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五十六
半年後。
戦いは一応収束した。
また、仮初の平和の始まりである。
ヴェルツレンの密命を帯びた人間はまた、各国へ散らばっていく。それが「彼ら」の役目だから。
結局「個体チップ」はそのままになった。今度は産まれてすぐが義務になるらしい。
「相変わらず、アレはやだねぇ」
女が呟いていた。
「あ、あんた。行かなくていいのかい?」
「行くさ! なんたって今日は婚約の日だ!」
シャン・グリロ帝国の辺境にいた男が笑っていた。
「今度のヴェルツレン侯爵のお嫁さんは別嬪さんだからな!」
「今回は婚約だろ! お嫁さんじゃねぇよ」
「婚約するのにカーン帝国のお力借りたんだってよ。なかなか面白いご婦人だ」
「年上だってさ! 尻にしかれるかねぇ」
国を跨いで笑いあえるのは今しかない。また、敵に戻る。
ただ本当に主といただくのは「方舟」を操るヴェルツレン侯爵のみである。操れない愚か者は主ではない。




