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境界線の上  作者: 神無 乃愛
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三十二


 数ヵ月後。

 マルドゥラの怪我も治り、宿舎も出来上がった。完全に「第二特別特殊部隊」の発足である。

「祝いにきたぞ~~!」

 そう言って入ってくる面々はまずは開発室の人間。祝いは……開発室特製簡易食事だ。今まで実験台に散々なっているので味は分かる。そして、その中でも「美味かった」ものだけだ。

「食堂行きたくない時便利だな~~」

 全員ほのぼのとしている。正直やっかみは多い。

「ま、そのうちもっと持ってくるよ」

「感謝~~!」

 そんな馬鹿な会話をしていたら軍宰相と孤児院の院長が来た。

「わざわざお越しいただき、ありがとうございます。閣下」

「盛況で何よりだ。開発室の人間がこうやって来るというのも、珍しい」

「ここは協力関係が出来てますから」

 イライザがきっぱりと言い放った。

「そうか。それは何より。これは私から、こちらは王太子殿下から、こちらは陛下と近衛部隊からだ」

 軍宰相が見せて言う。

「今回ばかりは受け取ってもらえると助かる。侘びも入っているそうだ」

「ありがとうございます」

 王太子殿下からは余計だ、全員の視線が物語っている。

「さて、今まで何をしていたのかだけ報告してもらおうか」

 全員に緊張が走った。


「私とトーマス准尉で書庫にお邪魔しておりました」

「それは知っている」

「色々調べたいことがありましたので。何せ特例中の特例部隊ですから、知識はあったに越したことはないかと。あとは開発室でのテスト飛行、それからイーユン中佐、もしくは私を指揮官とした訓練、マルドゥラ准尉は療養とリハビリです」

 ダレル大佐の言葉は偽りはない。所々抜けてはいるが。

「そうか……訓練事項に全員舞踏を入れておいて欲しい」

「は!?」

 オスカー大尉が驚いたように声をあげた。

「……少数精鋭のため、たまに近衛部隊に混じって警護していただく場合が出てきた……殿下のごり押しだ」

「……宰相閣下……私と当初どのような約束をしましたか?」

 珍しくダレル大佐が怒っている。

「分かっておる! それを逆手に陛下の護衛の方にまわす予定だ」

「ならばよろしいのですが。こちらとしても舞踏をするのも一興ですので」

 確かにこれからの目的のためには、舞踏くらい出来ていてもいい。

「話が早くて助かる。一応舞踏の教官はアッカー少佐とデイ少佐にお願いした」

 明日から来るらしい。午後から数時間取られるとの事だ。

「承りました」

 心底嫌そうにダレル大佐が呟いた。

「……あんたには必要ないんだけどね? ダレル」

「うるさいですよ」

 二人がいなくなったあと、早速イライザとダレル大佐の舌戦が始まった。

「しかもデールかぁ……軍宰相殿もなかなか面白い人選だ」

「わざとでしょう」

「おそらくね。まぁ、デールもデイ少佐も近衛部隊の隊員だからねぇ?」

「マーベラも私苦手なんですけど。私の苦手な二人って嫌がらせでしょうか?」

「おそらくね。……こちらの動向を探りたいってのもあるんじゃない?」

「ま、女性が少ないから男性の舞踏を鍛えるためにマーベラなんでしょうが」

 ダレル大佐の人脈の広さは今に始まったことではない。スルーしておくか。ちらっと見たら、全員そう思っていたらしい。

「あんたの部隊、適応能力早すぎるね」

「褒め言葉ですね。当然です」

 まぁ、今まで散々な目にあってきた。だからこそスルースキルも高くなる。

「それはそれとして、祝いの品を見ますか」

 イーユン中佐が当たり前のように言ってきた。

「王太子殿下のは開けなくてもいいような気が」

「開けましょう。礼を言わなくてはならない場面が来ると悪いですから」

 開けてびっくり、とはこのこと。全員が呆れた。

「何ゆえ王室御用達の茶葉セットなのだ?」

「嫌味でしょうかね。我々には無用の長物です」

「……これ、宿舎(ここ)じゃ飲めないよね?」

 まずもってティーセットがない。湯沸しようの鍋はあるが、茶をこす道具がないのだ。それに比べ、陛下と近衛隊からのはかなりまとも。きっと近衛隊で選んでくれたのだろう。

「そういえば、院長先生も何か置いていきましたよね?」

 マルドゥラが自慢の目で気がついていた。

「ザガリー閣下が?」

 イーユン中佐も驚いていた。

「はい。こっそりと」

 中身は簡易ティーセットだった。


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