最終作戦会議
季節は春。御殿、大広間。今までのように畳は敷き詰められておらず、中央に木の盾を並べた机が置かれており、日本街の議員面々が着席している。床は板の間となっており一同は迷彩の戦闘服を着用し土足だ。いわば戦国時代の戦争の時のような広間だ。
「これより最終作戦、『イーグルハント』作戦の概要を説明するわ」
そう話を切り出したのは大和だ。
「っと。その前にタイフーンの双頭の鷲計画の概要を説明するわ。これはタイフーンがこの異世界とリアル世界の両方の統治者になるための計画なの。まずこの異世界の統治者になるため、タイフーンはリアル世界に蘇生してロシアの兵器見本市を核攻撃し、ロシア製最新鋭兵器をこの異世界に転生させて、その軍事力で支配する。そして……」
一同の表情は険しくなる。大和が続ける。
「リアル世界に対してはタイフーン級戦略原潜(SLBM搭載潜水艦)を蘇生させて、その搭載するSLBM(潜水艦発射弾道ミサイル。核ミサイル)で世界を恫喝する。でもこの計画には一つ疑問がある。両世界を統べるには両世界で同時にタイフーンの魂が存在していないといけない」
元帥が「しかし」と口を挟む。
「そう。そんなあの世とこの世の両方で同時にタイフーンが存在するなんて方法は無いの」
F-4EJが「そうなんすよね」と相槌を打つ。
「そしてタイフーンは遂に蘇生するそうよ。両世界に存在する方法は不明だけど、とにかくリアル世界に蘇生しないことには計画は進まないから。そしてね、この前のロシアの落日作戦でUAKが大金をせしめたけど……」
元帥は「ああ、そんなこともあったね」と短く言った。
「アメリカ州からの情報によると、その資金を使ってUAKが退役したタイフーン級を現役復帰させることが決まったわ。もちろん後ろではタイフーンが糸を引いているのは間違いないわ。それにそもそも……」
「ロシアの落日作戦は端からタイフーン蘇生資金を調達するために、タイフーンが裏で画策したものだったんすね。まさか大和姉、墓穴を掘ったんじゃ?」
「そういうこと。私の不手際だったわ、本当に申し訳なかったわ」
大和はそう言うと頭を下げて謝罪する。そして話を続ける。
「で、話しを続けるわね。タイフーン級で船体が残っているのは一番艦のタイフーンのみで、あとの同型艦はもうすでに解体されているわ。簡単にいうとタイフーン級の現役復帰、いわばタイフーンのリアル世界への蘇生を阻止するためには、このタイフーン級の船体を破壊することが一番手っ取り早いの」
F-4EJが「そうすっね」と相槌を打つ。
「しかし、リアル世界に蘇生して実際にタイフーン級の船体を破壊することは極めて難しい。なにしろタイフーン級の船体はロシアの造船所に係留されているけど、タイフーンの差し金で警備が厳重なの。だからこの手は今は保留するわ」
「当然大和さんには代案があるんだよね」
「そ、元帥君。ここは頭脳戦で勝つしかないわ。タイフーン級の船体を破壊する、いや再生不可能にすることはできる。ある方法を使えば」
「どんな方法があるの?」
「それは2000年に沈没事故を起こしたロシア海軍の原子力潜水艦クルスクが参考になる」
「まさか大和姉、同じことを再現しようというんじゃ……」
「そうよF-4EJ。沈没した原因は搭載していた65-76魚雷の爆発なの。そして65-76魚雷の魂はこの異世界に存在する」
「と言うことは、それを蘇生させるって事っすね」
「そう。65-76魚雷の魂は現在ロシア県、ワリヤーグ港に住んでいる。これを拉致、魚雷なので爆発される場合には、どうせ復活するからダウンさせても構わないわ。その後アメリカ州まで行く手段をいくつか講じているので、65-76魚雷をアリエスさんの自宅まで連行して蘇生させる」
元帥が「となるとあとは……」と短く言った。
「そしてリアル世界で蘇生、すなわち現役復帰したタイフーン級に搭載させる。もちろん65-76魚雷の魂には事故の原因となった爆発原因がそのまま残されているわ」
「そうすれば、タイフーン級はクルスクの二の舞になるって寸法っすね」
「そういう事F-4EJ。あまりきれいな手ではないし、人が死ぬかもしれない。ただ私たちは極力人間にも兵器にも犠牲を出さないようにしつつ、作戦を遂行するしかないわ。いいわねっ」
大和の決意に対して一同は「ラジャー」と答える。
そして大和は地図の置かれた机に目を落とす。
「ワリヤーグ港は言うまでもなく海に面した街で、ロシアの艦船の魂が主な住人。もちろん、タイフーンが双頭の鷲計画を立てている以上、ロシア県の全街はすべて警戒システムが敷かれているわ」
「となると……」
「そう、私たちの取れる手は、リアル世界での戦争のセオリーを踏むことになるわね。んで作戦は……」
それから長い作戦概要が説明される。そして説明が終わる。
「作戦に参加するのは、議員全員と、リアル世界で改良が済んだ街の住人全員よ。戦力にならない人は来ても足手まといなので留守番です。総力戦となるから、最悪報復で日本街が壊滅することも覚悟しておいて頂戴」
「まあ、双頭の鷲作戦が成功するよりはマシっすね」
「イーグルハント作戦の決行は一週間後、各自準備万端整えておいてね」
「ラジャー」
そして一週間後。作戦通り面々はロシア県、ワリヤーグ港の近海まで実機の輸送機で移動してパラシュート降下、そこから潜水艦「はるしお」が兵器形態に転換し、他の面々はペイロード形態で「はるしお」に「乗艦」する。時間は真夜中だ。「はるしお」は潜航してワリヤーグ港を目指して航行する。
「そろそろ海底設置のソナー海域を通過します。無音潜航に移ります」
「はるしお」が敵のソナーに聞こえないよう小声でそう言った。そしてペイロード形態で手のひらサイズに小さくなっている元帥と大和が会話する。
「ねえ、大和さん。リアル世界の戦争のセオリーを踏むといってもうまくいくのかな?」
「まあそれは何とも言えないわね。最近戦争のセオリーも進歩しつつあるから、旧式兵器の私たちがそれを再現できない可能性もある。特に最近の戦争では宇宙、サイバー、電磁波、無人機、AIなどが重要になってくるけど、ここの異世界ではそれらは再現できない」
「だよね」
「となると私たちの兵器でとれる、以前のセオリーはすでに陳腐化しているかもしれないし、対抗手段が研究されている可能性があるわ。それに加えて分が悪いことに、わが日本街は、兵器を大量に開発運用するアメリカ州のように人材が豊富にある訳じゃない。日本で採用された数少ない兵器の魂で戦うしかないの」
「んじゃ負けるんじゃ……」
「まあ最善の手を打つだけよ。それにこちらは旧式とはいえ、全兵器が改良を受けている。改良を受けていないロシア兵器の魂に完膚なきまで打ちのめされる可能性は無いわ」
「でもその改良って、改悪と抱き合わせだからなぁ」
「まあそうよね。でも私たちもバカではないし、いろいろ精査して改良と改悪をしているから手付かずのロシア兵器よりはマシよ」
「そうだよね。うまくいくといいなあ」
そして「はるしお」はワリヤーグ港に近づいていく。




