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元帥君、連れ去られる

 そして元帥はトンネルから出ると兵器形態に転換してSLBM(潜水艦発射弾道ミサイル、核ミサイル)になって発射され、一条の発射煙を残して打ち上げられた。ワリヤーグ港は朝日で照らされ、ダウンさせられた兵器の魂たちも復活しつつあった。

 元帥は発射後上昇し宇宙空間を経由して、アメリカ州アリエス宅に向かう。元帥はその時、初めて宇宙を見た。かつて大和が兵器たちには興味が無いと言っていた宇宙。しかし人間の魂である元帥にとっては、その宇宙はきれいの一言に尽きる。

 空気が無いため、星雲や銀河や無数の星々は地上で見るとき以上に輝いて、まるで手を伸ばせばとれるようだ。地球の水平線の濃淡の青のグラデーションが何とも言えないほど美しい。地球の海も大地も森林も太陽光を受けて光り輝いている。

 重力が無いから、まるで宙に浮いているような不思議な感覚だ。それは三十分ほど続き、次第に高度を下げて大気圏に再突入していった。


 そして元帥はマッハ20で地面に激突した。もちろんアリエス宅にぶつかったら被害が出るので、落着場所はアリエス宅から離れた場所だ。地面に頭から突っ込んだ元帥は一瞬でヒットポイントがゼロになってダウンする。

 すぐさまアリエスが自宅から出てきて元帥に駆け寄る。

「気を確かにするざます。人間形態になるざます」

 SLBMの兵器形態だと歩いて移動できない上に重量も重たすぎて、アリエスに移動させることもできない。元帥はダウンしながら最後の力で人間形態に転換する。するとアリエスは元帥を抱えて自宅に連れ帰り、ソファーに寝かす。

 

 それからどれくらい時間が経っただろうか。元帥は目を覚ました。

「よく来たざますね。話はミス大和から聞いているざます。F-15Aがリアル世界に蘇生していて、タイフーンの蘇生タイミングを伝えに来る手はずになっているざます。タイフーンが蘇生次第、65-76魚雷も強制蘇生させてリアル世界に送り込むざんす。あとはF-15Aが搭載作業をするざんすよ」

「65-76魚雷は……?」

「まだダウンしているざます」

「でもどうやって65-76魚雷を蘇生さるの? 蘇生は本人がプログラムを詠唱しないといけないんでしょ」

「今はペイロード形態にならないと出られない檻に入れてあるざますから、そこでペイロード形態にさせるざます。そしてロサンゼルス級原子力潜水艦の魂にペイロードとして搭載して、潜水艦に65-76魚雷ごと蘇生してもらうざます」

「なるほどね。あの大和さんから、迎えに行くまで日本街に戻らず、アリエスさんのとこにいるようにって言われたんですけど……」

「その話も聞いてるざんす。しばらく滞在するざんすよ。最終作戦で疲れたざんしょ、たっぷりと羽を休めるざんす」

「ありがとうございます……と言いたいところなんですが、このアメリカ州の中なら安全なのですよね?」

「アメリカ州内で兵器形態に転換するとすぐに探知されるようになっているざます。事前の申請なく転換すれば役人が飛んでくるざます。人間形態での侵入を防ぐため、国境は厳しく監視されていて、もし侵攻を受けた場合でも強力なアメリカ兵器が待ち構えているので、どのような手を打ってもアメリカ州に侵攻することはできないざます」

 アリエスはそう言って胸を張った。

「それなら大丈夫ですね。ところでアリエスさんは大和さんたちがどうなったか知りませんか?」

「日本街からの連絡では大和さん帰投の報告は受けていないざます」

「そうですか……しかしあの状況なら無事に帰れるかどうかわからないからなぁ」

 元帥は極度に不安そうな顔をする。

「この世界で兵器の魂は死ぬことは無いざます。それに兵器形態の魂を拘束し続けることは不可能ざんすから、拘束されて拷問にかけられるという心配もないざますから」

「でも以前大和さんが、ダウンさせられ続けたら死んでいるのと同じって……」

「それは双頭の鷲計画が成功して、ロシア製最新鋭兵器が転生してタイフーンが統治者になったときざましょ? そんなことにはなっていないざますし、大和さんたちはそんなやわではないざます。だからそんな心配は無いざます、今は」

「そう、『今は』なんだよね」

「さ、久しぶりの私お手製のアップルパイはどうざんすか?」

「うん、貰おうかな。お腹もすいたし。そう言えば一日以上食事していないなぁ」

「ワリヤーグ港からロケット推進で飛んできたのなら、燃料はほぼゼロざんす。いっぱい食べて燃料を回復させるざんすね」

 アリエスは優しくそう言ったが、それを否定する声が聞こえた。

「そんな時間の猶予があればなっ」

 その瞬間、玄関ドアが蹴破られ、小銃で完全武装し目出し帽をかぶった兵器の魂たちが部屋に侵入してきた。

「あなたたち、誰ざますかっ?」

 しかし侵入者は問答無用で「お前に用はない」と言ってアリエスに無数の小銃弾を叩き込む。

「きゃあああー、うっうぐ」

 兵器形態に転換して防御する間もなく、悲鳴を上げながら銃弾を浴びてアリエスは血まみれになってその場に崩れた。

「アリエスさんっ。君たち誰なのっ?」

 元帥は侵入者を睨んでそう尋ねるが、侵入者は意に介さない。

「タイフーン様がお待ちだ。連れていけっ」

 侵入者の発した声は女の子の声だ。タイフーンの名を出すということは間違いなくロシア兵器の魂たちだ。そしてロシア兵器たちは元帥をヒョイと持ち上げて拉致しようとする。

「これならどうだっ」

 連れ去られることを察した元帥は人間と同体重しかない人間形態から、兵器と同じ重量となる兵器形態に転換する。元帥はSLBMの魂なので、重量は数十トンに達する。兵器形態に転換したことにより、元帥の体重が一気に増えてロシア兵器は元帥を落とした。

「手間をかけさせるなっ」

 ロシア兵器たちは数人がかりで元帥を持ち上げてしまった。

「えっ、何で僕を持ち上げられるのっ? 兵器なら数十トンもあるから……」

「たしかに私たちは人間形態だ。兵器形態になるとアメリカ州に感知されるからな。生身の人間の力で数十トンもある兵器を持ち上げることはできない」

「ならっ」

「しかしお前はワリヤーグ港からここまでSLBMのロケット推進で飛んできた。だから燃料はほぼ空。しかもお前のSLBMは三段式のロケット。次々にロケットを切り離した上にペイロードもない。今の兵器形態のお前の体重はほんの数トンしかない。それなら屈強な人間複数人で運べないこともない。さっ行くぞ」

 そしてロシア兵器たちは有無をいわさず、元帥を強固な拘束具で簀巻きにして抱えて屋外に運び出す。そこで待っていたトラックに元帥を積みこみ、トラックはロシア兵器たちを回収すると急いで発進した。

「僕を連れ去ってどうする気なのさっ?」

「私たちはタイフーン様の命令で動いているだけだ。タイフーン様の崇高な使命に私たちの考えは及ばない」

 しかし元帥は腑に落ちなかった。ふつうロシア兵器たちがアリエス宅を襲撃するのなら、回収する物は味方であり、タイフーン撃沈の鍵を握る65-76魚雷のはず。なんで元帥なんかを狙ったのか?

「なんで僕を殺さないのっ?」

 もう一つ疑問があり、それはなぜ元帥を生かしておくのか。人間形態で殺しておけば抵抗されることもないから都合がいいはずだ。

「それはすぐにわかるさ」

 ロシア兵器はそう言うと黙ってしまった。その間にもトラックは道のないところを走行しているようで、かなり車体が揺れる。目的は言うまでもないだろう。アメリカ州の州外に連れ去ることだ。しかし、一つ疑問があった。

「僕を拉致したって、国境の警備は厳重だよ。どうやって突破すんのさ? ここのロシア兵器には突破は荷が重いよっ」

「……」

 ロシア兵器たちは口を開かない。ただ沈黙したまま元帥を睨みつつ、小銃などの武装をチェックしている。そしてトラックは最高速度で走り続ける。

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