三十三
数ヵ月後、第二特別特殊部隊のメンバー全員が中立国エルド・ラド国へ行くことになった。
「おや? てっきり特別機に全員乗るものだと思っていたのに」
セシル近衛隊長が不思議そうに言ってきた。
「イーユン中佐とオスカー大尉にビル中尉、それからマルドゥラ准尉は護衛用巨体を操縦中です」
ダレル大佐が敬礼をしながら言った。
「驚いた。あの事件から一年も経っていないのに、あの子は既に操縦できるのか」
「はい。問題なく。飛行型巨体を操縦させれば私よりも上のテクニックですよ」
「ダレル大佐以上のテクニックか……本当に凄い子だね」
『ダレル大佐、トーマス准尉へレーダーの確認お願いします』
ちょうどマルドゥラからの通信が入ってきた。
『どうも後方に嫌な機体があります』
「分かった。トーマス准尉頼んだ」
「了解」
すぐさま専用のレーダーを確認する。……何だこれは。
「ダレル大佐、厄介です」
「どうした?」
「後方から複数機飛んできます。ステルス素材をふんだんに使った最新鋭の機体と見て間違いありません」
すぐさま機体内に緊張が走った。
双眼鏡でダレル大佐が確認するものの、機体は見えない。おそらく見えないように迷彩を施しているのだろう。
「……『カメレオン』かもしれない」
「何故、『カメレオン』がこの周辺を……というか巨体どころか戦闘機すらありませんよね?」
「カメレオン」、トーマスには覚えがある。養父母と父を殺したゲリラ部隊である。その名の通り、擬態が上手いゲリラ部隊で、気がつくと目の前にいるというのが特徴である。
「……どこかで手に入れたかも知れない。もしかしたら他国の護衛機かもしれない。……要注意だ」
「はい」
その言葉だけで全員が戦闘できるように準備を始めた。
「では、私たちは陛下の身の安全をお守りするようにする」
「お願いいたします」
『気をつけてください! おそらく戦闘機等を出した隙に中に入られます!』
『マルドゥラ?』
『気がつくのが遅くなりました。既に囲まれています』
イーユン中佐も悔しそうに言う。
『上等だ! ビル中尉、ベティ中尉、それからトーマス准尉、君たちは特別機に残れ! 向こうに一発入れられたら、戦闘開始だ!』
『ダレル大佐?』
『いいか? おそらくこの機体を確実に狙っている。どこの誰かは分からないが、一発撃った時点で向こうが宣戦布告したのと同じ。内密に機体が出る場所に残れ。そして見つけた人物は全て沈めろ! そしてトーマス准尉は全機に敵の位置を!』
『分かりました!』
その言葉でトーマスはレーダーの場所へ戻った。
「なっ!?」
驚いたように声をあげたのは、近衛隊の一人だった。
「ダレル大佐の命令です!私たちは戻ります」
話している暇はない。無線機らしきものを取り出した瞬間、言われた通り沈めた。
ダレル大佐の読みどおり、二機出た時点で向こうが撃って来たのだ。
『全方向、囲まれています! ダレル大佐! すぐ近くに! 他の方もすぐ近くにステルス機体があります!』
『用意周到だな、これは。中のほうは?」
『予想通り、機体に紛れ込んでいました。おそらく近衛部隊のどなたかが手引きしたものかと』
『話はあとだ! 全機全損! やりたいようにやれ!』
『了解!!』
トーマスはただひたすらマルドゥラ以外に敵の位置を教えていく。それに従い、全員が敵機体を打ち砕いていく。途中からは呆れ果て、相打ちをさせるように指示され、全員にその指示を出していく。
『見事だね。ここまでレーダーを見てもらえると』
『陛下は今のところご無事です。離れませんが』
ビル中尉から連絡が入ってきた。
『そうして欲しい。ベティ中尉はトーマス准尉の護衛を』
『とっくにしております』
数ヶ月で連携が取れるようになったのは、ひとえにダレル大佐のおかげである。
『ダレル大佐! 後方に大きな戦艦が!!』
トーマスの叫びとマルドゥラの叫びはほぼ同時だった。
『アレは大丈夫だ。一応は神聖シャン・グリロ帝国の護衛艦だ』
唐突にセシル近衛隊長の言葉が入ってきた。
『ここで戦闘してしまえば、また世界大戦の発端になる。そこまではしない。さきほどまでの機体に関してはあなた方の言う通り、あちらから戦闘を仕掛けてきたため防戦しただけのこと。このまま護衛して欲しい』
『了解しました』
常に一発触発なのだ。
ここはおとなしく、セシル近衛隊長に従おう。




