12:一発面談5
守とトモエがそれぞれ家来を従えた頃、トコロテンは野村の採点を開始していた。
(容姿はまぁ、眼鏡か……中肉中背で、いまいちパッとしないけど……)
間違いなく、コイツは私を裏切ったりするようなタイプではないと確信するトコロテンである。魅了の禁術も駆使しているのだ、選別に大きな誤りは無いだろう。
「私の事、どう思う!?」
六畳間の部屋に連れ込んで開口一番、そんな問いかけをしていた。
「えっと、ええ? その、可愛らしいお嬢さんだと思います、よ?」
(元気な子供っぽくて)
と、内心で追加して感想を漏らす野村だが、調子に乗り出すトコロテン。
「そ、そーお? わ、わわわわ、私で良ければ貴方みたいな子でも付き合ってあげても良いんだからね?」
恐ろしき切り替え力。彼氏に浮気され逃げた先の世界で一晩過ごしただけで、もう次の相手を手中に収めようとしているのである、この乙女は。
「いやー、でも歳が離れすぎてるんじゃ……」
「大丈夫、私こう見えても三十代だから!」
「えっ? 私もそうなんですよ。それにしても、全然みえませんね、もっと突き抜けて若いかと勝手に思ってました」
「えへへ」
「ちなみに、何歳なんですか?」
折角細かい年齢を誤魔化していたトコロテンだが、そんな配慮に切り込んでくる野村である。
「うっ……サンジュウ、サンサイ」
鯖を読んで一つだけ年齢を下げて伝えていた。
「ああ、私もなんですよ! 本当、偶然ですね」
偶然も何も、トコロテンが自分よりも年下を選んだから必然にも近い偶然である。年下という点はクリアだ、そして……。
「その、貴方は好きになった相手を裏切ること、そう、浮気とかどう思いますか!」
「……? えと、私は良くないことだと思います、けどそりゃ人ですから生存本能に従順なのもまた摂理、だとは思います」
トコロテンが想定してた回答は『許せない』とか『考えられない』というものだったが、野村は思いのほか懐が深いようである。
「あっ、浮気に関してはそんな考え方ですけど、私にはそもそも浮気って単語が当てはまらないと思ってるんですよ。私と一緒に歩むパートナーに対して、一緒に頑張っていく時にそんな余力は一切ないですからね。自分の事だけでも大変なのに、妻や子の分まで頑張らなきゃいけないですから」
「でも、それが本当に人生、楽しいと思うんですけどね」
何だこの男は、一途で優男ドストライクではないか。トコロテンもここまで自分の意志をもって魅了に応えてくれた男性は初めて出会った。何せ、魅了されたら数日間は傀儡の如く心境に秘めた汚い回答が返される事がほとんどだったのだ。元に戻った瞬間、裏切りや本位ではなかったとか、好きな事いってどこかへ行ってしまうパートナー達に何度悲しみを背負ったか(翌日には忘れているが)。
「ふ、ふぅん? な、なら私を妻にしても良いわよ。きっと、素敵な」
「あっ、でも私の妻は今二人目を身籠ってまして。本当、頑張らないといけない時期なのに弓師へなれとか、うちの会社オカシスギナンデスヨ……給料も半分以下に減給とか、もう辞めてやるって思わず怒鳴ったら退職金も半分以下で渡されて……家にそのお金を置いて、私がベンチで途方にくれていた時でしたよ。地面ばかりみてたのに、ふと空を見上げたらパァ! と、私を導くような光が見えて!」
「……」
「きっと、何かがあるんだって思ったんです。すぐに行動しちゃう癖はよく怒られるんですけど、直感って大切だと思うんですよね。こうして、意味も分からないままお城の中まできちゃいましたし!」
「今、ナンテ……」
「え? その、すいません。特に理由もないままこんな場所に来ちゃいまして、私のくだらない話に」
「ちがっ、貴方!? そんな冴えない感じの眼鏡で特に特徴もないほんっとうに何で生きているのか意味がわからないような貴方、さっき妻が何とか……」
「……? 私の妻の写真がみたいんですか? それならそうと……何でそんな怖い顔しているんですか?」
トコロテンは涙を浮かべながらこの一途な優男の立ち位置を理解してしまっていた。
「この、既婚者めぇぇぇーーー」
涙の粒が零れ落ちると同時に、トコロテンはダッと駆け出していた。取り残された野村は、最後まで名乗る事もなくポツンと六畳間に取り残されるのであった。




