四十九
「ヴェルツレン殿にお会いする」
会談から戻ってくるなり、セシル殿下は告げた。
「私には手におえない。私は個人的にバークス公国かエルグス共和国が絡んでいると思っている」
「了解」
すぐにヴェルツレン家に向かい動く。
「……それはありえぬな」
あっさりとヴェルツレン前侯爵は言う。
「わしも『個体チップ』には反対しておる。だが、あの阿呆な動きをする輩に力など貸したくもない」
「……そうですか」
「他とて同じであろうよ。『個体チップ』は三国のみに利益をもたらす。他は利益など何一つない」
緊迫した空気は軍どころか国中に伝わっていた。
「国民の不安ぐらいは除きたいところではあるが」
「難しいでしょう。衛兵がどんなに頑張っても誰一人内容を知らない」
セシル殿下とダレル大佐が呟いていた。
「今、『個体チップ』を埋め込まれていることが仇になっています。『どこに、誰が』いるか相手には伝わるわけですから」
「ダレル大佐、私も同感だ。今までこんな不安感じたことはなかった」
「孤児院からも繰り上がりの卒業者で兵士を増やすそうです」
イーユン中佐から告げられる真実。戦争に突入しかねない恐ろしさである。
この話を聞いているのかいないのか、マルドゥラは虚空をじっと見つめていた。
「どうした? マルドゥラ准尉」
「いえ……何でもありません」
次の瞬間、メイナードが発砲した。
「……ぐぁ……」
「殿下!?」
「あなたは、セシル殿下ではない。本当のセシル殿下はどこですか? デイ少佐」
「!!」
「いかにも殿下がおっしゃりそうなことばかりでしたが、特殊メイク剥がれています。おそらく陛下の命令でセシル殿下を拘束、そしてあなたが変装してきたのでしょうね」
「いつ……」
「最初からです。特殊メイク如きを私が見破れないと思ったんでしょうか。色々見てみましたが、そこらじゅうに偵察兵がいるのでいい加減嫌になってきました。メイナードに伝えておけば、私の合図であっさり撃ってくれますから」
「私を撃てばいいのではありませんよ」
「でしょうね。すぐに私たちを拘束されるのでしょう?」
冷たくマルドゥラが言い放った。
「ただ、私たち三人はともかく他の方々を拘束して他国に勝てますか?」
悔しそうにするデイ少佐を黙ってみていた。
「トーマス、逃げて」
マルドゥラが囁いた。
「ベティ中尉、お願いします!」
「分かったわ! 行くわよ!トーマス、メイナード!!」
その言葉に全員が動いた。




