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境界線の上  作者: 神無 乃愛
外伝
73/74

勝敗の行方2

 思ったようには進まない。ダレルはそれを痛感した。

「くそっ!」

 ツヴァイが思ったように動けていないのだ。指揮官も優れていることながら、「()」で判断するマルドゥラの活躍が大きいだろう。

 そして、その「()」を信じて射撃する数人が操る機体。それだけでマルドゥラを信じるにはもってこいだ。


 陽動は間違いなく失敗する。その時、ツヴァイがどのような行動をとるか、少し楽しみになってきた。

 今まで、上官の命令も聞かない男だ。自分で撤退して他色殲滅に動くか、マルドゥラ機を見つけて撃ち落すかどちらかだ。

 出来うることなら、後者がいい。

『うわぁぁぁぁぁぁ!!』

 被弾した同色機に乗っていた男の声がした。

『体勢を立て直せ! 慌てれば相手の思うつぼだ!』

 その言葉がどれくらい通用しないか、ダレルは通常戦でよく知っている。

 その場で冷静になれた者だけが生き残れるのだ。


 ズダダダダダ!

 シェムが回り込みに成功し、数機を一瞬で破壊した。

『この機に乗じろ!』

『ラ……了解(ラジャー)!!』

 いいタイミングだ。シェムがあの場で撃たなかったら、おそらく士気はもっとさがっていたはずだ。

 やはり、あの男は使える。


 そして、もう一つ嬉しい知らせがあった。

 厄介な「青」が戦線離脱したのだ。こちらに関わっているべきでは無いと判断したのかもしれない。「赤」へ飛んで行き、ツヴァイの乗る巨体(コア)に叩き落されていた。

 残りはアーロン機とマルドゥラ機か……。また面倒なところが残ったものだ。


『諸君、演習終了だ。これより残機を確認し、勝敗を決める』

 デールの声で終了が告げられた。



 結局、初動が悪かったせいで黒は勝利できなかった。


 残機は「赤」に次いで二番目だったのだ。


「残念」

 巨体(コア)から降りたダレルは楽しそうに呟いた。隣にはツヴァイが座っていた。

「残念そうに聞こえんな」

「もう少し『赤』を倒せれば、間違いなく勝利だったはずだ」

「最初からお前が指揮を執ればよかったのだ」

「私に対する一般兵の評価が低いようだ。それなら私以外が指揮を執った方がいい」

「……相変わらず士気を大事にするんだな」

「当然。士気がさがった軍隊では負けやすい」

「で、『ダーク』さんよ。面白かったか?」

「勿論。久しぶりに操縦桿を握ったよ。やはり私にデスクワークは不向きのようだ」

「流石だな。『半端者のダレル』」

 ツヴァイの言葉に皮肉は無い。


 そんな話をしていたら、マルドゥラが不本意そうに歩いてきた。

「おや、勝ったのに浮かない顔だね」

「……試合に勝って勝負に負けた感じがしますから」

 その言葉に、マルドゥラの後ろにいたオスカーが笑っていた。やはり、一番最初にリタイアしたビルが悔しそうにしていた。

「撃ったのは私と、この『ツヴァイ』だ」

「今度は、二人を自分が撃ち倒します」

「楽しみにしている。アーロン、目先の楽しさを追い求めるな」

「すみません」

 楽しさを求めるのは分からなくは無いがな、そう呟いたのはツヴァイだった。

「ダレル准将」

 すっとマルドゥラが敬礼した。

「『赤』にいた人物で数人、あなたに紹介したい方がおります」

 その言葉に、ツヴァイが反応した。

「君の名前は?」

「元第二特別特殊部隊所属、マルドゥラ。階級は准尉です」

「あぁ、有名な『遠見のマルドゥラ』か。どおりで撃ち落せなかったわけだ。

 俺はデン……同じ孤児院出身で、ダレルの同期だ」

「『白き煙幕』の異名をとるデン大佐でしたか」

 そう答えたのはオスカーだった。「白き煙幕」と呼ばれるほど、射撃速度は速い。そして弾が切れたあと、交換するのも速い。それ故、「白き煙幕」もしくは「白」だけを取り、「ツヴァイ」と称されるようになった。

「で、私に紹介したい人物とは?」

「一人は『赤』で副官をしたR-38という機体に乗っていた男……」

「飛んでいる機体の番号を見分けれるのか?」

「勿論です。ダレル准将はB-47でしたね。そしてビル少佐の機体をダレル准将と一緒に撃った機体はB-5でした」

「……大当たり。流石『遠見』と若くして二つ名をとっただけある」

「恐れ入ります。デン大佐」

 そして、マルドゥラの紹介でR-38に乗っていた男、イーサスを知った。


 あれだけの陽動作戦の中で冷静さを失わず、そして部下の士気を保ち続けた力量、確かに賞賛に値する。

「注目を受けるものだとは思いませんでしたけどね」

 どうやら、ダレルに見出されるのは不服なようだった。

「ならば、私と仮想空間(ヴァーチャル)になるが勝負しようじゃないか。それで私を認めてくれたら私の部下になってくれ」

 既にデスクワークだけになった男にイーサスは興味が無いのかもしれない。

「『孤児院洗礼方式』だ。ただし、有人は一機ずつ、つまり自分たちだけだ。あとは自分でコントロールすることだね」

 もっとも、ダレルは一機で総てを片付けるつもりでいるが。


 ツヴァイが呆れた様子でこちらを見ていた。伊達に長い付き合いをしているわけではない。結末が見えたのだろう。

「それから、一応はんでとして、私は数世代前の機体に乗るつもりだよ。乗りなれているしね」

「了解しました。俺が勝ったら、あなたは今の地位から引退してください」

「いい条件だ」

 にやり、思わずダレルは笑った。


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