大地(新)⑥
先日の公休日、僕はパートナーと過ごす中で父さんの死についてある重要なことに気づく。
もっと早く気づいていれば良かったと今更ながらに後悔する。
果たして今その情報は残っているだろうか。
そして残っているとしても恐らくトップシークレット扱いになっているであろう情報を確認する術はあるだろうか。
残っているとしてもそうそうそんなチャンスはいっかいの研修医には巡ってこないだろう。
ましてや第一病院での案件だ。
リスクヘッジの為にわざわざ第二病院への配属希望を出したのだが、虎穴に入らずんば虎子を得ずとはこのことだ。
一長一短ではあるが。
ただでさえ時間はもうかなり経過してしまっている。
白雪の協力があったとしても難しいだろう。
僕は模索した。
「当摩先生おはようございます。」
「おはよう、当摩さん。」
朝の小旅行を終え院内に入ると行きかう職場の同僚に声をかけられる。
僕は愛想良く返事を返す。
(どちらにしても第一病院資料室に行くぐらいしか出来ないな。)
僕は業務を行いながら今後の段取りを進行するため考えをまとめる。
業務を一つずつ熟していく。
そして患者からお礼の言葉をもらう。
時には会うだけで涙を流しながら安堵し、時には神様のように崇拝される。
(父さんの見てきた世界、、)
僕は父さんの見てきた世界にいることに充足感を感じていた。
きっと僕は歪んだ愛情に飢えているのだろう。
理解しているつもりだが変えるつもりもない。
それはいつも僕の原動力となっている。
一日の仕事が終わり、いつものように第一病院の資料室へと向かう。
第一病院の中は日勤者が多く帰宅しひっそりと静まり返っていた。
ガチャッ、、
いつものように資料室へと入る。
(ん!?)
資料室のテーブルにいつもはないパソコンが置いてあった。
今日は先客がいるようだ。
普段はあまり人の出入りの多くない部屋だがそれでも先客がいることはある。
パソコンも持ち込まれることもある。
しかし、この先客に僕は何か妙な感覚を覚えた。
人の気配がしない。
パソコンを立ち上げたまま一時的に退室しているのだろうか。
可能性を考えれば無限大。
しかし、この妙な感覚は拭うことはできなかった。
僕は冷静を装い、わざとパソコンの前を通るルートを選びお目当ての資料がある場所へ向かう。
(これは!?)
横目でさり気無く見ようとした視線が固定してしまう。
画面に表示されている情報は紛れもなくこの病院が関わり結果亡くなってしまった情報や医療事故などのデータだった。
そしてそれは一般的に開示されている情報よりもより詳細な内容。
関わった関係者などの個人名なども記載されたまさに知る必要のある人間以外の開示を厳禁とする情報だった。
僕はログイン者名を確認する。
表示には{素敵なアドミニストレーターさん}と記載されている。
(管理者のログイン、、{素敵な}は理解できないが、、これはどういうことだ。)
ますます僕はこれが誰かの差し金であることを疑った。
僕にとってはピンポイント過ぎる。
こんな目立つやり方はおそらく罠であろう。
(よし、まんまと罠にはまってやるか。)
僕は資料室のドアの鍵を閉め白い手袋をはめるとパソコンの前の席に座り必要な情報を確認した。
この情報だ。
12月16日 12時46分患者名:出雲砂羽。死因:絞扼性イレウスによる敗血症。
治療過程に不備な点があり医療事故として扱うか検討。
結果医療事故として認定。
マスコミ各社にも連絡。病院側も発表の検討会を行う。
結果、記者会見を行う必要がないことに決定。新聞社数社のみが取り扱うこと運びになる。
病院側と遺族側にて話し合いを設け、示談。
1月21日 4時31分 患者名:東海林虹太郎。死因:多臓器不全。
12月16日に食道癌にてOPE。OPEご一時昏睡状態に陥る。
患者の家族との対話を設け、第二病院へ転院の運び。
執刀した医者との面会を謝絶希望。
その後第二病院にて死亡。OPEとの因果関係無。
死亡後ご家族の意思を確認。マスコミ各社にも連絡。
その当時の新聞内容もデータに入っている。
見ると大項目に掲げてもおかしくないような内容にもかかわらず小窓にひっそりと乗っているだけだった。
(そうだ、、これだ。内容は明らかに世論に発表すべき必要のあるものだったはず。なのにこれはどういうことだ。)
やはりこの件については闇がある。
間違いない。
僕は夢中になって重要な取っ掛かりを頭に詰め込む。
具体的な情報をようやく手に入れることが出来、手が震えた。
ガチャッ、、キィー、、
そこでようやく資料室の鍵が開き中に入ってくる音がした。
(・・おいでなすったな。)
「ふふふっ!警戒心の強い坊やだこと・・」
(女か?)
姿を現したのは男だった。
男は嬉しそうに僕の方へ近づいてくる。
見覚えのある顔だった。
僕はすぐに席を立つ。
「ああっん!まってぇ、座ってお話しましょ。当摩せんせぇい。」
(、、おかまか。にしてもいやに鼻につく気持ちの悪い喋り方だな。僕のことを知っている様だが本当に病院関係者なのだろうか。)
僕は言われた通り席に座るが警戒心はMAXになる。
パーソナルスペースにでも入ってこようものならばすぐに対処できるよう隙を無くす。
「本当に今日は何にもしないから。」
男は僕の横の席に座り微笑む。
素性が全く分からない上にこの風貌、目的の見えない男の行動に僕は質問を投げかけた。
「あなたが素敵なアドミニストレーターさんですか?」
「そう。私。嬉しいプレゼントだったでしょう?欲しかったものじゃなくて?」
僕は首を横に振り答える。
「改めて自己紹介するわね。私の名前は空条伊吹っていうの。第一病院の内科部長なんかをしているのよ。」
(空条伊吹。医事課の個人情報データに入っていたな。なるほど、顔と名前が一致した。朝礼の時役職者としてのひな壇にいるわけだ。)
「当摩先生、頭良いのねぇ。あなたでしょう?私をここに導いたのは。」
僕は多少のリスクを承知で罠を仕掛けておいたのだった。
だからこそこの男の罠返しに驚いた。
(なるほど。特異的なインパクトにあっけにとられていたがキレる存在のようだ。)
僕は白雪の個人情報の修正、確認を手伝う。
修正、確認は本来白雪本人のパソコンからログインして行う必要があるだろう。
もしくは白雪の部署のパソコンから行う。
もし別のパソコンから、例えば僕のパソコンからログインしてしまうとそれは同じ病院内であっても部署違いによる情報漏洩に他ならない。
しかし僕は会えてそれを罠として選ぶ。
ログイン先を管理している人間からすれば僕のパソコンからログインすることは疑問でしかない。
ログイン先を辿ればいずれ僕にたどり着くだろう。
次に僕という存在を知ることになった管理者はログインしたと思われる白雪に事情を聞く。
白雪には先に対応策を伝えている。
{内容は、星波先生に聞いてくださいと聞いてきた相手に伝えること。}
その内容に気づいた管理者はいよいよ僕の素性を気にしてくるだろう。
この病院に伝えてある情報だけでは正直僕を知るには乏しい。
だから僕に直接接触を試みて意図を確かめる必要性がある。
「当摩先生。でもあなた、もし医事課のログイン管理者が星波先生の事なんて知らなかったらどうするつもりだったの?白雪さんが問い詰められてあなたと一緒に相応の処罰よ。」
普通の個人情報の流出だとしたらまあその流れが妥当だろう。
だが僕には確証になりうるであろう自信があった。
「個人情報を見て決めましたから。つまり医事課管理者が当時葬式で知り得た人物ばかりだったので誰が俺と接触してくるかカマをかけてみたんですよ。」
そう、僕は会いはしないが弔電や香典などで名前は知っている。
「呆れたぁ。すっごい大胆な発想ね。リスクが大きいったらありゃしない。」
そう、リスクは大きい。
しかしもう多少のリスクを背負いながらでなければ真実には近づけない。
もうそこまで詰めていた。
「当時、関わっていたであろう管理者以外の関係者には聴取したんですけれど、どうも鉄壁な壁にぶつかってしまっていたので。埒が明かないと思い賭けに出たんですよ。かかるのはそれ相応にキレる人物だと踏みました。正直その先はあまり考えてはいませんでした。反応を見たかったので。」
「いやだわぁ。その男らしさ本当に好きになっちゃいそう。」
(いちいち気持ち悪い男だ、、)
「ところでどうしてこんな見え透いたトラップを仕掛けられたんですか。何か知っているからですか?」
僕は空条がもうこの時点で父さんの死の真相に間違いなく関係していると確信する。
もし、この男が少しでも父さんの死に関与、いや直接でなくとも間接的に関与しているような素振りを見せるようならば、僕はどうなってしまうのだろう。
「まず言っておくわね。私は星波先生がお亡くなりになられた件については関わってないのよ。」
僕の殺気に気づいたのか布石を打ってくる。
「そんな言葉で俺が納得すると思っているのですか。関わってない・・では何には関わったんですか?」
僕は上げ足をとる。
「ああーん。こわーい顔しないでぇ!!」
(いちいち感に触る!!真面目に話してくれないか。)
徐々に煮えてくる僕の腹は空条の返しにいちいち反応してしまう。
「本当。この件については私が始めに気づいたから良かったわぁ。順を追って話すとね。私がこのパソコンをおいたのは当摩先生が必要な情報だろうと思ったから置いたの。罠じゃないのよ。女の感!」
(女じゃないだろう、、)
「次に星波先生の事ね・・。」
僕はゴクリと生唾を飲む。
「ふふっ・・本当に知りたいのね。じゃあ教えてあげる。その前に取引をしなくて?」
取引?
僕はさらに闇を知る為さらに闇へ落ちていく。




