4:ピクニック3
守は目の前の何かに対し、無意識に体が動いていた。その何かからトモエを守るためにと。
「なっ、何かようか!?」
ようやく絞り出せた声だが、震え声となって発せられたソレに反応してジャージを掴む力が強くなるのがわかる。
「あ˝……あ˝……ぁ……ぁぁ……ぁぁあああ!」
人面樹かと思われたソレは、表情をどんどん歪ませながら次第に口らしき箇所から発せられる声が鮮明になりつつある。
「な、何なんだよ一体……」
そんな守の疑問も、数秒後に解決することとなる。その数秒がどんなに長く感じたかは、守だけが知る。そして、ついにその瞬間がやってくる。スポンッ、と間抜けな音と共に口らしき場所からソレは訪れる。
「ぁぁああああ……あっ! どうも!」
口が大きく開いたかと思うと、そこから女性の顔がニョキッと生えてきたのである。思わず守は白目を剥くも、すぐにこのまま気絶してはいけないと意識をギリギリのところで保ち折れそうになる膝に手をつきながら耐えて見せた。
「っっ……な、何者だ?」
「よいっしょ、っと……あ、あれ? ぐぬぬぬぬ、よっと。やっと手が出たよ……で、君は誰?」
「……守」
「マモル? あ、マモル! ちょっとキツイからちょっと引っ張ってくれない? キツクて大変なのよ」
突然めちゃくちゃな登場をした女性の手を守は取るか悩むも、いつまでもこのままでは埒が明かないと踏んだ守は意を決する。
「……わかった。く、食うなよ?」
「食べないよ!」
手を握ると、女性独特の柔らかな掌ではなく、その手はゴツゴツとした鍛えられた者のソレであった。握り締めた握力の強さに、思わず痛いと叫びかける守だったが何とか踏ん張り、そのまま思い切り引っ張った。
「イタタタタ、イタイイタイ、もっと優しく、優しくしてぇぇ」
何かイケナイ事でもしているかのような錯覚に陥りつつも、遠慮せずにソレを思い切り引っ張る。すると、突然引っ掛かりがなくなったかのように抵抗がなくなりズボッとソレが正体を現す。全身が姿を現したと同時に、ビリィという音が聞こえたが守の胸に飛び込む形でソレはこの世界へ降臨した。
「キャッ、痛……くないわね。えへへ、ごめんねマモル。あら? 後ろにも誰か居るのかしら?」
守に抱き着いたまま、顔だけをズラしてその後ろに居たトモエと視線が交差する。瞬間、トモエは緊張が途切れ白目を剥いて倒れてしまう。そんなトモエを見て、わっわっ、と慌てふためきつつ守を突き放すとソレはトモエの元に向かおうとした。
それを守は許さなかった。
「おい、待て!」
手を掴むと、奥に行かさないように引っ張るが守の筋力よりも上らしいソレの行動を阻止するまでが限界だった。それでも、何とか奥に行かないようにその場に止まらせた。
「むっ、あの子頭打ってるわよ? それにあんな股を開いてベンチで仰向けな姿はマズイと思うの」
同意しかけた守だが、ソレから視線を外す訳にはいかずトモエの姿を確認することができない。そんな守の気持ちも知らず、ソレは懇切丁寧に解説を加えてくれる。
「そんなブリッジでもするような……ああ、重力って無慈悲ね! 胸の重みで窒息しちゃうんじゃないあの子? それに仰向けになる拍子に手をひっかけてモロパン……」
「もう言い喋るな。一つ確認する」
「えっ? 何かしらマモル」
「お前は俺たちに危害を加えるか?」
「……?」
「言葉の意味が伝わらないか? 敵なのか、と聞いた?」
「あー? んー、とりあえず敵じゃない、はずよ!」
ドヤ顔で言うソレは、やっと前進するのを諦め再び守の正面へと仁王立ちをしてみせる。残念ながら衣服は樹の一部に引っ掛かり胸元から真っ直ぐに裂かれ、スカートに至ってはスッポリと脱げ落ちていた。
「まぁ、わかった。まずはトモエからだ」
「へぇ、トモエちゃん、ね」
ソレは頷きながら守と視線を交わす。肩くらいまで伸ばした黒髪、日本人と言われたら間違いなくそうだろうと言える姿形、しゃべり方をするソレ。服に至っては禍々しい黒いオーラを放っており、その服何処で売ってますか? と尋ねたらどこか別の世界じゃねぇか? と適当な返事が返ってきそうな品物だった。
ちなみに、下着は履いてなかった。
「くっ、お前もコレでも腰に巻いとけ」
「へっ?」
ジャージを脱ぐと、ソレに向かって投げ渡す。受け取ると同時に自身の衣服を確認したソレは顔を赤くしながらも、手慣れた感じでジャージの両腕を巻いて腰前を隠して見せた。
「あり、がとう」
そんなお礼を聞く暇もなく、守はトモエを抱きかかえるとお姫様抱っこをしてみせる。むわり、じゅわりと熱気と汗がタンクトップ一枚になった守の肌に直接訴えかけてくるが、今はそんなことに意識を向けるよりも、急いで城へ戻る事にした。
駆け足で城へ向かう守のあとを無言で付いてくるソレだが、『ありがとう』と確かに言えるソレに今のところは危険はない、と判断してその行動を許すのであった。




