二十四
「ダレル=アッカー。世界大戦でカーン帝国の軍宰相たったアッカー家の末裔だよ」
「それを言ったら、ブレナン家も昔から帝国の軍事産業の中核を担っていた家でしょう」
「簡単に言うと、昔はご近所付合いがあったんだ。ダレルさんともその頃からの知り合いだよ」
イライザとダレルの話が意味不明になってきたところで、急にベンが注釈を入れた。
「ダレルさんのご両親が事故で亡くなった時、お祖父さんはいらっしゃったけど、かなりご年配でとてもダレルさんの面倒なんて見れなかった。だから、親父が引き取ろうとしたんだけど、気がついた時にはもう既に孤児院に入る準備を整えてた。慌てて保留にして操縦関係だけ習わせに行って、学校には結局ご自宅から通ったんだ」
「そのあとは、徴兵されたけど、軍事演習は全部孤児院組。そりゃ、操縦関係の卒業試験は受けたってんだから当たり前だよねぇ。そのまま現在に至る」
そんな過去をお持ちの方とは。
「いいじゃないですか、その辺りは」
「よくないよ! ったく、高等教育だけでも受けてりゃ、今頃准将位にはなれてたんだ。そしたらあたしらもここまで苦労しないんだよ」
ダレル中佐の年齢で、准将になれるってよほどな感じがしてしまう。
「その辺りはどうでもいいでしょう、今回は。それよりもトーマス曹長の持ってきた『宝物』が優先では?」
「……そういや、そうだね。予想以上に写真があって驚いたね。
これが先代ヴェルツレン侯爵の若かりし頃と、おそらくご家族だろうね。こっちが令嬢が成人してから撮られたもの。……これはおそらく婚約していたと思っていいだろうね」
拡大鏡をあてながら、イライザが説明してくれる。
「……お前、似てる」
「え?」
メイナードの一言にトーマスは驚いた。
「……似てるね、確かに。で、イライザ、何が言いたい?」
いきなりダレル中佐の口調が変わった。
「トーマス君の母親は先代ヴェルツレン侯爵令嬢クリスティと思っていい。父親は一緒に写ってるこの男性だろうね。見間違いようがないよ」
「でも、おかしいはずです。さきほどのイライザ責任者のお話だと、二十年前にお亡くなりになっていらっしゃるのでは?」
「ベティ准尉、その通りだ。だからイライザはさっき、『たまたま墓が爆撃された』という可能性を却下したんだ」
「そ。お亡くなりになられたのは、十五年位前から七年位前までの間だよ」
「……僕、が、そんな方、の?」
分からない。なにもかも。
「……イライザ、昨日マルドゥラ曹長にあの薬を持って行った。今日は顔色が良かった。よければ、本日分も貰いたい。明日の調子も報告する」
「あいよ。明日も全員こっちに来てくれ」
「それから、全員これは他言無用だ」
イライザとダレル中佐の声が遠くに聞こえた。
――あなたは貴き血をおひきの方。いつか必ず……――
だれ? あなたはだれ?
――トーマス様! お逃げください!――
やめて、そっちは銃を持った人がいるよ。
――私が言ったことは、「時間」が来るまで忘れなさい。いつか、信じられる人達と生き延びなさい――
皆死んじゃうの? 嫌だ! 嫌だ! 僕を一人にしないで!!
「トーマスッ!!」
「メイ……ナード?」
「大丈夫か? かなりうなされてたぞ。この時期のマルドゥラみたいだ」
「……悪い」
「いや、仕方ないだろ。それよりも寝ろよ。晩飯すらほとんど食ってないんだ。あと一時位で起床時間だ」
「……あ……あぁ」
なぜ、あんな夢を見たんだ? ……いや、どんな夢だった?
もう一度眠る気にななれなかった。また暗闇におちそうだ。




