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心中物語  作者: 白山月


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9/9

たどり着く幸せ

もはや海にも街にも居場所はなく、二人は社会から完全に隔絶された、名も知らぬ深い山奥へと足を踏み入れていた。

水も食料もなく、服はボロボロ。今度こそ、本当に終わりの時が来ていた。


「……もう、芝居なんていらないな。二人で、一緒に逝こう」

男がそう言い、太い木の枝にロープをかけようとした、その時だった。


「よいしょ……よいしょ……」

少し離れた場所で、白髪の老女が踏み台に乗り、自分の首に縄をかけようとしているではないか。


「「ちょっと待てェェェェ!!」」


二人は最後の力を振り絞って猛ダッシュし、老女を踏み台から引きずり下ろした。


「何をするんですか! なんで死のうとなんてするんですか!」

女が必死に老女を揺さぶる。

老女は力なく微笑んだ。

「……私は身寄りもなく、一人ぼっち。生きていても誰の役にも立たないし、寂しいだけ。だからお迎えに行こうと……」


「そんな理由で命を粗末にするな!」男が叫んだ。「俺たちはな、お互いがお互いを想うあまり、何度も『自分だけが死んで相手を助けよう』とした! でも気づいたんだ、愛する者が死んだら、残された側も結局死んだように生きるしかないってことに!」


「そうよ!」女も泣きながら頷く。「一緒に生きてる人がいるだけで、それは生きる理由になるの! 私たちなんて犯罪者で逃亡犯でクズだけど、それでも二人で一緒に生きたいって、今やっと心の底から分かったんだから!」


自分たちもまさに首を吊ろうとしていたことなど完全に棚に上げ、二人は大号泣しながら老女に「生きることの尊さ」を熱弁した。

そんな二人のボロボロの姿と、命がけの説得に、老女の目からもハラハラと涙がこぼれ落ちた。


「……ありがとう。あなたたちのような若い二人にそこまで言われたら、もう少しだけ、生きてみようかねぇ……」


三人は落ち葉だらけの地面に座り込み、しばらくの間、声を上げて泣き続けた。


やがて落ち着きを取り戻した老女が、ふと口を開いた。

「……ところで、あなたたち行く当てがないのなら、私の家に来ないかね?」

「えっ?」

「実は私、この山から向こう三つの山林と、広大な農地を全部所有している地主でね。山奥すぎて電気も自家発電だけど、使ってない大きなログハウスもあるし、畑仕事を手伝ってくれるなら、ずっと隠れて暮らしてもいいよ。警察なんて、ここ数十年見たこともないしねぇ」


男と女は、信じられない思いで顔を見合わせた。

悲劇の物語を演じ続けた二人は、最後の最後で、誰の物語でもない「自分たちの真実の心」をさらけ出したことで、思わぬ救いを得たのだ。


「……やらせてください」

「私たち、一生懸命働きます!」


木漏れ日が差し込む深い森の中。

二人はもう二度と、ロミオとジュリエットのセリフを口にすることはなかった。社会から完全に隔絶されたこの静かな山奥で、お互いの存在だけを確かな証として、三人の新しい、そしてひっそりとした生活が始まったのだった。


男は食料確保に山に入るが、沼に足をとられ苦戦している。

なんてこった!

嫌な気持ちになって、まだ気づいていない。

その沼の泥がレアアースであることを。


女は魚とりに、川に向かった。

罠を作る為に大きな石を集めるが、河原の殆どが白っぽい中途半端な大きさの石ばかりだ。

役に立たない!

いらいらして、まだ気づいていない。

その石全部が巨大な原石であることを。


老女は荒れ地を耕し、畑を拡張している。

ふぅ。。。。今日はここまでかね。

老女もまだ気づいていない。

あと、数メートル耕すと、世界最大の金鉱脈を発見することを。


生きることで得られる幸福がある。

と彼らが実感するのは、もう数日かかりそうだ。


(完)

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