第2回目 その1
その1だけで文字数が約1万となっています。
耐えられる方だけ、どうぞ。
●ロロサエ:
未設定の項目を埋めていこうと思います。まずは主人公です。名前と経歴を3個、提案して下さい。
▲AI:
現時点の設定では、主人公は「日本人男性の若手外交官」「有能で理性的だが猫好き」「幼少期に捨て猫を助けられなかった後悔を持つ」というところまで決まっています。
また、獣人受け入れを感情だけでなく、外交・安全保障・就労などの合理的理由で政策として成立させる役割なので、ある程度「官僚として説得力のある人物」にしたいところです。
私なら、次の3案を考えます。
案1 高瀬 直人
32歳。外務省入省9年目。
東京の一般家庭出身。父は会社員、母はパート勤務。特別なエリート家庭ではないが、本人は昔から成績優秀だった。
大学では国際関係論を専攻。学生時代に東南アジアへ留学し、難民問題や移民政策について学んだ経験がある。その後、国家公務員試験を経て外務省へ。
入省後は、
- 東南アジア地域担当
- 在外公館勤務
- 本省の人道支援関連部署
などを経験。
異世界人出現後、「異世界人受け入れ・国際調整チーム」へ抜擢される。
性格は真面目で現実的。感情だけで政策を動かしてはいけないことを理解しているので、獣人を助けたいと思っても、
「かわいそうだから受け入れましょう」
とは絶対に言わない。
代わりに、
「魔術師と比較して安全保障上のリスクが低い」
「集団定住に向いている」
「災害救助や一次産業に適性がある」
など、官僚らしく理屈を積み上げる。
ところが心の中では、
「……猫耳なんだよな」
と思っている。
一番オーソドックスで、現在の物語に自然に入れやすい主人公です。
案2 雨宮 颯太
29歳。外務省入省6年目。
地方都市の出身。両親は共働きで、幼い頃から一人で過ごす時間が多かった。
その頃に近所で捨て猫を見つけたのが、現在の設定にある過去の出来事。
飼いたいと母親に頼んだものの、当時住んでいたアパートがペット禁止だったため断られる。
泣きながら元の場所へ戻した猫は、翌日には姿を消していた。
大学では法学を専攻。その後外務省へ入り、条約・国際法関係の仕事を中心に担当してきた。
そのため異世界人問題でも、
「彼らは難民なのか」
「国籍はどう扱うのか」
「異世界の国家は現在も存在すると言えるのか」
「地球上でどの法律を適用するのか」
といった法的問題に関わる。
本人はかなり理屈っぽい。
獣人受け入れについても、
「感情論ではありません。現状、彼らを受け入れない合理的理由がないと言っているんです」
と言い張る。
しかし同僚から見ると、猫系獣人の話になると妙に熱心。
少し若くすることで、上司や先輩官僚との衝突を描きやすい主人公です。
案3 榊原 遼
35歳。外務省入省12年目。
外交官としては若手と中堅の境目。
父親も国家公務員だったため、子供の頃から転勤が多く、友人を作ってもすぐ別れる生活を送ってきた。
そのため本人には、
「居場所を失うこと」
への強い抵抗感がある。
幼少期の捨て猫の記憶も、その感情と結び付いている。
大学卒業後に外務省へ入り、これまで複数の海外赴任を経験。紛争地域に近い国の大使館勤務経験もあり、避難民や国外退避の現場を実際に見ている。
非常に冷静で交渉能力が高い。
異世界人出現時にも最初から、
「これは魔法の問題ではありません。数十万人規模の難民問題です」
と状況を整理する。
獣人に肩入れする理由も、一見すると完全に人道主義。
ただし本人には誰にも言っていない秘密がある。
スマートフォンの写真フォルダが、ほぼ猫。
この案では主人公自身の経験が重くなるので、物語全体も少しシリアス寄りになります。
私は案1の「高瀬直人・32歳」が一番この作品に合うと思います。
この作品は怪獣との戦いだけでなく、かなりの部分を「異世界難民をどう受け入れるか」という社会ドラマに使います。そのため、主人公自身にあまり特殊な経歴を持たせず、普通に優秀な外交官なのに、猫耳が絡むと個人的感情が漏れてくるくらいの方が面白いと思います。
特に、
表向き:冷静な若手官僚
内心:猫耳を放っておけない人
という落差が、『怪獣は猫耳を襲わない』という作品の少しコミカルな雰囲気にも合います。
●ロロサエ:
外務省の人事は全くわかりませんが、突然現れた、言葉も全く通じない正体不明の集団を相手に交渉などを行う役職は何になりますか?
▲AI:
現実にかなり寄せるなら、最初から外務省の一部署だけが担当する案件ではありません。日本国内に突然、言語も出自も不明な大集団が出現した時点で、まずは「外交」ではなく国家的な危機管理案件になります。
なので、『怪獣は猫耳を襲わない』なら、こんな流れが自然だと思います。
出現直後
警察・消防・自治体、自衛隊などが現場を封鎖・保護。感染症の可能性も考えて厚労省も参加。相手が武装している可能性もあるため、最初は「外国人難民」とさえ断定しません。
同時に外務省では、相手が未知の国家・文明に属する可能性が出てきた段階で、総合外交政策局を中心とした臨時チームが組まれる、という設定がかなり使いやすいです。
さらに「この集団は何者なのか」を調べる部分では、外国・国際機関などの情報収集・分析を担う国際情報統括官組織も関与するでしょう。
そして意思疎通が成立して、
「我々は別世界から来た」
「国家や種族が存在する」
「代表者がいる」
と判明したところで、本格的な外交交渉に移ります。
ここで主人公を、
外務省 総合外交政策局所属の外交官
→ 異世界人出現を受けて設置された『異世界人対応チーム(仮称)』へ配属
とするのが、私は一番扱いやすいと思います。
役職としては32歳くらいなら、「課長」や「室長」にしてしまうと少し偉すぎます。むしろ、
外務事務官・総合外交政策局総務課所属
あるいは
総合外交政策局政策企画室の職員
あたりから臨時チームに入る形が自然です。
物語上は「異世界人対応チーム」の実務担当者にすると非常に便利です。上には課長級のチーム長がおり、主人公は現場に頻繁に出られる。それでいて、会議資料を作り、他省庁と調整し、異世界側代表とも直接話す立場にできます。
そして重要なのが、言葉が全く通じない最初の段階では主人公も交渉できないことです。
これはむしろ物語として面白いと思います。
最初は、
「敵意はないらしい」
「食べ物を渡すと受け取る」
「身振りで負傷者を示しているらしい」
というところから始まり、言語学者、AI翻訳、魔法などを使って少しずつ意思疎通が成立する。
主人公が初めて猫系獣人の少女を見るのも、この初期接触チームに参加したときにできます。
その後、異世界人が国家・民族・種族を持つ文明人だと判明すれば、案件の性質が一気に変わります。
「保護対象なのか?」
↓
「難民なのか?」
↓
「外国人なのか?」
↓
「そもそも異世界の国家を日本政府は国家として承認するのか?」
となる。
ここから主人公が外交官として本領を発揮するわけです。
ですから先ほどの主人公案を少し修正して、
高瀬直人、32歳。外務省総合外交政策局勤務。異世界人出現後、官邸主導で設置された異世界人対応の省庁横断チームに外務省代表の実務担当として参加する。
くらいが、とても収まりがいいと思います。
しかもこれなら、主人公一人が国家政策を動かしてしまう不自然さも避けられます。主人公は決定する人ではなく、「現場で情報を集め、案を作り、上司を説得する人」です。獣人受け入れも、高瀬が案を作る→上司に却下される→資料を作り直す→関係省庁と調整する→最終的に政府が採用する、という流れにできます。
●ロロサエ:
感染症対策として、役職が上の者は直接交渉など行わない? 若手に任せて自分は安全な場所にいる方が、組織としても正しいと思いますが。
▲AI:
はい、その考え方のほうが自然です。
特に今回は「言葉が通じない正体不明の異世界人」で、どんな病原体を持っているかも、逆に地球側の病原体が相手にどう作用するかも分からない。感染症危機として見れば、上級官僚や責任者をむやみに現場へ投入する理由はありません。
ですから組織としては、かなり明確に役割を分けるでしょう。
上層部
安全な場所に設置された対策本部で、
「隔離範囲をどうするか」
「自衛隊を出すか」
「接触を許可するか」
「外国へどう説明するか」
などを決める。
現場
防護装備を着けた医療・検疫・警察・自衛隊などの要員と、必要最小限の政府職員が接触する。
なので、小説ではむしろ主人公を若手だから現場へ送られる外交官にした方が説得力があります。
たとえば高瀬直人32歳なら、
「外務省から一人、現地連絡要員を出せ」
となり、課長が行くのではなく高瀬が指名される。
高瀬も当然、
「なんで私なんですか」
となる。
上司は、
「君が若いからだ」
……とは言わず、
「現場対応経験を評価している」
などと言う(笑)。
もっと現実的にするなら、主人公は最初から交渉責任者ではありません。
肩書きとしては、
外務省から派遣された現地連絡担当くらい。
最初の仕事は非常に地味で、
「相手が何を要求しているのか記録する」
「接触班から情報を受け取って本省へ送る」
「本省からの指示を現場へ伝える」
「言語学者や医療班との調整をする」
などです。
そしてこれが物語上かなり都合がいい。
最初は単なる若手連絡要員だった高瀬が、異世界人との接触を重ねるうちに、
「日本政府の中で最も異世界人について詳しい外交官」
になっていくわけです。
すると後になって正式な交渉団が作られても、
「高瀬を入れろ。現場を一番知っている」
となる。
さらに獣人たちからも、
「最初から我々と話していた人間」
として信用される。
つまり主人公の立場を、最初から重要人物だから現場へ行くのではなく、重要人物ではなかったから現場へ行かされ、結果として重要人物になってしまう
とすると、かなり自然だと思います。
そしてこれは主人公の年齢も、先ほどの32歳より28~30歳くらいまで下げても面白そうです。上司から見れば「現場に出せる若手」、異世界側から見れば「最初に自分たちと向き合った地球人」になります。
●ロロサエ:
外務省に入る人の偏差値はどれくらいですか? キャリアであれば東大相当ですか?
▲AI:
「外務省キャリア=東大でないと無理」というほどではありません。ただ、学力水準としてはかなり高い層と考えてよいです。
現在の外務省の総合職は、まず国家公務員総合職試験に合格し、その後の官庁訪問・選考を経て外務省に採用される形です。
「偏差値」で直接表す制度ではありませんが、小説を書くための感覚としては、難関国立大・早慶クラスの学生が普通に競争相手になる試験と思っておけばよいです。
重要なのは、
「国家総合職に合格する」≠「外務省キャリアとして採用される」
ことです。
総合職試験に受かったあとで外務省側の選考もあります。
したがって、主人公については、東大卒にする必要はありません。
むしろ今回の高瀬直人なら、
「地方の進学校 → 旧帝大クラス」
「早稲田・慶應」
「一橋」
「東京外国語大学」
あたりでも十分説得力があります。
例えば、
高瀬直人・29歳
一橋大学法学部卒
国家公務員総合職試験合格後、外務省入省
とすれば、まったく違和感はありません。
個人的には、物語上は東大卒にしない方がいいかもしれません。
東大卒にすると「いかにもエリート官僚」という印象が強くなります。それより、
地方の普通の家庭出身 → 地元ではかなり頭のいい子 → 一橋や阪大などへ進学 → 外務省
くらいにすると、「超人ではないけれど明らかに優秀」という主人公にしやすいです。
そして今回の主人公は、頭脳そのものよりも、未知の異世界人を前にして観察し、相手の意図を考え、上司へ正確に報告できる能力のほうが重要でしょう。
ですから、「学校秀才で東大首席」まで盛る必要はないと思います。かなり頭はいい。でも官僚組織の中では特別な天才ではない若手くらいが、この作品には合いそうです。
●ロロサエ:
外国語への適応力が高いとしたいです。獣人の会話を少し聞いて、何となく理解し、何気なく正しい返答をして獣人が驚く、みたいな。
▲AI:
それはかなり相性がいい設定です。しかも単なる「天才だから分かった」ではなく、言語習得能力が非常に高い外交官として経歴に組み込めば、主人公が初期接触要員に選ばれる理由にもできます。
ただし、「数分聞いただけで未知の言語を理解する」まで行くと超能力っぽくなります。私は、音・状況・反復から意味を推測する能力が異常に高いくらいがよいと思います。
例えば主人公は、日本語のほかに英語を実務レベルで使え、大学時代に第二外国語を学び、外務省入省後にも研修語を一つ徹底的に習得している。さらに趣味で他言語にも手を出している。
「何か国語も完璧に話せる」というより、新しい言語の規則性を見つけるのが得意な人物です。
獣人語についても、最初から文章が分かるのではありません。
たとえば獣人たちが食料を配っていて、
「ナー、セラ」
「セラ」
「ナー、セラ」
と何度も言っている。
子供がパンを受け取るたびに「セラ」と言う。主人公は、
「セラは『ありがとう』かな」
と仮説を立てる。
そして自分が水を渡された際、何気なく、
「セラ」
と返す。
すると周囲の獣人が一斉にこちらを見る。
主人公は、
「……違った?」
と思う。
猫耳の少女が驚いて、
「セラ……?」
と返す。
初めて地球人が自分たちの言葉を使った瞬間です。
この程度なら十分ありそうです。
さらに面白いのは、後になって「セラ」は単純な「ありがとう」ではなかった、と分かる展開です。
たとえば本来は、
「あなたの善意を受け取ります」
くらいの意味だった。
主人公は状況からほぼ正しい意味を推測していたわけです。
あるいはもう少し高度にしてもいいですね。主人公が獣人たちの会話を何日か聞いて、
「この音が文末に多い」
「疑問形だと語尾が変わる」
「どうも語順は日本語に近い」
「この単語は人を指している」
とノートを取っていく。
言語学者が本格的に解析している横で、主人公は現場経験による直感で先に簡単な会話を始めてしまう。
専門家から、
「どうして分かったんですか?」
と聞かれても、
「いや……何度も聞いていたら、なんとなく」
と答える。
この「なんとなく」が主人公の才能です。
そして、この才能は物語上かなり役立ちます。未知の異世界言語を全部AI翻訳で即解決してしまうと、異文化交流の面白い部分が消えてしまいます。一方、主人公だけが即座に完全理解すると御都合主義になる。
そこで、
数時間:単語をいくつか推測する
→ 数日:身振り込みで簡単な意思疎通
→ 数週間:片言の会話
→ 数か月:かなり話せる
くらいにするとよさそうです。
特に猫系獣人の少女との関係にも使えます。
少女が日本語を覚える。
主人公が獣人語を覚える。
お互いが相手の言葉に歩み寄るわけです。
そして最初に主人公が獣人語で話しかけたことを、少女がずっと覚えている。
これは主人公が彼女たちから信頼される理由として、猫耳好きだから助けたよりずっと強いものになります。
主人公設定としては、
「語学の天才ではなく、『未知の言語を覚えること』に突出している」
と定義するのが一番よいと思います。「TOEIC満点だから未知言語も分かる」ではなく、音を正確に記憶する、文脈から意味を推測する、パターンを見つける、間違いを恐れず使って確認するという能力の組み合わせですね。
●ロロサエ:
AI翻訳は、未知の言語にどこまで対処できますか?
▲AI:
結論から言うと、本当に完全未知の言語を、AIが音声を数分聞いただけで即座に翻訳するのは難しいです。
現在の機械翻訳は、基本的に「その言語そのもの」あるいは近縁言語について、ある程度の学習データや対応関係を持っていることが強みです。完全に未知で、既知言語との対応も分からない言語になると、さらに難しくなります。
ただし、今回の小説ではAIはかなり役に立てます。
たとえば獣人が水を指して、
「ラナ」
と言う。
次に別の獣人も水を見て、
「ラナ」
と言う。
さらに、
「ラナ、欲しい」らしき身振りをする。
こうした音声+映像+状況を大量に集めれば、AIは、
「『ラナ』は水、水分、飲む、欲しい、のどが渇いた、などの概念と強く関連する」
と仮説を立てられます。
つまり最初から、
ラナ=水
と確定するのではなく、
「この単語は水関連である可能性87%」
のように候補を絞る使い方ですね。
そして人間側が水を差し出しながら「ラナ?」と確認する。獣人が肯定する。その積み重ねで語彙表ができる。
これならかなり説得力があります。
さらにAIが得意そうなのが、主人公一人では処理しきれない統計的なパターン分析です。
何百時間もの会話記録から、
「この語尾は質問文で頻出する」
「この音は複数形らしい」
「人物名の前に同じ単語が付く」
「語順は主語―目的語―動詞の可能性が高い」
といった規則を見つけられる。
なので、この作品では、主人公とAIが違う方向から言語を解読する形にすると面白いと思います。
AIは、
「これまでの742例から、この単語は食物を示す確率が高い」
と分析する。
主人公は獣人の顔や視線、場面を見て、
「いや、たぶん『食べる』じゃない。『腹が減った』だと思う」
と推測する。
確認すると主人公の方が当たっている。
一方で文法について主人公が勘違いしているところを、
「その解釈では過去173例と整合しません」
とAIが訂正する。
この組み合わせがかなりいいです。
そして先ほどお話しした、主人公が何気なく正しい返事をして獣人が驚く場面も成立します。
AIはまだ、
「この発話に対する返答候補はA、B、C」
くらいまでしか絞れていない。
主人公は相手の表情や前後の会話から直感的に一つを選び、獣人語で返す。
一瞬、沈黙する獣人たち。
主人公:
「……今の、合ってました?」
AI:
「文脈上、肯定応答として適切だった可能性は高いです」
獣人側からすれば、
昨日まで一言も通じなかった地球人が、突然こちらの言葉で返事をしたので驚くわけです。
この設定ならAIを無能にする必要もありませんし、主人公を超能力者にもせずに済みます。
むしろ、AIは大量データから規則を見つけるのが得意、主人公は少ない情報から意味を推測するのが得意という分業にすると、主人公の語学能力がかなり際立つと思います。
●ロロサエ:
実際の現場で、スマホなりで音声を記録し、AIに解析してもらいながら交渉するなんてことはしてますか?
▲AI:
はい、音声を記録してAIや翻訳技術で補助すること自体は、すでに現実の国際機関でも行われています。ただし、重要な外交交渉で「スマホに聞かせてAIの訳だけを頼りに交渉する」という運用が標準、というわけではありません。
現実には、人間の通訳が中心です。
一方でAIは、音声認識、用語抽出、機械翻訳、文字起こし・整理などの補助に使われています。
ですから、現実のイメージは、
人間の通訳が主役
+
AIが音声認識・記録・用語検索・翻訳候補などを補助
に近いです。
ただ、『怪獣は猫耳を襲わない』の場合は事情が完全に違います。
獣人語を話せる通訳が地球に一人もいません。
この状況なら、政府が可能な限りの機材を現場へ持ち込んで、
「全会話を録音」
「複数方向から映像撮影」
「発話者を識別」
「音声を音素単位に分解」
「同じ単語の出現場面を検索」
「身振り・対象物・表情と発話を対応付ける」
といった解析をAIにやらせるのは、かなり自然です。
しかもスマホ一台で済ませる必要はありません。
政府案件ですから、現場の主人公は防護服を着け、小型マイクやカメラを装着している。安全区域には言語学者、AI研究者、外務省職員などがいて、収集された情報を専用システムで解析している。
主人公のイヤホンには、
「直前の発話に含まれる『ラナ』は、飲料または水を示す可能性が高いです」
などと分析結果が返ってくる。
でも主人公が、
「いや。水そのものじゃない気がする」
と感じる。
獣人が空になった器を見せながら同じ言葉を使ったため、
「もしかして『水をください』の『ください』じゃないか?」
と主人公が気付く。
後でAIがデータを再解析すると、主人公の推測の方が正しかった。
これは非常に使いやすい構図です。
さらに面白いのは、AIと主人公の役割を明確に分けられることです。
AIは1000回の発話から規則を見つけることに強い。
主人公は3回の発話とその場の空気から意味を察することに強い。
そしてデータが増えるにつれ、AIが主人公の仮説を吸収して急速に性能を上げていく。
物語開始時には、
獣人語 → 完全に意味不明
だったものが、数日後には、
AI:「この発言は『あなたたちは我々をここから移動させるつもりなのか』という意味である可能性72%」
くらいになる。
すると外交官である主人公が、それを材料に正式な交渉を始められるわけです。
これはかなり現代的ですし、「2020年代後半の日本政府が未知言語と遭遇したらどうするか」という設定としても納得感があります。
そして個人的には、主人公が最初に獣人を驚かせる場面では、AIより主人公が一歩だけ先に理解するくらいが一番いいと思います。AIを無能にせず、主人公の才能もきちんと見せられます。
●ロロサエ:
獣人の数は多いので、全員分の会話をAIに解析してもらった方が早いですよね? 規模で解決です。
▲AI:
はい。その考え方はかなり合理的です。
未知言語の解析で一番の問題は、対応づけできるデータが少ないことです。逆に獣人が何千人、何万人もいて、日常会話を大量にしているなら、AIにとってはかなり有利になります。
たとえば政府が避難区域内の会話を、同意や管理ルールのもとで大量に収集できれば、
- 同じ単語がどういう場面で出るか
- 誰に対して使うか
- 食事、移動、家族、危険など特定状況との対応
- 疑問文や命令文で語尾がどう変わるか
- 同じ意味を別の言い方で表していないか
- 猫系、犬系、狼系などで方言差があるか
を一気に統計処理できます。
つまり、一人の獣人から100時間集めるより、1万人から各10分ずつ集める方が、語彙や文法の全体像を掴むうえでは非常に強い場合があります。
この作品なら、まさに「規模で殴る」ができます。
しかも映像も同時に取ればさらに強いです。
子供が母親を呼ぶたび同じ語が出る。
食料配給所で何千回も同じ表現が出る。
負傷者が痛みを訴えると似た単語が集中する。
トイレを探す人たちが同じ表現を使う。
こういう大量の状況付きデータが集まると、AIは急速に辞書の原型を作れます。
ただし、ひとつ注意があります。
データ量だけでは意味は完全には決まりません。
たとえば誰かがリンゴを渡しながら「ラナ」と言ったとしても、
「リンゴ」
「食べ物」
「どうぞ」
「ありがとう」
「食べろ」
のどれなのかは、最初は分かりません。
だから、
大量データで候補を絞るAI
+
意図的な確認実験
+
主人公たちの対面コミュニケーション
の三つが必要になります。
そして、ここで主人公の才能がちょうど生きます。
AIが、
「候補A 41%、候補B 34%、候補C 18%」
としか言えないところで、高瀬が会話の流れを見て、
「いや、これはBだと思う」
と言う。
確認すると当たる。
逆に大量データではAIの方が圧倒的に強い。
このバランスなら、主人公がAIを超える天才にはなりません。
むしろ、AIが獣人語という巨大なジグソーパズルを高速で並べ、高瀬が曖昧な最後のピースを時々はめるくらいの関係になります。
さらに、この設定なら言語問題を何十話も引っ張る必要もありません。
私なら、
初日:身振りと単語数個
2~3日目:基本語彙数百語
1週間前後:限定的な機械翻訳開始
数週間:日常会話ならかなり翻訳可能
くらいにします。
人数が非常に多く、24時間大量の会話データが流れ込むなら、「未知の異世界語なのに解読が意外に速かった」という展開にも十分な理由がつきます。
そして面白いのは、最初に翻訳されるのが外交用語ではなく生活語ばかりになることです。
「腹減った」
「水」
「母ちゃん」
「どこ?」
「痛い」
「眠い」
などは大量に集まる。
ところが、
「主権」
「国家」
「亡命」
「条約」
みたいな単語はほとんどデータがない。
そのため、日常会話はAIがかなり訳せるのに、いざ外交交渉になると高瀬たちが苦労する。
これはかなり自然ですし、物語にも使いやすいと思います。




