大地(新)⑤
父さんの死がこの病院の上層部に関連していたとする。
院長と院長の親族が絡んでいたとしたのなら、これほど強力なタッグはないだろう。
理事長や他役職者の包囲網をどう掻い潜るか想像はつかないが、この病院の真実はこいつらになると言っても過言ではないだろう。
しかしまだ情報が足りない。
あくまで仮説の域から出ることはできない。
(まだ何かあるのだろうか?まだ他に関わっている人間がいるのだろうか?情報が足りない、、情報が足りない、、)
季節は早くも冬になろうとしていた。
(ああ、、父さんの墓参りしなきゃな、、)
もう今回で何回忌目なのだろう。
それでもまだ父さんがさっきまでいたような。
父さんが触れてくれていたような感触がある。
「大地、大地は本当に賢い子だな。本当に俺の子なのか自分でも疑ってしまうぞ。」
(父さん、、父さん、、違うよ。僕は父さんの子だよ。父さんの造形物だ。)
僕は下着の中でぬめぬめと白く濡れた陰部から手を離すと、ゆっくりとベッドから起きる。
なぜ今日は休みなのだろうか。
これじゃ情報を手に入れるチャンスに巡り合えないじゃないか。
僕は何かを睨みつけるように目を細めた。
トントントン、、
階段を下りてくる音がする。
(、、環か。)
ガチャッ、、
扉がゆっくり開く。
「あーお寝坊さんが起きたー!おはよう、大地君。コーヒー入れたよ。」
元気な声が閉鎖的な空間に響く。
(お寝坊さんが起きたって、まだ朝の8時だぞ。まぁ、僕の意見で早起きが必要になってしまったことは認めるけれども。)
しかし、環は元気なようだ。
環の健康状態はとてもわかりやすい。
そう、単純に声が大きければ調子が良い。
声が小さければ調子が悪い。
それだけだ。
「おはよう、環。ここで一緒に飲まないか。」
僕はまだ半開きの目を擦って環を誘う。
環は何故か顔を赤らめるとニコリと笑う。
「寝室なんかで食事しようなんて大地君、不良だなぁ。それにその発言刑法223条第2項または第3項が成立しますよー!」
(刑法223条強要罪。あのな、、)
「環。仕事柄知識として持っているのはわかるが、すぐに家庭の中に持ち込むのはよしてくれ。それに僕は強要ではなくて質問だっただろう。自由は守られている時点で成立する訳ないだろう。」
僕は、冷静に答える。
「意義ありかぁー!逆転されたぁー!!」
(何を訳の分からないことを言っているのだ、この人は。)
新婚時代はだいぶ困惑させられた。
こう見えてサブカルチャーに精通している環は、時折僕の知らない知識をひけらかしてきては僕を困らせる。
理解できないので無視を決め込むと虫の居所が悪くなり、さらに放っておくと蜂の巣をつついたように愚痴や文句、その他色々飛んでくる。
とても胆力が必要だった。
もう慣れたのだが。
環は階段を上がりそしてしばらくするとまた下りてくる。
今度はお盆に二人分のコーヒーと朝食、トーストとスクランブルエッグとベーコンの乗ったプレートを乗せてくる。
いとも簡単に片手でお盆を持ち、空いている手で寝室の扉を開けたのだろうか。
(朝ご飯も持ってきたのか。コーヒーって言っていたのに、、)
後ろ脚でドアを蹴り閉めると僕のベッド脇のテーブルにお盆を乗せる。
そして、僕のベッドに腰を下ろした。
「お待たせしました。朝食セットです!」
色々とおかしい。
まずコーヒーは頼んだが朝食などを頼んだ覚えはない。
僕がうんざりしている横で環はまだ何か言いたそうな面持ちをしている。
まだ何か言い足りないのだろうか。
「あのー・・チップはまだですか!?」
(自分でチップを強請るか普通。百歩譲って配達料金ならば理解できるが。これこそ強要、いや恐喝罪が成立するのではないだろうか。)
僕は無視をして自分の好みのコーヒーに仕上げる。
砂糖を入れずミルク2つ入れゆっくりとかき混ぜる。
そしてコーヒーを口に含んだ。
飲みながら横目で環を見ると頬を膨らませさぞ不満そうにこちらを見ている。
僕はさらに無視を決めてコーヒーをゆっくり飲み続ける。
(今日は何が飛んでくるか。)
ここまでくると僕の深層心理はもやは環の番外とも言える行動や発言を楽しんでいるのではないかとさえ思うようになる。
僕はこんなに苛めっ子だっただろうか。
ふぅ、、
コーヒーの味に余韻を感じていると突然目の前景色が遮られる。
目の前には環の顔。
(今日は環自身が飛んできたか。)
僕は環とキスをしている。
突飛な行動は環の十八番だ。
これも前例があるので動揺はしない。
しかし。
(これはこれで強制猥褻罪が成立するんではないだろうか。)
僕はふと思った。
「チップ、頂きました。まいどー!」
満足したのか素敵で無敵な笑顔で笑っている。
(環。君は一体今どこの国に住んでいるのかな。環国とでもいうのか。)
つっこみを入れながら僕は自分の性格の細かさに嫌気がさす。
「環。強制猥褻罪で捕まるよ。」
環にそういうと環は望むところだとい言わんばかりの堂々とした態度と表情で聞いている。
「言っておくが、ここは密室だってこと忘れるなよ。」
続けざまに僕は吐き捨てる。
大方、キスなど外国では挨拶などと言い訳を言おうと考えていたのだろう。
環の顔に余裕が無くなる。
(図星か。)
本当にこの女性は弁護士なのだろうか。
他人を弁護できているのだろうか。
職務を全うできているのだろうか。
僕の中でいくつもの疑問が生まれる。
「あっ!TVでもつけよう!」
(胡麻化したな。)
ピッ、、
スイッチとともにTVがつく。
朝のニュース番組が放送されている。
「あっ!この事件の担当私の同僚なんだよねぇー。大変そう。」
裁判所の前でマスコミが屯している。
場合によっては記者会見の出席なども弁護士の業務の一つ。
僕の仕事も責任ある立場だからこういう機会ももう万が一ではなく万が百位の確立まで上がっているのだろう。
(そうだよな。責任ある立場だもんな。)
僕は目的の為にいつの間にか積み上がってしまった軌跡を思い返し改めて到達している立ち位置に危険性を感じる。
「もし大地君が犯罪を犯したら私が弁護して守ってあげるからね。ふふふっ!!」
(意味を知っていて、言っているのだろうか。まぁ、僕は気にせざるを得ないのだけれど、環の弁護じゃなぁ、、)
しかし今日は休みだと言うのに有意義な時間となる。
煮詰まった頭には環の存在が欠かせない。
結婚したことは僕にとっては良かったのかもしれない。




