勝敗の行方2
思ったようには進まない。ダレルはそれを痛感した。
「くそっ!」
ツヴァイが思ったように動けていないのだ。指揮官も優れていることながら、「瞳」で判断するマルドゥラの活躍が大きいだろう。
そして、その「瞳」を信じて射撃する数人が操る機体。それだけでマルドゥラを信じるにはもってこいだ。
陽動は間違いなく失敗する。その時、ツヴァイがどのような行動をとるか、少し楽しみになってきた。
今まで、上官の命令も聞かない男だ。自分で撤退して他色殲滅に動くか、マルドゥラ機を見つけて撃ち落すかどちらかだ。
出来うることなら、後者がいい。
『うわぁぁぁぁぁぁ!!』
被弾した同色機に乗っていた男の声がした。
『体勢を立て直せ! 慌てれば相手の思うつぼだ!』
その言葉がどれくらい通用しないか、ダレルは通常戦でよく知っている。
その場で冷静になれた者だけが生き残れるのだ。
ズダダダダダ!
シェムが回り込みに成功し、数機を一瞬で破壊した。
『この機に乗じろ!』
『ラ……了解!!』
いいタイミングだ。シェムがあの場で撃たなかったら、おそらく士気はもっとさがっていたはずだ。
やはり、あの男は使える。
そして、もう一つ嬉しい知らせがあった。
厄介な「青」が戦線離脱したのだ。こちらに関わっているべきでは無いと判断したのかもしれない。「赤」へ飛んで行き、ツヴァイの乗る巨体に叩き落されていた。
残りはアーロン機とマルドゥラ機か……。また面倒なところが残ったものだ。
『諸君、演習終了だ。これより残機を確認し、勝敗を決める』
デールの声で終了が告げられた。
結局、初動が悪かったせいで黒は勝利できなかった。
残機は「赤」に次いで二番目だったのだ。
「残念」
巨体から降りたダレルは楽しそうに呟いた。隣にはツヴァイが座っていた。
「残念そうに聞こえんな」
「もう少し『赤』を倒せれば、間違いなく勝利だったはずだ」
「最初からお前が指揮を執ればよかったのだ」
「私に対する一般兵の評価が低いようだ。それなら私以外が指揮を執った方がいい」
「……相変わらず士気を大事にするんだな」
「当然。士気がさがった軍隊では負けやすい」
「で、『ダーク』さんよ。面白かったか?」
「勿論。久しぶりに操縦桿を握ったよ。やはり私にデスクワークは不向きのようだ」
「流石だな。『半端者のダレル』」
ツヴァイの言葉に皮肉は無い。
そんな話をしていたら、マルドゥラが不本意そうに歩いてきた。
「おや、勝ったのに浮かない顔だね」
「……試合に勝って勝負に負けた感じがしますから」
その言葉に、マルドゥラの後ろにいたオスカーが笑っていた。やはり、一番最初にリタイアしたビルが悔しそうにしていた。
「撃ったのは私と、この『ツヴァイ』だ」
「今度は、二人を自分が撃ち倒します」
「楽しみにしている。アーロン、目先の楽しさを追い求めるな」
「すみません」
楽しさを求めるのは分からなくは無いがな、そう呟いたのはツヴァイだった。
「ダレル准将」
すっとマルドゥラが敬礼した。
「『赤』にいた人物で数人、あなたに紹介したい方がおります」
その言葉に、ツヴァイが反応した。
「君の名前は?」
「元第二特別特殊部隊所属、マルドゥラ。階級は准尉です」
「あぁ、有名な『遠見のマルドゥラ』か。どおりで撃ち落せなかったわけだ。
俺はデン……同じ孤児院出身で、ダレルの同期だ」
「『白き煙幕』の異名をとるデン大佐でしたか」
そう答えたのはオスカーだった。「白き煙幕」と呼ばれるほど、射撃速度は速い。そして弾が切れたあと、交換するのも速い。それ故、「白き煙幕」もしくは「白」だけを取り、「ツヴァイ」と称されるようになった。
「で、私に紹介したい人物とは?」
「一人は『赤』で副官をしたR-38という機体に乗っていた男……」
「飛んでいる機体の番号を見分けれるのか?」
「勿論です。ダレル准将はB-47でしたね。そしてビル少佐の機体をダレル准将と一緒に撃った機体はB-5でした」
「……大当たり。流石『遠見』と若くして二つ名をとっただけある」
「恐れ入ります。デン大佐」
そして、マルドゥラの紹介でR-38に乗っていた男、イーサスを知った。
あれだけの陽動作戦の中で冷静さを失わず、そして部下の士気を保ち続けた力量、確かに賞賛に値する。
「注目を受けるものだとは思いませんでしたけどね」
どうやら、ダレルに見出されるのは不服なようだった。
「ならば、私と仮想空間になるが勝負しようじゃないか。それで私を認めてくれたら私の部下になってくれ」
既にデスクワークだけになった男にイーサスは興味が無いのかもしれない。
「『孤児院洗礼方式』だ。ただし、有人は一機ずつ、つまり自分たちだけだ。あとは自分でコントロールすることだね」
もっとも、ダレルは一機で総てを片付けるつもりでいるが。
ツヴァイが呆れた様子でこちらを見ていた。伊達に長い付き合いをしているわけではない。結末が見えたのだろう。
「それから、一応はんでとして、私は数世代前の機体に乗るつもりだよ。乗りなれているしね」
「了解しました。俺が勝ったら、あなたは今の地位から引退してください」
「いい条件だ」
にやり、思わずダレルは笑った。




