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puppet play Ⅰ  作者: 乃空
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第14話

明るい太陽の光が天井のガラスから差し込み、美しいガラス細工が浮かび上がる長い机に座る。

そこに並べられた朝食兼昼食を口に運ぶライズの隣で、それを見守るように明るい火を散らして立つシザンクルス。

その広場の入り口には幾人かの見張りが立っている。

明け方近くまで続いていたパーティーが終ったばかりで、皆が疲れた顔をしていた。

ライズはパーティーが嫌いだった。酒を喉に押し込み、嘲笑う声を耳に、繕った言葉を押し付けあう。

貴族の祝い方とはそういうものだ。

主がいようがいまいがいっこうに構わない。ただ自分の富さえアピールできるなら。


「ライズ様!!」


バン、と扉が開くとライズの名を呼ぶその声に衛兵は緩んだ顔を急いで堅くして、剣を扉の前に立つ人物に向けた。

しかしそれは立った一瞬の事で、衛兵がその人物が誰かということを認識するより早く

黒い髪が風にゆれ、金属音によって衛兵の手から武器が投げ飛ばされた。


「甘いですよ。それでもヴェスタ家の衛兵ですか?」


そこに立っているのはこの世界でも珍しい黒髪を持つ、人形師。

一瞬火花を散らしたシザンクルスがさっとライズの後ろへ下がる。


「サラ。」


ライズはフォークとナイフをサラの端に置くとその名を呼んだ。


「サラ様、申し訳ございませんでしたっ!!」

「構いません。警備を続けて。」


鋏一振りで五人の衛兵からいとも簡単に武器を奪える女。

その若さにして、彼女は軍隊長よりも偉い地位に座っていた。


「ライズ様。」


静かに近寄ってくる女性はいつも一つに束ねていた髪を解いてなびかせている。

黒い瞳にライズが映り、足が速まる少女を見てライズはそっと微笑んだ。


「サラ、おかえり。」


サラとニックは二年間、辺境の地ソライに出ていた。

首都ではかなり名高い二人も、枯れ果てた町ではさぞ苦労しただろう。

ライズはニックを見たときそう思った。それでも弱音を上げずにきちんと任務をこなす女と子供。

だからこそ二人は今の地位にあったのだ。


「髪、伸びたね。」

「はい。」

「いつも結ってたのに、もう結わなくなったのかい?」

「いいえ。今起きたばかりなんです。」

「そう。でも、サラの髪は綺麗だから結わないでいてほしいな。」


そっと伸ばされた手にサラは静かに目を閉じた。

優しく撫でる大きな手は、サラの眼の奥に何か熱いものを呼んだ。


「ライズ様・・。」

「お疲れ様、もうずっとここにいて。」


カモフラージュで出ていたサラは、ライズが当主についたという知らせを聞いて涙を流した。

大好きで大切なライズの傍から離れる時に抱いた意地が解けたように。

ライズが当主についた今、もう何も隠れることなく彼を守れるのだと泣いたのだ。


「・・はいっ。」

「ほら、昼食にしよう。あ、朝食かな。ガーナにサラの分の食事を頼んで。」

「はい。」


衛兵の一人が返事をして扉を開くとそのまま出て行った。

それからライズは撫でていた手を離すと長い机に幾つも並ぶ椅子のうちで自分の右隣の椅子をそっと引いた。

ライズがどうぞ、と笑った瞬間。サラはそこに跪き鋏を掲げて頭を伏した。


「サラ。」

「――我はここに命絶つその瞬間まで忠誠に背かず、御前を離れず、命を捧げ仕える事をお誓い申し上げます。」


絶対忠誠の言葉にライズは椅子から離れ、跪くサラに近寄るとサラの前に立ち鋏にそっと触れ小さく呟く。

昔シザンクルスも同じ言葉をライズに捧げた。


「了承した。」


サラもニックもシザンクルスも、力を持つ者は絶対忠誠を誓う。

サラは初めてヴェスタ家の人形師として屋敷に入った時、ライズに初めて誓った。

その時ライズはまだ子供で、絶対忠誠も知らないほど幼かった。


しかしライズは後に炎天の白虎を従えるだけはあり、サラに優しく笑いかけお願いしますと言った。


ライズはその時からすでに四つ年上のサラを圧倒するほどの存在感を持つ少年だった。


「ほら、座って。」

『黒真珠の姫君はライズに惚れこんでるわね。』

「シザンクルス。」


サラにとってライズやライズの周りに在る全てが、暖かくて仕方なかった。

黒い眼と黒い髪は唯でさえ恐れられ避けられる。それなのにライズは違ったのだ。

サラは自分の黒い色をした髪や瞳が大嫌いだったが、今ではとても好きになっている。

そう思わせてくれたのはライズなのだ。


「もうすぐ皆が集う。そうすれば、全てが始まるんだ。今くらいゆっくり笑ってご飯食べようよ。」


サラとニックがライズの元に戻ったように、後三人の従者がこの城に集う。

そしてその時、全てが動き始める。


「もう少し、動き始めているんだ。」

「人形をお決めになられたのですか。」

「あぁ。きっと、人形師という俺を抱きしめてくれる女の子だ。」

「そうですか。」


サラは静かに微笑みシザンクルスに触れた。

暖かな温度が体をゆっくりと溶かしていくように思わせる。

天の神に召されたシザンクルスの火の力は、生命の灯火とも呼ばれるほど純粋な光。

どうかその光がいつまでも灯り続けますように。

サラは目を閉じてそう願いを込めた。


全てが成功して、世界が変わったその時もこの光がライズを包んでいますようにと。



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