した人々はフランソワのほんわりとした笑顔に顔をほころばせながら、店内にただよう甘い香りにつられて、ショーケースに並べられた魅惑のスイーツに吸い寄せられる。
あのあと、フランソワは数年かけて腕を磨き、第2王子の力添えのもと、他国で洋菓子店を開いていた。
この店にちょっかいを出そうとする不届きな輩を排除しているのは、部下に密かにちょいちょいスイーツを買いに行かせている第2王子の手の者だった。
そして、それ以外にもそれに協力しながら店を守っている店員が1人。
「ほら兄ちゃん!
早くしてくれよ!」
「は、はい!
ただいま~!」
「エドワード様。
笑顔ですよ、笑顔」
「あ、ああ。
分かったよ、フランソワ」
お客さんに急き立てられ、フランソワにたしなめられているのは、あの時、フランソワに婚約破棄を言い渡したエドワードだった。
あのあと、話を聞いた王様と第1王子にこっぴどく叱られた傷心のエドワードは、第7王子に差し出されたフランソワのプリンを食べて衝撃を受けた。
今まで、男が甘いものなど、と言ってフランソワのスイーツを食べてこなかったエドワードはたった一口でその味の虜となり、数年の修行を経て、王子の座を捨てて、他国に店を構えたフランソワを追いかけ、弟子入りしたのだ。
ちなみに、マリアは王子の座を捨てたエドワードからあっさりと手を引いた。
その後、拠り所をなくして困っていたマリアだったが、お情けで第2王子の側室となり、授かった我が子を王にしようと画策したが、本気で怒った第2王子の怖さを味わい、それからはおとなしく子育てに邁進したそうだ。
「あ、あの、フランソワ」
「なんですか~、エドワード様?」
閉店後、エドワードがおずおずとフランソワに話し掛ける。
今やフランソワの方が師匠なのだが、2人は慣れからか、昔の呼び方のままだった。
「その、婚約破棄をした私が、こんなことを言うのも、なんなんだが……
そ、その、おまえのスイーツを作っている姿は、本当に美しい。
叶うならば、これから先もずっと、この命尽きるまで、おまえの側でその姿を見ていても良いだろうか」
エドワードは恥ずかしがりながらも、決意を秘めた目で言いきった。
「いいですよ~」
「え!ホントかっ!?」
あっさりと答えたフランソワに、エドワードは驚愕の表情を見せながらも、その内心はひどく喜んでいた。
「もちろん!
まだまだエドワード様は未熟ですからね~。
私に並び立つぐらいになるまで、逃がしませんよ~」
「あ、いや、そういうことじゃあ……」
「ん?なんですか~」
「あ、いや、なんでもない……」
「そんなことより、新作のプリンが出来上がりましたよ。
ほら、さっそく試食してみましょ~」
そう言って、ほわほわと笑顔を見せて、フランソワはエドワードにプリンを差し出した。
「……はあ。
まあいいか。
よし!さっそく食べよう!」
「はい~」
エドワードはあの時に受け取らなかったプリンを意気揚々と受け取る。
そして2人は、楽しそうに笑い合いながらプリンを頬張るのだった。
フランソワがエドワードの想いに気付くのがいつになるのか。
それはまだ、誰も知らない。




