井戸端の二神会戦。
書き溜めが尽きた‼︎
もう終わりだ‼︎お終いだあぁ〜‼︎
頑張ります。
後の天下人と大喧嘩をやらかした晴政は、逃げるように堺の町を出て、足早に南部家の船が停めてある越前に向かった。
余談だが先日、三好範長は宿の外へ出たところで、頭に鳥の糞が命中していた。あいつ本当に運悪いんだな……。三好家の末路を知っているだけに、いたたまれない気持ちになったが、もう畿内に行くこともないだろうと割り切って、晴政は越前で船に乗り込むのだった。
やっと船に乗れた。後は乗ってくつろいでいるだけで我が故郷、南部領に到着だ。晴政は陸路での足の疲れを癒すべく、船室で大の字になって寝転ぶのだった。
海には勝てなかったよ……‼︎
行きは落ち着いていた日本海は荒れに荒れ、大規模な貿易にも使う南部家の巨船は揺れまくり、水夫達は海に向かって嘔吐する晴政を、気の毒そうな目で見つめていた。
晴政が心配だし、そろそろ日も暮れるということで、物資の補給も兼ねて南部家の船団は、一旦越後の港にて停泊することとなった。
まさに悲しみの日本海である。
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越後の宿にて晴政はしばらく船酔いが治らず、寝込んでいたが、家臣から外の空気を吸った方が良いと勧められ、春日野山城の城下町をお忍びで散策していた。
堺には流石に劣るが、なかなか活気ある町だ。南部家の本拠地、三戸には負けるがな‼︎
オレ達より先に来ていた南部領の商人達に案内してもらいながら、一通り町を楽しんだ後、休憩がてら一軒の茶屋に入った。
茶屋で茶と菓子に舌鼓を打ちながら、店主と何気なく会話する。
「随分と良い身なりをしていらっしゃいますね、どこかのお武家様でしょうか?」
お忍びとは言えまあ、これくらいなら答えてもいいか。そっちの影で知りたがっている奴もいるしな。
「ああ、ここからちょっと北に行った南部家の者だ。京に用事があってな、今はその帰りだ」
「おおっ、南部様のところの‼︎茶も菓子も手に入り易くなって、この店も南部様に随分と助けられております」
「そいつは重畳」
店主が大げさに感謝を表すのを、微笑ましく見ていると不意に店の隅から声を掛けられた。
「もし、そこのお武家様。よろしければ私と一つ遊戯に興じませんか?」
声がした方へ目を向ける。そこにはどこか浮世離れした雰囲気を感じさせる、中性的な少年がにこりと笑って座っていた。
さっきからオレを尾けていたくせに、白々しいやつだ。
男が何やら目配せすると、店主は少し驚いたような顔をして、店の奥へ引っ込んでしまった。
「ああ、丁度暇だった。構わんよ」
オレが返事をすると、少年は笑みを深くして傍らに置いていた大きめの風呂敷を広げる。
それは見事に再現された城の模型だった。オレが感心していると少年が口を開く。
「城棋と呼んでいるのですが、見ての通りこの城と駒を使って、城攻めを再現する遊戯です」
「なるほど、決め事は?」
「まあそう急かさないで。まずこの賽を使って攻め手、受け手を決めます。その後兵数、兵科をこれまた賽で決めて行きます」
「運も絡んで来るのか、面白い」
そのままルールの説明を一通り受けた晴政は、一つだけ条件を提案する。
「オレはこの遊戯をするのは初めてだからな、最初の賽を二回振って、良い出目の方で始めさせてくれ」
「……構いませんが、あくまで遊戯ですよ?大人気ない人だ……」
「良く言われる」
「……」
晴政と少年はお互いに椀の中に賽を振る。晴政は二回賽を振ったが結果はどちらも同じで、攻め手は少年、受け手が晴政だ。
攻め手が好きなのだろうか、晴政が賽を二度振るのを見て、少し不機嫌そうにしていた少年の顔が再び綻んだ。
賽を振る。兵数、兵科を決める賽、ここからはお互い条件を満たさなければ、相手の状況を窺い知ることが出来ない。
事前の準備が整ったところで、少年が宣言した。
「では始めましょうか、良い戦にならんことを」
晴政は何が可笑しかったのか、クスリと笑った。そして晴政が一手目を指すと同時に、どちらかというと柔和な印象を受けた少年の雰囲気が変わる。
歴戦の猛将?神算鬼謀の智将?いやどちらでもない、何かもっと神々しい様な。ありきたりな言葉でしか語れなさそうだ、勝負に集中しよう。
二手目、三手目、盤上で戦いが進んでいく。
晴政は守城側でありながら、積極的に野戦に打って出る。
少年はその攻勢を容易く躱し、晴政側を一方的に刈り取っていく。
「強いなあ、坊っちゃん」
しかし晴政は何事も無かったかのように、野戦を切り上げ城に駒を戻した。
晴政の声など聞こえていないと言わんばかりに、少年は恐るべき集中力で盤上に向き合っている。
少年の駒がすかさず城攻めに取り掛かる。ルールでは守り手側が城を使える分、攻め手側が兵数では有利になるように決められている。一気呵成に城に雪崩れ込む寸前で、晴政が手を打った。
「ここ、斥候を放っとくべきだったな坊っちゃん」
城を攻める兵の背後を取る形で、盤上に晴政側の騎馬隊が突然出現する。攻め手側の兵達に少なくない被害を与えて行く、そしてもう少し深入りできた筈の形だったが、晴政は早々に騎兵を引き上げて、城の中に戻した。
攻め手側が引き続き、城を攻める。少年は攻城も相当に巧みで、またもや晴政側の兵が削られていく。
少年は晴政側の弱所を、さも当然だといった風に見破り、順調に攻め上がる。
そして受け手側の飛び出した兵を包囲殲滅せんとした、その時だった。
「そいつらは死に役、囮役だぜ」
潜んでいた晴政側の兵が、更にその周りを包囲した。
「オレのために死んでくれてありがとな。遺族に金は払っておくぜ」
晴政は飄々とそう言ってのける。現実の戦ですら、平気で同様のことを行う男だ。
「……南部家の先の戦の話を、風の噂で聞きました」
「やっと口を開いたかい、むっつり少年」
別のことを話しながらも盤面は進む。
晴政は先程から行っていることと同様に、正面からぶつかっては少年の巧みな戦術に打ち破られる。
「略奪、虐殺、騙し打ち、聞くだけで身震いがしましたよ」
「ホレちまったかい?」
「ふざけないで下さい‼︎」
晴政側が野戦で完敗したところで、再び戦況が変わる。受け手の兵の内、城壁の上から見ていることしか出来ない筈の槍兵が、弓兵に変わった。偽兵、あくまでルールの内である。
野戦で打ち負かした兵を追撃する攻め手側の兵は、突然出現した弓兵の殺し間に入っており、次々と討ち取られる。
「そんなものは戦ではない‼︎こんな時代だ、正々堂々にとは言えない事は分かっている‼︎しかし私は最低限してはいけないことを、自らに誓っているつもりだ‼︎貴方のような修羅に落ちる気は無い‼︎」
「そうか、わざわざ教えてくれてありがとう」
「聞いているのか‼︎」
少年は弓兵の攻撃により崩れた前線を見事に立て直す。見事なものだ、攻める前より強固になっている。オレではあのように上手くは出来ないだろうな。
しかし晴政は陣形を立て直すのに攻勢が弱まった瞬間を見逃さない。攻め手側の本陣近くに、兇手(暗殺者)が出現した。
攻め手側の大将首が狙いだ。だが目の前の少年がこんなもので崩れる程ヤワな指揮官では無いことは分かっている。
狙いは兇手への対処に一手を浪費させることだ。
弓兵によって崩れた味方を立て直す浪費、兇手への対処への浪費、攻め手は既に二手失っている。
今度は、破れる。
晴政側の兵士が飛び出し、再び野戦となる。
「盤上でもそうだ。勝てないと分かっている野戦での無益な犠牲、囮、偽兵、兇手‼︎貴方も武門の端くれなら恥ずべき戦だと思わないのか‼︎南部晴政‼︎」
「お前の夢に付き合える程、お前以外の人間は強くないぞ?長尾景虎殿」
完全に晴政優位の状況で始まった野戦、しかしここに至っても景虎の異常とも言える神懸かった采配に、晴政側の兵がより速いペースで減って行く。
晴政もこれには驚き、使うことはないだろうと踏んでいた、最後の一手を放った。
最初に景虎側の背後を強襲し帰城した騎馬隊が、別の城門から打って出たのだ。
激しい野戦に足止めされる景虎側に、再び背後から騎兵が襲い掛かる。
仕掛けたものが全てが上手く行った。晴政も持ち得る限りの全てを出し切った。そして最後に残っていたのは晴政側の駒達。
しかし残ったのは大将一人に歩兵二人の三人のみ、晴政側も全滅と言って良い有様だった。
景虎は自分が負けたことが信じられないのか、俯いて肩を震わせている。晴政からしたら信じられないのは、お前のイカれた強さだと言いたい所だったが。
「貴方の戦には……、仁が無い、義が無い、信が無い、そして華が無い……、なのにどうしてそんなにも強い……‼︎」
「殺し合いをさも美しい物かの様に語るな。何が華だ、この徒花小僧が」
「どうして私が負けるのだ、貴方に……」
「あん?経験の差と、もう一つは今自分で言ってただろうが、負けたときの言い訳が欲しいから、仁だの義だのを背負うんだろう?」
「貴方は何も背負っていないから、強いと?」
「背負ってるものが無い訳じゃない」
晴政が席を立つ。
店の主人に勘定を渡し、去って行く。店の入り口の辺りで不意に振り返り、景虎の目を真っ直ぐに見据えて、再び口を開いた。
「背負うのは南部の民と家臣の生活、失うのは己の名誉だけ、南部晴政は死ぬまで勝利の忘八戦よ」
軍神は生涯最初にして最後の敗北を悟り、激しく落涙した。
信長が出てこない作品って、絶対ランキングに載らないよね。
そんな中、単に実力で載らない作品が、これである。




