四十
バークス公国に行く特別機では、すでにピリピリとした空気が流れていた。この兄弟仲が悪いのかな、そう思ってしまうほどに。
「父上が行かぬのに、セシル、そなたが行くのはおかしいのではないか?」
「兄上、そのように言われましても、バークス公国から『正式な』招待状が私宛にも届いているのですよ。それにアッカー少佐とデイ少佐がいますから、父上は大丈夫です」
「ならばよいが。エルド・ラド国へ公式訪問した際も大変だったと聞くが」
「えぇ。第二特別特殊部隊と近衛隊のおかげで危機は脱出しましたが」
『セシル殿下、前方に戦艦が。後方にも戦闘機多数』
マルドゥラの声が割り込んできた。
ダレル大佐が頷くのを見て、ベティ中尉と共にレーダーのところまで行く。先日のようなステルス戦闘機ではなく、どちらかと言えば偵察機や哨戒機のように思える。
「おそらくエルグス共和国内のため、我々がどこに向かっているのかを共和国で知りたいがために行っているものと思われる。前方戦艦はおそらくバークス公国のもの」
『了解しました』
ダレル大佐の指示にあっさりマルドゥラは引き下がった。レーダーを見ればそのあたりは分かると毎回思ってしまうが。
「よく分かるわね」
「見れば一目瞭然です」
ひそひそとベティ中尉と話しをする。だが、そこまで詳しく分かるのは難しいと言われた。
「しかし、そなたの名前は何といったか? そのような顔でバークス公国へ入られては我が帝国の名を汚す。残っておれ」
「兄上、彼も正式に招待されているのですよ。私の弟分として」
「セシルの弟分?」
「はい。エルド・ラド国での動きは父上も彼の動きを賞賛しております。それゆえ、バークス公国の方の覚えもよろしいのですよ。一介の兵士なのであえて名前は名乗らせませんが」
「……ふむ。仕方あるまい。ただ、私の傍には来るな」
行きませんから、その言葉をトーマスは飲み込んだ。
「そういえば舞踏会があったな。セシルは誰と踊るのだ?」
「部下であるベティ少尉と」
「ならばもう一人の部下であるマルドゥラ……」
「マルドゥラ准尉は警護することで決まっております。それにご側室の里帰りですよ? そこで他者をエスコートしてどうするのですか?」
セシル殿下が王太子の言い分を一瞬で却下していた。




