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第1話 プロローグ

 ――追手が、俺を探している。


 仲間に裏切られ、国に裏切られ、世界にも裏切られた。


 森の梢からしたたる雨粒が、ローブを冷たく濡らす。


 思いだすのは、目の前で異形と化していった、彼女の最後のことば。


「見ないで」と、うわ言のように、何回も……


 復讐……いや、まずは、与えられたスキルを使って、ダンジョンを攻略し……彼女にかけられた呪いを、解かなくては。


(フ、フ、フ……ウィザードよ。おぬしは、ワシの力を、どう使う? うまくすれば、世界を、手に入れることも――)


 どん底の俺に付き従うのは、敵か味方かも分からない悪霊いっぴき、ただそれだけだった……



 ◇◆◇◆◇



 ぶぅん! がきぃん! ラーヴァゴーレムの右拳が、白銀に輝くカイトシールドに阻まれ、溶岩を飛びちらせた。


「ぐぅっ、もの凄いパワーだ……長くはもたんぞ」


 ゴーレムの攻撃を防いだのは、俺のすこし前に位置取ったパラディンの女性。衝撃によろけながらも、シールドの下を石畳に突きたて、一歩も引かない構えだ。


「ゼラ、ちょっと辛抱しててね! いくわよ、水遁・氷礫苦無(ひょうれきくない)!」


 迷宮の天井にはりついた忍装束の少女が、両手で印をむすぶ。彼女の周りに十数本の氷手裏剣が生まれでて、ゴーレムに襲いかかった。


 ぱきぱき……ぱきぃ! 機兵の赤熱したアーマーが、瞬時にしてフリーズ。ゴーレムの、動きが鈍る。冷気と溶岩が触れあい、じゅうじゅうと音をたて、辺りが水蒸気でおおわれた。


 その煙を切りさいて、突進するのは――


「エレ、ナイスや! さっさと砕けんかい……破岩拳!」


 どがぁっ! 道着に身をつつんだ女性の正拳突きが、機兵のわき腹に炸裂。ゴーレムの腹部装甲が、びきびきと音をたててひび割れた。


 彼女の頭には……ネコ耳。そしてお尻からは、ぴょこんと尻尾が飛びだしている。


 女獣人とニンジャ――クノイチの、あざやかな連携攻撃。その光景を見ながら俺は、呪文の詠唱を終えていた。


「ネロディ、効いてるぞ! このままクズ野郎の力など借りずに、仕留める!」


 パラディンの女性が、力強く言った瞬間。俺は細心の注意をはらって――彼女たちに決して当たらないよう、それでいて可能な限りビビらせるように――魔術をぶっぱなした。


「――火穿槍(イグニスピラー)!」


 ばしゅぅん! どごぁっ!


 火と土の複合呪文、燃えたぎる溶岩の柱が、高速で飛翔する。パラディンと獣人娘の、ちょうど隙間をぬうように飛び――獣人娘の髪の毛をかすめて焦がし――ゴーレムを真っ正面から、貫いた。


 し、しまったぁ、ちょっと近すぎたぁ……


 上半身に風穴をあけ、しばし硬直したあと、ガラガラと崩れおちるゴーレム。


「あ、あちゃちゃちゃ――! この……こいつ、ウチまで焼き殺すつもりかいな! ふざけんのも、たいがいにせいや! マジで!」


 鬼の形相で、こちらをふり向く獣人娘。


 ごっ、ごめん……しかし俺は、そんな気持ちとは裏腹に――


「フン……あんなザコに手こずっている、貴様らが悪いのだ。弱点属性の攻撃まで使って、このザマとはな。せめて肉壁としては役にたってくれよ? 低能め」


「ラーヴァゴーレムを、わざわざ効きにくい火魔術で……力の差を見せつけて、そんなに私たちに屈辱を与えたいの? ホント、性格終わってるわね」


 吐きすてるクノイチ。彼女は地面におりて、獣人娘の手当てをはじめた。


「エレシダ、ネロディ、すまぬ。私がパーティに誘ったばっかりに、こんなミジメな思いを……」


 パラディンが、握りしめた拳を震わせながらつぶやく。よし、ここはヘイトを稼ぐチャンスだ。いくぞ……!


「おい、あばずれ」


「……なんだ」


「見ろ。貴様のガードが甘いから、溶岩で腕がヤケドしてしまったではないか。剣術もショボいくせに、タンクすらまともにこなせないのか? 舐めろ」


「ふぅ――、ふぅ――、き、貴様、いいかげんに……」


「聞こえなかったか? 舐・め・て・わ・び・ろ、と言っている。それとも、俺抜きでこのダンジョンを、クリアできるとでも? おめでたい頭でなによりだ。二度は言わんぞ」


「くううっ、最低のクズめ、いっそ殺せっ……!」


 顔を真っ赤にして、俺の左腕に、舌をはわせるパラディン。事情が事情とはいえ、本当に申しわけない。絶対にみんなを、迷宮の底に連れていってやるからな……!


 そんなことを思っていると、俺の脳内にひびく声。


(ク、ク、ク……またいい感じにギスギスしておるのう。どんどん魔力が高まってくるのを、感じるじゃろ。良きかな、良きかな……)


 俺の正面に浮かんでいるのは、フクロウの頭にオオカミの体、ヘビの尻尾という珍妙なすがたの悪霊。パラディンが(はずかし)めをうける様子を、嬉しそうに見おろしている。


 悪霊――自称、魔神とのことだが――の姿は、憑依されている俺以外には、見えていない。


 彼のせいというか、おかげというかで……今お見せしたような、ヘンテコな事態になっているというわけだ。


 そして、話は、少し前にさかのぼる……

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