5:トコロテン1
ぐぅ、ぐぅ、と盛大に鼾をかきながら冷房の効いた部屋で眠るトモエの部屋でガサゴソとタンスを漁る人影が二つあった。
「風邪ひかれてもアレだしな……」
誰に確認するまでもなく、トモエの下着を片手に一人愚痴る。しかし、そんな独り言に突っ込みをいれる存在がいた。
「早くしちゃいなさいよ。お話、するんでしょう?」
ちっ、と守のジャージを腰に巻いたままの姿で私室までズガズガと入り込んでくるソレをどうすることもできず、女だろうと得体のしれないソレに助力を得ようと思えず守は行動にうつす。
この三日間の激務、そして重責に加えて意味不明なソレの出現。緊張の糸が一気に解けたのか、トモエは現在絶賛快眠中である。小腹を満たしているし、しばらくは起きる気配がないのである。
そんなトモエの火照った体は冷房により徐々に体温を正常に戻していったが、汗でグショグショになったワンピースをそのままにしていると一気に風邪をひきかねいのだ。
そうなのだ、だからこその着替えが必要であり、それを出来るのが守しかいないのだ。ならば当然、やるしかなかろう?
「むぅ、若干汗臭いな……女の子はいい匂いするとか都市伝説やったんや……」
思わず考察してしまう守だが、ワンピースの脱がせ方がまずわからない。
「ぬっ、むん、ってか無駄に胸がでかいんだよ!」
そう、独り言が増えたのは単に恥ずかしさを誤魔化しているだけなのだが、後ろからソレが口を添える。
「ねぇ、私がやろうか? てか、マモルって変態さん?」
「うるせぇ! そもそもテメェがあんなタイミングであんな場所から出てくるのが元凶だろうが! おとなしくしてやがれ今畜生」
「あは、口が悪いのね。お姉さん嫌いじゃないわよ、まぁごゆっくり」
そんな脱衣シーンは残念ながらバッサリとカットさせていただく。ただ、守から言えることは一つだけだった。
「ぶりんっ、て何だよぶりんっ、て……」
「それで、こんなお城に住んでるなんてマモルは何者なの?」
「お前が聞くか? お前がっ! あんな樹から出てきやがって、普通じゃねぇだろうがっ。俺は最悪、お前は新種の魔物じゃないかと正直ビビリまくりなんだよこの野郎!」
「や、野郎って……私こうみえてまだ三四のうら若き乙女よ!? あっ、やっぱりもっと若いかと思った? ふふふ、くるしゅうない、くるしゅうない若者よ」
守は一瞬はっ? と声を出すが、無理もない。目の前にいるのは目測150㎝くらいだろう身長と、服が胸元から避けているっているのに一切はだけようと主張しない胸元。下着だって白色の……。
「何か失礼な事考えてないマモル? まぁ良いわ、私の話からしてあげる」
「最初からそうしろ」
「もぅ、マモルってモテないでしょう? こんな美人相手にそんな」
「ガタッ」
「……そうね、私の話だったわね」
ソレは語り出す。
「私の名前はトコロテン。別の世界からこっちへやってきたところよ。年齢はさっき言った通りうら若き三十四で、魔法使いよ!」
「……はっ? ふざけた答えはいらねぇよ!」
「なっ、何よ怖い顔してさ。さっきからずっと変な者見る目でみられてた気がするんだけど? するんだけど、ねぇ?」
「ふざけるのは名前までにしとけ」
「もぅ、人の話聞く気あるの?」
「……人、なのか?」
「ええっ!? そこからなの? 何なの、マモルってばこんな美女をみて気が動転してるわけ? それともトモエちゃんを脱がしたついでに色々触ってテンションあがっちゃってるわけ!?」
「おまっ……」
守は深呼吸をすると、脳裏に焼き付けたイメージを記憶の奥底へとしまう。
「それで、お前が人だとして、だ。異世界からやってきたとして、だ。何の目的で衛巴に来たんだ」
「んー? まぁ色々置いといて、目的は逃避行かしら……ねぇ聞いてよ? 付き合ってた彼氏が浮気してたの、それも私の部屋に連れ込んで! 酷くない? 酷いよね、うぅ、私悲しくて悲しくて……だから決めたの、アイツのいない場所に行こうって」
「……あ˝っ?」
「そうよねぇ、そんな男がいたらだれだって怒りたくなるわよねぇ? あ、あんな……あんなっ!?」
「いやマテ、ならあの登場方法は一体なんなんだよ」
「んー? 初めての術式だったし、まさか世界移動式の先が真っ暗で落下タイプなんて想定外だったから、思わず悲鳴上げちゃった、てへっ!」
話をまとめると、浮気現場をみたコイツは悲しみから彼氏が追いかけれないこの場所まで魔法やらの力でやってきた、ということか。ははぁん、なるほどなるほど、さてはこいつ。
「お前、頭弱いだろ」
「何言う!? ま、まぁ良いわ。ざっくりだけど、わかってもらえたでしょう?」
「ああ、十分こじらせたまま大人になったってことだけは理解できた」
「ふふ、私は大人。そう、大人なの、マモルがあんな卑猥な事してたって目隠しした指をサッと開いて覗けるくらい大人よ!」
「……」
「な、何よ。それで、今度はマモルの番じゃないかしら?」
「ソウダナ、オレハオウサマダ」
「ぷっ、あははははは、何その冗談マジうけるーやだー、私の話よりひどいじゃないのよー」
「ここは衛巴という国だ。俺が国王の守で、トモエがこの国の王妃だ」
「……へっ?」
「人口は一万強だが、ちゃんと国やってるよ」
(今はな)
そう胸中でつぶやきながら、守は今後の課題に頭を悩ませる。
「で、でもこのお城っぽい家、ほかに誰もいないじゃない? それにトモエちゃんが王妃って……あれ? 夫婦? あれ、さっきのいかがわしいのは合法!?」
「何ぶつぶつ言ってんだよ。んで、誰もいないのはな」
はぁ、とため息をついてしまう。そう、今この城の中に居るのは守とトモエ、それにトコロテンと名乗る女だけである。
午前中に居た執事やメイドなどは、この三日目の午前中をもって全員国から逃げ出したのだ。退職金を手に、滅びゆくこの国からはおさらばってわけだ。そう、本当に守とトモエがすべてを背負った状況なのだ。




