表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リベンジですよ、汚嬢様!  作者: 天川 七
番外編 ライバルですよ、汚嬢様!
31/44

4、汚嬢様、それこそが恋と自覚する! 前編

*汚嬢様にしては汚れが足りなかったので内容を修正しております。

 第五皇子が主催した舞踏会はそれぞれの地域で催されるようで、ミア達の領地内でも大きな屋敷を開放して行われていた。ミアとオスカーは招待状を確認されると、高い天井と豪華な装飾が施された室内に受付係に案内される。窓縁さえ金を使っていることに感嘆していると、開け放たれた扉がミア達の前に現れた。


 目に眩しいほど蝋燭が灯された室内には、貴族の女性や権力者、平民の中でも富裕層が多くおり、派手なドレスやタキシードが目立つ。壁際に固まり、居心地が悪そうにしている若い青年達は招かれた兵の方々だろうか。彼等はいち早く自分たちの上官を見つけると一様に背筋を伸ばす。オスカーが軽く右手を上げて頷くと、ほっとした様子で身体の力を抜く。その様子から、普段から厳しく訓練されていることがよくわかった。


 二人が広間を歩き出すと人々の視線が向けられ始め、僅かばかり空気が揺れる。二人の醜聞と婚約を知る貴族達が噂しているのだ。


 年若い女性達はオスカーの隣にミアがいることにショックを受けた様子で、彼の名をか細く呼ぶ声も聞こえる。今日のオスカーはミア同様にパーティ衣装に身を包んでいた。白いシャツと紺色のベストに同色のジャケットを着込み、スマートな着こなしで男振りを上げている。そんな彼がミアを守るように愛しげな目を向けているのだのだから、当然その視線はこちらにも移るわけだ。


 ミアは嫉妬や羨望の混じった女性達の目を受け流し、優雅に微笑む。そうして、エスコートしてくれるオスカーにそっと囁く。


「あなたのせいで無駄に視線を浴びている気がするわ」


「オレだけが理由じゃないぜ?」


「わかっているわ。私の醜聞のせいでしょう?」


「それもあるが、今日のお前が美しいからだろう」


「……あんたなに企んでるの?」


 怪訝そうに声を潜めたミアも今日ばかりは若葉のような色合いの黄緑のAラインドレスに身を包んでいた。宝石を散りばめたものを装う貴族の女性が多い中、ミアは繊細な花の刺繍のドレスを選んだ。赤い髪はばあやと侍女の手により一つにまとめて結いあげて髪留めで留められている。首飾りは複数のダイヤモンドが首全体を覆う豪華なもので、これは父が生前の母に贈った品であり、成人と共にミアが受けついだものだ。


 ミアの疑いの目を受けて、オスカーは一瞬虚を突かれた表情をした。それはすぐに取り繕ったために消えたが、ミアはますます怪訝な気持ちを強くした。


「おいおい、婚約者の言葉を疑うのか? お前の顔立ちははっきりしていて造作も悪くはないだろう? そこにしっかりと化粧を施せば驚くほど美しい女になる。今ならお前が姫と呼ばれても疑いを持つ男はいないだろうよ」


「ふふっ、随分と褒めてくれるじゃないの。リップサービスのつもりかしら? そんなことをしなくてもオスカーの頼みなら協力するわよ?」


「だから深い意味はないと言っている。まったく素直に受け取ればいいものを」


「あら、私は自分の身の程を知っているだけよ」


 ゆっくり歩き出したオスカーにエスコートされたままミアも足を動かす。小声で話しながらもつい拗ねた口調になってしまって恥ずかしくなる。これじゃあ、まるで子供のようだ。オスカーがため息をつく。悪かったわね! 面倒臭い女で。


「……あいつのせいか」


「なによ?」


「いや、こっちの話だ。気は進まんが暑苦しい視線を送ってくる連中に挨拶に行くか。終わったらワインでも飲もうぜ。ここなら上等なものが揃っているだろう」


「ええ。今年のワインは出来がいいそうよ」


「ほぉ、そいつは楽しみだな」


 面倒なことをしなければいけないのだから、このくらいのご褒美はあってもいいだろう。オスカーの緑の瞳が期待に煌く。一緒に飲んだことはないけれど、その様子から見ても飲める口のようだ。ミアも父に似たのかお酒には強い方だ。これなら婚姻後も晩酌を一緒に楽しむことも出来るだろう。


 自然とそこまで想像して、ミアは赤面しそうになった。当然のように婚姻後のことまで考えていた自分に気付いたのだ。私ったら浮かれているかしら? こんな社交場で気を抜くなんて今まで一度もしたことがないのに。


 ミアが思考に深く沈みそうになっていると、横幅が広い壮年の男性が近づいてきた。初っ端から面倒な男に当たったわね。ミアは内心ため息をつきたくなりながらも澄ました顔で男と対峙する。男はカエルに似た顔にいやらしい笑みを浮かべて話しかけてくる。



「どこの姫かと思えば、ミア嬢でございましたか。今夜は一段とその美貌が輝いていますなぁ。これもご婚約者に愛されている証拠でしょう。そちらがご婚約者のウォンクル将軍ですかな?」


「いい夜ですわね、ガンジィス子爵。ちょうどご挨拶に伺おうと思っていましたの。ふふっ、詳しい紹介はいらないかしら、ご想像通り、こちらがわたくしの婚約者のオスカー・ウォンクルですわ」


「やはりそうでしたか! いやぁ、ご活躍は私の耳にも届いておりますよ! 商家の出であるお父上をお持ちの貴方様が、男爵から一気に伯爵の地位まで上り詰めるとは、一体どんな魔法をお使いになられたのでしょう? この機会にぜひお聞きしたいものですなぁ」


 男は周囲に聞こえるような声で当て擦る。耳障りな言動だ。それではまるでオスカーが商家のお金にものを言わせて地位を買ったように聞こえる。いや、実際そう言いたいのだろう。思わずミアが口を開こうとすれば、オスカーに目で制された。どうするのかと思えば、オスカーは怒りもせずに片目を閉じて笑みさえ浮かべて見せる。


「それでは貴方にだけ特別に教えて差し上げましょう。なに簡単なことですよ。日頃の鍛錬と私の女神のおかげです。なぁ、ミア?」


 ちらりとミアに流し目を送ってみせるオスカーの態度に、周囲からくすくすと笑い声が漏れ聞こえてくる。場の空気を掌握したオスカーの勝ちだ。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ