五十七
一年後。
ヴェルツレン侯爵領にあるとある教会。一人の女性が諦め悪くわめいていた。
「だから、どうして私なんですかッ!!」
わめいているのは花嫁姿のベティである。先月カーン帝国軍を退役した。
「どうしてって……僕が決めたから?」
未だに兄弟のように仲がよいセシル殿下を巻き込んでプロポーズしたのは昨年。婚約から結婚にこぎつけるまで一年もかかると思わなかった。やっぱりベティは手ごわい。
「マルドゥラ准尉だっているじゃないですか!!」
「僕、馬に蹴られる趣味はないよ」
そう言って、ヴェルツレン侯爵トーマスは花嫁を優しく抱きしめた。
「何ですか! その消去法みたいな言い方は!!」
「ベティ……僕なりに考えてプロポーズだってしたし、了承してくれたじゃん」
「……そ……それは……」
真っ赤になった顔のベティを見てトーマスは微笑んだ。
「てっきり僕はイーユン大佐のこと好きだと思ってた。でも違ったみたいだし」
「いつ……から?」
「イライザさんと絡んでからかな? ベティが凄く可愛く見えた」
あれがなければ、きっとベティを誤解したままだっただろう。ちなみに、マルドゥラはオスカー少佐と「おつき合い」を始めたらしい。ここもじれったいと思うのは、トーマスだけではなく、メイナードもそうらしい。あの二人が一緒に「ガルタ」で空を翔る姿は皆を惹きつける。
自分を含めて孤児院出身者が色々変わったと思う。皆それぞれの道を歩みだしている。
「私は結婚する気がないからね」
そう笑って言うのはダレル准将である。一生軍で生きていくつもりらしい。イーユン大佐は退役し、孤児院の改革に取り掛かりたいと言っていた。出来うることなら不幸な子供を増やしたくないと。
カーン帝国はあのあと間もなく、セシル殿下が王位についた。大戦を防いだことで国民の支持を圧倒的に集めた形となる。その隣に控えるのはアッカー中佐。セシル陛下の右腕とも言えるだろう。
「とりあえず、侯爵夫人としてしてもらうのは、お祖父様のお墓参りだよ。あとはサシャが色々教えてくれるから」
「方舟」は眠りについた。出来ることなら二度と動かしたくない。アレは本当に恐ろしい。惑星一つ簡単に潰せるだろう。それを兵器として扱う自分が怖いと思った。そしてあの時祖父が難色を示した理由も今なら分かる。
それはあの戦いで学んだ一番の出来事だった。だからこそ、各国へパイプを持つ。それがヴェルツレン侯爵としての役割だと思っている。
バークス公国のエメラダ王女とシャン・グリロ帝国皇太子との婚姻も、エメラダ王女が意識を取り戻したあと再度滞りなく終わった。
そのうち自分たちも、と思っていたらメイナードが「教会押さえたぞ~」と笑いながら入ってきたのは、先月。
あれよあれよと言う間に決まって、おそらくベティはついていけないのだろう。ドレスはサシャがしれっと用意していた。
これが楽しいと思った。初めて心から笑ったかもしれない。それは皆もそうだと思いたい。
この平和が続けばいい。隣でベティが笑い、そしてかけがえのない仲間が一緒にいれば。
本編は一応ここで終了です。登場人物をこれから書いていきます。
あとはぽちぽち手直ししたいな、と。
彼らのこれからはまたどこかで書きたいと思っています




