たどり着く幸せ
もはや海にも街にも居場所はなく、二人は社会から完全に隔絶された、名も知らぬ深い山奥へと足を踏み入れていた。
水も食料もなく、服はボロボロ。今度こそ、本当に終わりの時が来ていた。
「……もう、芝居なんていらないな。二人で、一緒に逝こう」
男がそう言い、太い木の枝にロープをかけようとした、その時だった。
「よいしょ……よいしょ……」
少し離れた場所で、白髪の老女が踏み台に乗り、自分の首に縄をかけようとしているではないか。
「「ちょっと待てェェェェ!!」」
二人は最後の力を振り絞って猛ダッシュし、老女を踏み台から引きずり下ろした。
「何をするんですか! なんで死のうとなんてするんですか!」
女が必死に老女を揺さぶる。
老女は力なく微笑んだ。
「……私は身寄りもなく、一人ぼっち。生きていても誰の役にも立たないし、寂しいだけ。だからお迎えに行こうと……」
「そんな理由で命を粗末にするな!」男が叫んだ。「俺たちはな、お互いがお互いを想うあまり、何度も『自分だけが死んで相手を助けよう』とした! でも気づいたんだ、愛する者が死んだら、残された側も結局死んだように生きるしかないってことに!」
「そうよ!」女も泣きながら頷く。「一緒に生きてる人がいるだけで、それは生きる理由になるの! 私たちなんて犯罪者で逃亡犯でクズだけど、それでも二人で一緒に生きたいって、今やっと心の底から分かったんだから!」
自分たちもまさに首を吊ろうとしていたことなど完全に棚に上げ、二人は大号泣しながら老女に「生きることの尊さ」を熱弁した。
そんな二人のボロボロの姿と、命がけの説得に、老女の目からもハラハラと涙がこぼれ落ちた。
「……ありがとう。あなたたちのような若い二人にそこまで言われたら、もう少しだけ、生きてみようかねぇ……」
三人は落ち葉だらけの地面に座り込み、しばらくの間、声を上げて泣き続けた。
やがて落ち着きを取り戻した老女が、ふと口を開いた。
「……ところで、あなたたち行く当てがないのなら、私の家に来ないかね?」
「えっ?」
「実は私、この山から向こう三つの山林と、広大な農地を全部所有している地主でね。山奥すぎて電気も自家発電だけど、使ってない大きなログハウスもあるし、畑仕事を手伝ってくれるなら、ずっと隠れて暮らしてもいいよ。警察なんて、ここ数十年見たこともないしねぇ」
男と女は、信じられない思いで顔を見合わせた。
悲劇の物語を演じ続けた二人は、最後の最後で、誰の物語でもない「自分たちの真実の心」をさらけ出したことで、思わぬ救いを得たのだ。
「……やらせてください」
「私たち、一生懸命働きます!」
木漏れ日が差し込む深い森の中。
二人はもう二度と、ロミオとジュリエットのセリフを口にすることはなかった。社会から完全に隔絶されたこの静かな山奥で、お互いの存在だけを確かな証として、三人の新しい、そしてひっそりとした生活が始まったのだった。
男は食料確保に山に入るが、沼に足をとられ苦戦している。
なんてこった!
嫌な気持ちになって、まだ気づいていない。
その沼の泥がレアアースであることを。
女は魚とりに、川に向かった。
罠を作る為に大きな石を集めるが、河原の殆どが白っぽい中途半端な大きさの石ばかりだ。
役に立たない!
いらいらして、まだ気づいていない。
その石全部が巨大な原石であることを。
老女は荒れ地を耕し、畑を拡張している。
ふぅ。。。。今日はここまでかね。
老女もまだ気づいていない。
あと、数メートル耕すと、世界最大の金鉱脈を発見することを。
生きることで得られる幸福がある。
と彼らが実感するのは、もう数日かかりそうだ。
(完)




