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puppet play Ⅰ  作者: 乃空
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第16話

ガラスの天井から食卓の間に光が射す。

流れる風に乗って大窓から入り込んだ黄色い鳥がそっとサラの肩に乗る。


「久しぶりだな、黄鳥おうちょう。」

「・・ロッカで人形が?」


微笑んだライズの横でサラが声をあげたその時、扉が音を立てて開き大声が響いた。


「ライズ様、シャンベルシュがロッカへ動きました!!」

「ニック。」


出て行く仕度を済ませているニックにライズは顔を向けた。そのライズにサラは黄鳥からの報告に耳を傾け、伝える。


「・・人形が、人形を襲っているようです。」

「出かける!サラ、ニック、ついて来てくれ。」

「はい。」


サラは黄鳥をそっと空へと戻らせると、白いリボンで黒い髪をゆった。

ニックはライズに鋏球を手渡しローブを渡した。


「Lが揃いもしないうちから・・・」


ニックの言葉にサラは同感していた。

もうあと一日、たった一日あればLはこの屋敷に集い、新たに当主となったライズに忠誠を誓うのに。


「仕方ないさ。・・・早く行こう、人形が人形を傷つけているなんて。その上あのシャンベルシュが動いているなら、尚更。」

「はい。」


門を出ると馬が二頭こちらを見るようにしてたたずんでいた。

一頭は白、もう一頭は黒の美しいたてがみを風に揺らしている。

気品に溢れ、その眼はしっかりと主を持つ者の眼をしている。


「リヴ。」


風にまぎれるように響いたサラの声に、黒馬は尾を振り小さくいなないた。

その馬にサラがまたがると、その隣でニックが声を上げた。


「フィア。」


サラよりも大きなその声に白馬は足をならし、その声の主を背に乗せたとたん、待ってましたと言わんばかりに駆け出した。

その後を黒馬リヴも急いで追いかけていく。

その姿を門前で見ていたライズがそっと呟いた。


「シザンクルス。」


その声が静かに響くとライズの眼が小さく揺らぎ、ライズを心地よい熱が覆った。

紅く揺れる聖火を宿す白き虎が嘲笑うかのように微笑む。


『お呼び?』


何も知らないというふうに言ったシザンクルスに、ライズはそっと手を伸ばし触れると言葉を返す。


「聞いていただろう。ロッカの街外れに連れて行ってほしいんだ。」


ライズがそういい終わる頃、二頭の馬はロッカの街の入り口をその眼に映し始めていた。

それを分かっていても二人はのんびりと門に吹き込む風を感じている。


『人形が人形をね。けれど私が主が傷つくのを分かっていて、そこへわざわざ連れて行くと思う?』

「シザンクルス。」


シザンクルスが、ただ主の命に従うだけの生き物ではないことはライズだって分かっていた。

シザンクルスとは命の契約を交わしているのだから、シザンクルスが最も優先すべきは主の命なのだ。

きっとロッカで暴れている人形の数を知っているから、シザンクルスはそこへ行くのを拒んだのだとライズには分かっていた。

たった3人で相手をできるほどの人形達じゃないことも。


『この間よりももっと酷くなるかもしれない。きっと私は貴方を守りきることができない。』

「・・まだ気にしているのかい?」

『私の仕事は貴方を守りつくすこと。そう誓ったのにできないということは、契約違反に当たるわ。』

「けどあの時は、もし君が炎を放てば俺も丸こげになるところだった。」

『笑えないこと言わないで。』


天に召され、神と呼ばれるに相応しいほどの力を持て余すシザンクルスだからこそ、守れなかった。

ライズは何度もそうシザンクルスに言い聞かせていた。それでもまだ、シザンクルスの心は晴れない。


「お願いだ。」


ライズはその炎に包まれたシザンクルスを優しくなでる。


『行く必要なんかないわ。』

「いや。・・・行かなければならない。」

『・・分かっているわ。私には分かる。きっと今日、全てが動き始めることを。』

「今日か。」

『えぇ。全てが、動く日だと・・分かっていても。その代償はあまりに大きい。』


シザンクルスは哀しそうな声を上げて、そっとライズの手から離れる。

風から伝わる炎の匂いと花の香り。


「なら、共に背負って欲しい。」


その風に包まれて、ライズは揺ぎ無くそういった。


「全ての代償を背負って欲しいがために、君と契約を交わしたわけじゃない。

君に全ての責任を負わせるために、君を遣わせているわけじゃない。共に背負う、それだけでいいんだ。」

『愚かな人間・・・。そんな人間に誓ってしまった私は、きっとそれ以上に愚かなのかもしれないわ。』

「シザンクルス。」

『さぁ、乗って。この世で最も速く駆ける生き物とうたわれる私なら、一瞬で連れて行けるわ。』


赤い炎が大きく風に揺れて勢いを増す。その炎は決してライズの身を焦がしはしない。

しかしシザンクルスに乗るライズを、優しく暖かく包み込む。


「ありがとう。」


そっとライズがそう言うと、その風が一瞬止まったかのようにシザンクルスは駆けた。

運命に逆らう事などできないのだと、心のどこかで感じながら。




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