十二
「こんちゃ~~っす」
しばらくして、開発部の男が部隊を訪れた。
「ザガリー少将、ダレル大佐の許可はもらってます。えっと、今日はトーマス君……じゃなくって、えっと……」
階級を覚えていないらしい。
「……一応、三人揃って曹長です。レイド室長」
トーマスが苦笑して、開発部の男に教えていた。名前を初めて知った。レイドか。
「あ、ありがとう! 今日はトーマス曹長と、メイナード曹長を借りに来ました!」
「あれ? マルドゥラは?」
「今日は二人だけ。マルドゥラ曹長は今日お休み」
「休みではありませんよ。レイド室長とやら。ただいま訓練中です。勝手に連れて行かないで」
ベティがすぐに抗議した。
「ですから、話は通してあります」
「行きたまえ、それからどうせだ、ベティ少尉も一緒にどうだろう? 今日はどんなことをするのか見るだけになるが」
ダレル大佐の言葉に、レイドは困った顔をしていた。
「その方が話が早くて済みそうですね。あとで責任者に報告しますんで、ベティ少尉もどうぞ」
かくして、三人はレイドの案内でダレル大佐と共に開発室へ向かった。
「マルドゥラは射撃訓練を」
「了解しました」
射撃を教えるのは、ベティがいなくなったため、オスカーへ変わっていた。
「で、どうして二人だけなんだろうね」
オスカーの問いに、マルドゥラは一切答えず射撃訓練に勤しんでいた。
「お、待ってたよ」
煙管を口にくわえた開発部の責任者、イライザ=ブレナンが豪快に笑いながら出迎えてくれた。中年の彼女イライザは、いまだ独身と噂の、開発部きっての切れ者だ。
「とりあえず、汎用型飛行タイプと地下潜行型のテストをしてくれ。そのあとは高水準レーダーの確認」
「飛行タイプなら、マルドゥラの方が……」
「とも言えないんだな、今回に関しては。どうも平均以下の方が最新型を軍の塀に埋めちゃったらしくてねぇ……『こんな変なのよこすな!』とお怒りなんだよ」
「平均以下の僕がテストしろってことですね?」
イライザの言い方にトーマスは返した。
「さすが、トーマス君! よく分かってるねぇ……マルドゥラとメイナード君が乗れたから大丈夫だと思ったんだけどねぇ」
「全員階級は曹長ですっ!」
「おや、失礼。ベティ准尉……じゃなくってベティ少尉でしたっけ? とりあえず、トーマス曹長は汎用型飛行タイプに乗って、早速感想聞かせてくれない? あたしじゃ分からんのよね~。ベンにも今日は頼めないし」
「ベンさんって……」
「そ、軍用機の専属メカニック。最近イーユン中佐専任になっちゃってね、あの方の専用機ってかなり多いからね。しばらくはメカドックから出てこれんでしょ」
最近なかなか見かけない、イライザの弟、ベンの話を聞いた。
「さてと、一時はかかるから、ダレル大佐とベティ少尉はお茶でもどう?」
軍の茶のように美味しくはないけどね、そう言いながら去っていった。
「あれ? トーマス、間違いじゃなきゃ……」
メイナードも気がついたらしい。
「うん。以前僕もテストした。ちょっと暴れ馬だけど大丈夫だと思ったんだけどね」
「トーマス以下って……どんなやつだ?」
「いつも通りの孤児院組、君たちと一緒だよ。おそらく、標準タイプも乗りこなせないんじゃないかな?」
開発室で唯一標準タイプに乗れるため、重宝されすぎて疲れているチャドが笑って答えた。
「なぁんで卒業しちゃうんだよ~~。俺の仕事増えちゃったじゃないか」
「今回卒業できなかったら、俺たち『的』になるか、娼館行きだった年齢なんだけど……」
「そんな年齢かぁ……マルドゥラちゃんも大きくなったなぁ」
「いや、マルドゥラは十三歳だからもう少し猶予あったけど、僕たち二人は猶予なし」
「あ、そうなの?」
「でも、おかしいですよ。標準タイプ乗れなかったら、卒業試験なんて出来ないはずなんですけど」
ギリギリで卒業試験に合格した人間が言う台詞ではないが。
「さぁねぇ……高飛車リディア様の考えなんざ、俺知らねぇ。とりあえず、暴れ馬なところにメンテナンス入れるから、乗って教えてくれ」
「文句って昨日?」
思い当たる節がある。
「よぉく分かったな」
「一昨日、酒飲んで暴れてたから」
マルドゥラからの報告だが。
「ってこたぁ、酒抜けてねぇままこれ操縦しちまったのか……。気の毒すぎる……マルメシア」
そう言って、汎用型飛行タイプに抱きついていた。この人はもう、疲れきって頭がいかれたせいか、毎度機体に女性名をつけ可愛がっている。最初はドン引きしたが、もう慣れた。
「さてと、じゃあ、トーマス君はマルメシアの調整頼むわ。で、メイナード君はベリの試乗頼む」
今回の地下潜行タイプにつけた名前はベリらしい……。




