十三
「何なんですかッ! もう!!」
帰ってくるなり、ベティの機嫌はかなり悪かった。
「どうし……」
「ご自身の専属メカニックにお聞きくださいッ!!」
それなりに長い付き合いになったベティがここまで荒れ狂ったことはない。
「これからもどうしてッ! 私たちの部下をテストパイロットとして開発部に貸し出さなきゃいけないんですかッ!」
「ベティ少尉、落ち着きたまえ」
ダレル大佐がなだめすかしていた。
「ダレル大佐はそれでいいんですかッ!? 訓練に遅れが出たらどうするんですか!?」
「ダレル大佐、なぜ我々がテストパイロットとして赴かなくてはいけないんですか?」
ベティがこれ以上怒らなくて済むよう、聞くのが自分の役目だ。
「……取引だ。これ以上開発部に弱味を握られるわけにはいかん」
尚更、分からない。
「もともと、ベン=ブレナンを引っ張ってきたのは、私だ。それは間違いないね?」
「えぇ。ダレル大佐の専属メカニックが腕の故障で引退するので、小生の専属メカニックがダレル大佐付きになりました」
「その時から、開発部とはぎくしゃくしてはいた。ただ、あちらとしても予算を貰うという都合上、そして、イーユン中佐の戦闘機や巨体が多いこと、専門知識がかなり必要だという観点から了承してもらった。
イライザ、ベン姉弟の母親はコニー=ブレナン」
コニー=ブレナンは有名だ。開発の人間で、そして軍の人間に乱暴を受けて殺された。そして、それを隠蔽したのが、軍なのだ。隠蔽にあたり、かなりの金額を「見舞金」としてブレナン家に渡したという話は有名である。
「その時の隠蔽にあたり、孤児院からテストパイロットを出すという約束に取り付けたのが、当時の責任者でコニーの夫だ。訴えることも侭ならず、開発に勤しんでくれたおかげで、現在の高性能巨体があると私は思っている」
「それとこれが、今どう関係があるのですか?」
「これだけでも、十分な弱味だ。その上、昨日の巨体の事故だ」
座学中に大きな爆発音が響いたのは覚えているが。
「それを起こしたのが、リディア准尉。挙句、『巨体の性能が悪い』と開発部に突っかかった。調べて分かったのだが、夜遅くまで深酒をした挙句、酔いも冷め切らぬうち、と言いたかったが、ほぼ泥酔で搭乗した。それに対して難癖をつけられ、イライザが『しばらく開発部で巨体の開発はしない。しばらくは薬品開発のみを行う』と発表したのだよ」
挙句、部品ラインも停止させますと言ってきたというからには、何か条件を飲まざるを得なかったということか。
「とりあえず、向こうを懐柔させるために、トーマス、メイナード両曹長に応援に行ってもらった。イライザはベンを再度開発部に戻すこと、それから三人を専属のテストパイロットにしろと言ってきた」
頭が痛い。
「ですからッ! 私たちの部隊は一切関係ないですよね!? これから隊員も増やして体制を整えなければ……」
「そう、ベティ少尉の言い分は最もだ。だから、リディア准将をテストパイロットにと言ったが、即効で断られた」
「正直、小生としましても、ベンが開発部に戻るのも、三人を手放すのも避けたいのですが……」
リディアは今回で完全に処分……といきたいが、何せ上層部の受けが何故かいい。そのため、あれだけ問題を起こしていても処分は重くない。
「だとしたら、どうするか? 孤児院からのテストパイロットの増強と、三人が依頼を受けてテストパイロットに行く、それからオスカー、アーロン両大尉とビル中尉、それからベティ少尉もテストパイロットとして依頼を受けたらする、というのが妥協点だ」
「小生のところばかり、割が合わないのですが……」
そりゃ、この三人を引っ張ってきたかったのは、ベティもそうだが、イーユン自身もだ。
「私のところに来た時点で尻拭い決定なのだがね」
「小生のところで、二度とリディア准尉は引き取りませんよ」
「私とて同じだ。で、リディア准尉を気に入っているあの准将が、あっさりこれを承諾したのだよ。ベンを戻すことと、専属パイロットにしないように手を打つだけで、精一杯だった……」
「…………お気持ち、お察しします」
「待て、イーユン中佐。まだ話は終わっていない」
これで終わりでないと。
「ベンが戻らないようにするために、三人がベンの手伝いをする、というのも了承させられた」
「は!?」
その素っ頓狂な声はイーユンからではなく、オスカーから出た。
「なんで我々が問題児の後始末しなきゃいけないんですか」
「だから私もおかしいとダレル大佐に何度も……」
「ベンの代わりに二名、開発部に戻さざるを得ない、つまりその穴埋めが三人だ」
「……身体、壊させるおつもりですか?」
「仕方あるまい。それを覆せるか?」




