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有志勇者となって勇者に復讐します。  作者: 鮫トラ
第八章 貴女に全てを託す

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83 光をくれた人


「この先に玉座がある筈です」


 アリスを先頭に長い廊下を警戒しながら歩く。くっつけた左肩を回しながら、エスティアは辺りをキョロキョロと見回す。そんな彼女の黄金の瞳が窓から差し込む光と薄く垂らしてくるライトの光を吸収し、煌めく。

 まるで、永遠と廊下が続くのではと考えてしまう。アリスとエリザもその表情にわずかながらも不信感を浮かべている。エリザの頭に乗っているピーナッツは首を傾げながら天井を見上げている。


「……待って」


 暫く歩いていると、エスティアが立ち止まり口を開いた。全員が振り向くと、エスティアは何かを探す様に見回していた。アリスが訝し気に眉を顰める。

 そんなアリスにエスティアは困ったように笑ったが、すぐに真剣な表情で言葉を続けた。


「玉座はそっちじゃない、と思う」

「……なにを言って」

「……多分、こっちにあると思う」


 そう言ったエスティアは、真剣な眼差しで――なにも無い壁へと手をつき、観察するように見つめた。

 その様子にその場に居る全員の表情が不思議な物を見るような眼差しへと変わる。ただ一人、シュティレを除いて。だが、エスティアがこんな場面で冗談を言うような人間ではないとわかっているエリザとアリスはスっと真剣みを帯びた瞳で彼女を見つめた。


「……」


 無言で見つめるエスティアの表情は真剣そのものだ。黄金の瞳が何かを捉える。それは、漠然とした違和感となって彼女の脳に染み込む。

 おそらく、この壁の向こう側だ。そう誰かに囁かれているような、不思議な感覚にエスティアは従う。いや、従わなければいけないような気がした。

 壁に手を付いたエスティアは、そっと魔力を流す。だが、流す魔力は自分の魔力や魔剣の魔力、シュティレの魔力でもない。彼女の瞳に宿る――黄金の魔力を彼女は壁へと流し込む。


 すると、なにも無い壁に流れ込んだ黄金の魔力が煌めきガチャリ、という音が響く。それは扉の鍵を開ける音だ。風が壁から優しく吹きつけエスティアの頬を撫でていく。

 鼻腔を撫でていく香りに覚えのあったエスティアは、「あっ」と声を出すと、懐かしむように大きくその香りを吸い込む。

 壁に現れた扉から光が溢れ出し、全員を包み込む。全員がその眩しさを感じた次の瞬間――彼女たちの前には全く違う景色が広がっていた。


「ここは……っ!」

「まさか……」


 エリザとアリスの二人が辺りを見回す。その顔には困惑が浮かんでいる。無理もない、一度来たことがあるからこそ、わかる。

 そう、ここは、かつて、魔王と戦った場所。暗闇が支配しようとするかのように薄暗く、濃密な魔力が満ち、高い天井と広い部屋にある玉座。

 そして、そこに座るは――すべての魔物を統べる王と呼ばれし魔王だ。暗闇に照らされているおかげでその姿をはっきりと見ることは叶わない。

 人間にはない異様な雰囲気、と広い部屋を埋め尽くすほどの魔力。だが、一度来たことのある二人は小さな違和感を感じていた。なんだか、以前よりも()()感じがする、と。


「やっと来たわね」


 魔物を統べる王とは思えないほどに若々しく澄んだ声。まるで鈴音のように耳にすんなりと吸い込まれていく声に答えたのはアリスやエリザではなく、エスティアだった。


「そ、んな……まさか、貴女、は……」

「エスト?」


 フラフラと、玉座へと近づくエスティア。シュティレが不安げに声をかけるのも聞こえないかのような足取りで。だが、その表情はなにか確信めいたものを掴んでいるかのような。


「エストさん! 危険です!」


 相手はあの魔王だ。魔剣を持つエスティアといえど、瞬く間に殺されてしまうに決まっている。脳裏に、あの時の圧倒的な力を目の当たりにした時の絶望感が浮かび上がったアリスは彼女を止めようと、聖剣へと手をかけるが――制すようにシュティレの手がアリスの肩に触れる。

 アリスがどうして止めるのかといいたげに振り向くと、シュティレは微笑むだけで何も言わなかった。だが、それはアリスを止めるには十分。いつでも飛び出せるように警戒したまま、彼女たちはエスティアへと顔を向ける。

 全員が見守る中、手を伸ばせば魔王へと届く距離まで近づいたエスティアは今にでも泣きそうな顔で魔王を見つめていた。


「エスティア」


 立ち上がった魔王がそう名前を呼ぶ。そのことに、アリスとエリザが瞳を見開く。シュティレは表情を変えずに見守る。だが、その青色の瞳はどこか寂し気だ。


「まさか、まさか……っ!」


 名前を呼ばれたエスティアは、パァッと笑顔を作ると、そのまま両手を広げる彼女へと飛び込むように抱き着いた。すると、抱き留めた彼女はそっと背中へと手を伸ばし、抱きしめた。エスティアはグッと唇を噛みしめる。

 その様子に、アリスとエリザの二人が貌を見合わせる。そして、ぎこちない動きで、再びエスティアと彼女を見つめた。


「あ、あぁ……やっと、やっと……会えた……っ」


 抱き着いたエスティアはグリグリと彼女の首筋へと額を擦りつける。その姿は、まるで迷子になっていた子犬が母親でも見つけたかのようだ。抱き留めている彼女は口元に微笑みを浮かべながら、「エスティア」と優しく囁き彼女の黒髪を撫でる。

 あぁ、この感覚。間違うはずがない。エスティアは唇を強く噛みしめ泣いてしまうのを何とか堪える。そして、ゆっくりと顔を上げ、フードに隠れる彼女の顔へと精一杯の笑顔を向け――


「ユーティナ……ッ!」


 そう呼んだ。ずっと、ずっと、会いたくて、会いたくて、姿を見たくて仕方のなかった人。光を失ったエスティアへと再び世界を見る光を与えた彼女の姿は美しかった。

 フードを取った彼女の姿が、暗闇から差し込む薄明りに晒される。天空の塔で見た神族など霞むほどの美しい、黄金色の髪。降り注いだ月光でも浴びているかのように白くも幻想的な肌。閉じられた瞼にどうしようもなく心を痛めながらも、美しいなんて言葉では足りないほどに、目の前の彼女の幻想的な姿にエスティアは口を開いたまま固まってしまう。

 再開の嬉しさと感動が入り交ざり、息をすることすら忘れて魅入ってしまう。そして、わかっていたかのようにこの考えが浮かぶ、“私は、この人から光を貰った”、のだと。

 魔法や魔術では作ることのできない“瞳”。それを無くしてしまった者が再び光を手に入れる手段なんて限られている。そして、目の前のユーティナを見つめながら確信したエスティアは、黄金の瞳を潤ませ、まっすぐユーティナを見つめた。


「ユーティナ。こうやって、会えて本当に嬉しい。ずっと、会いたかった……っ」

「エスティア……あの時は、ごめんなさいね。貴女を一人、置いて行ってしまって」


 悲し気に口元を歪めるユーティナに、エスティアは首を横に振る。


「いいんだよ。こうして、また会えたんだから」


 体を離し、キュッとユーティナの両手を握ったエスティアに、彼女は微笑む。


「強く、なったわね」

「……周りのおかげだけどね」


 ニヒッと笑うエスティアの頭を撫でたユーティナは、コホンと咳ばらいをすると、呆気に取られたような表情で固まっている全員を見回し、口を開いた。

 再会の喜びを噛みしめるのはここまでということだろう。緩んだ表情を正したエスティアはシュティレの隣まで戻ると、彼女の言葉を待つ。

 シュティレはそんなエスティアの手をそっと握る。


「ようこそ、英雄たち。以前とは見違えるほど強くなりましたね。ずっと、貴女たちが来るのを待っていましたよ」


 アリスとエリザは、複雑な表情を浮かべる。魔王に褒められるとは、以前であれば想像もできなかったからだ。


「……待っていた、というのはどういうことですか」

「言葉通りの意味です。私は、貴女たちが()()()()()()()()()()()のを、待っていたのです」


 その言葉に全員が驚いたように声を漏らす。特に、エスティアは意味がわからないと言いたげに瞳を見開き、唇を僅かに震わせる。

 どうして、どうして、ここに来るのが初めから決まっていたかのような言い方をするのか。エスティアはそう言ってしまいそうになる。が、確証もないのにそんなことは言えない。

 瞼を閉じていながらも、ユーティナはまるでそこにいる全員の表情が見えているかのように微笑みを浮かべると。パチンと指を鳴らす。


「――それは……いや、やっぱり……」


 ユーティナは右肩へと降り立つように現れた一羽の鷲。ホワイトブロンドで、光を振りまくかのような羽をはためかせた鳥は黄金色に輝く瞳でエスティアを見つめる。その姿に覚えのあったエスティアは静かながらも驚きの声を上げ、ジッと動かない鳥を指さす。

 確か、夜に船でエスティアの近くのに舞い降りた鳥だ。思い出したシュティレは、その鳥に違和感を感じる。あの船で見たよりも以前に、似たようなものを見たことがあるような。

 シュティレへと顔を向けたユーティナが微笑む。その姿はまるで、彼女を知っているかのように感じ、シュティレは思わず顔を逸らした。


「私は、この子の目を借りて、ずっと貴女たちを見ていました」

「な、なんで……」


 エスティアが困惑染みた声を漏らす。


「私はずっと、待っていたのです。いつか来る、災厄の時からこの世界を守るために」

「は……? さ、災厄……?」

「貴女たちも見たでしょう? 五年前とすっかり変わってしまった世界。おぞましい化け物に魔物が喰らい尽くされ、まだ足りないと人間まで喰らい始めたアレを」


 エラーのことを言っているのは明白。エスティアが拳を握り締める。


「でも、それが何で……私がここに来たことと関係あるの?」


 そう疑問を問うのは無理もない。世界が危機に陥っているのなら、聖剣を持つアリスや、王国勇者のエリザたちだろう。だが、彼女は“エスティアを待っていた”のだ。

 全員、似たようなことを考えているのだろう。不審と不安の混じった視線に射抜かれながらも、ユーティナは肩に止まる鳥の首を撫で、答える。


「それはね、世界を救えるのは――エスティア、貴女だけだからよ」

「へ? あ、いや、え……?」


 再び間の抜けた声が響く。咄嗟に「冗談でしょ」と言いたくなるが、言えなかった。彼女に目が無くとも、まっすぐこちらを見つめ、冗談ではないと言っていると考えずとも感じ取ったからだ。が、エスティアは表情に影を落とすと、言葉を続けた。


「……そんないきなり、世界を救うとか言われても意味わかんないよ。そもそも、私がここに来たのは……そうだ! ユーティナ!」


 再びユーティナの両手を握ったエスティアは鬼気迫った表情で迫る。その握り方は先ほどのような手の温度を確かめるようなものではなく、ただ力任せにしていることに気が付いた彼女の表情に影が射し込む。


「アイツは、スライはどこにいるの! もし、知っているなら教えて!」


 そう、ここに来た理由は世界を救うためでも、頼まれた魔王退治をするためでもない。ここに居るかもしれない、家族を殺したクソ野郎をブチコロスためである。それ以外のことなど、正直どうでもいいと考えているエスティアの黄金の瞳がギラギラと目の前の彼女を睨む。

 憎悪に取り憑かれ、邪悪な魔力で黒ずみ始めるエスティアの瞳に、ユーティナは悲し気に口角を下げると。睨むエスティアの頬へと手を伸ばす。


「エスティア、随分と無理をしてきたのね」

「ユーティナ! スライを知っていた、ら……おし」


 カクン、とエスティアの体から力が抜け、その場に膝を付く。シュティレが咄嗟に駆け寄ろうとするが、ユーティナはニコリと笑って「大丈夫よ」と言った。まるで、言い聞かせるようなその優しい言葉にシュティレは反射的に頷き、立ち止まってしまう。

 シュティレが立ち止まったことにより、他の二人も勢いを失ってしまったのだろう。成り行きを見守るしかないと言いたげに立ち尽くす。


「ユー、ティナ……なに、を……」

「大丈夫。少しだけ、大人しくしててね」


 そう言われて、エスティアは従うほかない。体の力を抜き、彼女を見上げたエスティア。


「いい子ね」


 その言葉に思わず頬が緩む。この言葉が大好きで、言われたくて、よく自分から手伝いを申し出たなと思い出す。

 ユーティナの手が滑るように頬を撫で、瞳の縁を撫でる。その触り方がくすぐったくて、思わず笑ってしまいそうになるが、真剣な空気を感じ取り、必死に表情を繕う。すると、キラキラとした何かが目の奥で光っているような不思議な感覚を感じる。

 いったい、何をしているのだろうか、と考えたその時――


「あれ……声が()()()()()()()()……?」


 エスティアはそう言って、自分の額に手を当てる。別に、耳がダメになったわけではない。いつも、いつも、囁くような“コロセ”と言う声が聞こえなくなったのだ。そして、それが消えると同時にエスティアは脳が妙にすっきりしていくような感覚も感じていた。

 まるで、体の中にある悪いものが減っていくような、不思議なそれに、エスティアが不安を浮かべる。


「もう少し遅かったら、ちょっと危ないことになっていたわ。まったく、相当ツラかったでしょう」

「それは……って、なにをしたの?」

「貴女の中にある魔剣の魔力を少し減らしただけよ。ほんと、よく正気を保ってられたわね」


 言葉の割にはカラカラと笑っている辺り、エスティアが正気を失うなど微塵も思っていないのだろう。エスティアが不満げに口を尖らせると、彼女はまた、カラカラと笑う。


「……でも、これで準備は整ったわね。エスティア」

「ん? な、なに?」

「魔剣を見せてくれる?」

「え? あ、うん。い、いいけど」


 不思議に思いながらも、エスティアは彼女の指示に従い、腰に収まっている魔剣を鞘ごと渡そうとする。が、その前に彼女の手が違うと言いたげにエスティアの手を取り、魔剣の柄を握らせる。


「抜いて見せて」


 こんな近い距離で抜いて平気かと思ったエスティアだが、余裕な笑みでいる彼女に何も言うことができず、エスティアは素直に頷き、魔剣を引き抜くと漆黒の刀身を彼女へと見せた。

 最初の頃より禍々しさを増したその剣からは、もやがかかったかのように赤いような黒いような魔力が纏わりついている。普通であれば、それを見ただけでその魔力にあてられ気分が悪くなるのだが、目の前の彼女はまるで慣れているかのような表情で刃を撫でる。


「随分とため込んだのね。これなら、もう少しで」

「ユーティナ……?」


 おそるおそる、エスティアは彼女を呼んだが、聞こえていないのか、ユーティナは魔剣の切っ先を自分へと向けさせ、魔剣を握るエスティアの右手に自分の手を重ねる。その行動に意味は分からなくとも、とてつもなく嫌な予感が体を走り抜けたエスティアが叫ぶ。


「待って! ユーティナ、なにして……っ!」

「エスティア」


 エスティアの手を握る彼女の手に力が入ったのがわかる。切っ先が彼女の胸に突き刺さるまであと数センチ。


「ユーティナ! 離して!」


 その叫びが聞こえないかのような彼女が微笑む。そして――


「エスティア、私を殺しなさい」


 その言葉と同時に、魔剣は――彼女を貫いた。



 

 


次回更新日は2019年4月13日(土)を予定しております。

三日以内更新がなかなかできず、申し訳ありません。

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