四十五
ヴェルツレン侯爵家には専用の護送機がある。操縦は執事がする決まりになっており、数人の侍女だけを連れてカーン帝国へ入国した。
「ヴェルツレン前侯爵、ようこそ」
「エルグスへ行くには一番手っ取り早いでの」
国王の言葉にもあまり気にせずヴェルツレン前侯爵は返してきた。
「此度のエルグス共和国へ行く理由は?」
「娘夫婦とその付き添いの墓参り」
「そうであったか……朕にも娘がおったゆえ、その気持ちはよく分かる」
杖をつきながらも、しゃかしゃか歩く前侯爵に全員があっけに取られていた。
ミイラ状態にヴェルツレン前侯爵が驚くものの、ダレル大佐はあっさりと「先日の軍事演習で負傷しました」と嘘を述べたことで、追及はなくなった。
「さて、本日は晩餐……」
「わしは誰かと食べるということが出来ぬ。申し訳ないが護送機の中で食べさせてもらう」
陛下のお誘いをヴェルツレン前侯爵はあっさり断っていた。
翌日にはエルグス共和国へ向かうことになっていた。
宿舎が留守になるため「宝物」を懐にしまう。開発室の人間もこれを受け取るのを拒否するので、トーマスが管理せざるをえない。
「先日公国内で起きた襲撃事件、手腕お見事でしたな」
「私たちは手助けをしただけです」
セシル殿下がさらりと答えていた。今回護衛用巨体に乗るのはイーユン中佐とオスカー大尉にマルドゥラ。それに加えてビル中尉とベティ中尉も加わっている。
「そうは聞かぬがな。腑抜け騎士どもに『カメレオン』など撃退できまい」
辛らつすぎるヴェルツレン前侯爵の言葉に、全員が苦笑していた。
ヴェルツレン前侯爵令嬢の墓参り、その場所はトーマスの「母」の墓でもあった。やっぱり、イライザが指摘した通りなのだ。
「クリスティには当時、婚約者がおった。エルグス家からの縁談をそれで断ったつもりであったが、やかましくてな。娘直々に断りに行くと言ってあの日、エルグスのところへ婚約者と共に行った。行かせるべきではなかったと今になって思う」
――……――
何か雑音らしき音が聞こえてきた。
「あなたは、ゼンの国出身かな?」
聞かれたのは、マルドゥラだった。
「分かりません」
「いや、ゼンの国の人間は目がかなりいいと聞く。茶色の瞳と視力のよさ、そこからわしが思ったに過ぎぬ」
「彼女はゼンの国出身ではありません。トークン国出身です」
イーユン中佐が逆に答えていた。
「あなたがご存知なのか?」
「はい。小生が十年ほど前にトークン国から百人単位で預かってきました。その時に一緒でしたもので」
「左様であったか。トークン国は貧しい故、口減らしは未だ多いのであろうな。……トークン国は以前ゼンの国から移民を受けておったはず。先祖がえりなのやも知れぬな。そちはセントロ国出身かな?」
次はベティ中尉だった。
「分からない者が多いです。ほとんどが『個体チップ』を埋め込む前の年齢で『孤児院』に来ますから。例外がたまにあるくらいで」
「ほう、では例外は?」
ダレル大佐の答えに質問で返してきた。
「私が例外中の例外です。両親が十歳の時に他界しましたので、そこからちょこっとだけお世話になっておりました。アッカー家とあなたに言えば分かるでしょうか?」
「知っておる。カーン帝国軍事の要」
「はい、そのアッカー家です。兄が二人おりますが、両親が孤児院の実態を調べたがっていましたので、少々遺志を継ぐ形でお世話になりました」
他国のことなのによくここまで知っている、こちらは驚くしかない。
「ヴェルツレン前侯爵閣下、そろそろ戻りましょう」
「ここにいる皆とわしは話がしたい。カーン帝国の国境まで行ったら、全員護送機に来てもらいたい」
「何故、ですか?」
セシル殿下も驚いていた。
「重要な話ゆえ。貴殿にも入ってもらいたい」




