出会いのお話。
戦争が始まろうとしていた。孤児院は兵力を補充するために存在し、兵力とはすなわち強力な魔法を使えるかどうかだった。
魔力の無いニーニには兵としての存在価値は無く、ただでさえ気味の悪い、魔力を持たないニーニは壮絶な虐待を受けていた。
いや、虐待は今に始まったことではないが、死の臭いが漂い始めたことでより凄惨なものとしてニーニに襲い掛かった。
もう一週間はまともな食事を与えられていない。
裏路地で、沈んだ石畳に溜まった汚水を飲もうとする姿を見つかり、体中の生傷がさらに増えた。
そして今、まさに孤児院の食糧庫で、ニーニは処刑されようとしていた。配給された僅かな食糧が足りない。盗ったのはニーニだった。
世にも奇妙な魔力を持たないニーニには、魔法による洗脳、操作、誘惑に抗う術がない。誰かに洗脳されたか、操られたか、欲を惑わされたか、食糧を盗まされていたのだ。
しかし、魔力を持った人が魔法によって使役されるなど本来はありえない事象なのだ。孤児院の全ての人が、ニーニは魔法に掛けられていたことを分かっていた。だが、誰も助けない。
ニーニへ向けて四元素魔法で最も苦痛を与えるに相応しい炎の魔法が放たれた。
誰が放ったのか、たぶん本当の盗人だろう。
特定することは、もう叶わない。
何故なら、孤児院にいた全ての人はヴァルゴの滅びの魔法によって消されてしまったからだ。
三十ほどいた人は、その全てが一呼吸する一瞬で塵として湿った風に流されていった。ニーニは涙と汗に張り付いたかつての人の塵を、ぼろ布のような制服で拭った。
死を覚悟した数秒前よりも大粒の涙が目頭に痛みを感じるほど溢れた。
魔法に抗えない自分が生きていることへの喜びか。絶望の果てに、それでも引き取ってくれた孤児院への贖罪か。視野に突如として広がった巨大な城と、目の前の背の高い紳士から放たれる恐怖を感じたからか。
とにかく、ニーニは体中を使って泣いた。
「貴方が魔力を持たない、世にも奇妙な少女ですね」とヴァルゴが意識を朦朧とさせているニーニへ話しかけた。
水の中で目を開いた時のようなぼやけた視界ではあったが、いつの間にかあれほど巨大だった城が消えている、と変に冷静になったニーニは小さく頭を傾げた。
「目を見せていただけますか」
ヴァルゴがニーニの側へかしづき、震える手を取りながら顔を近づける。
「やっと。本当に永かった。やっと、報われた。今までの、成果が、実を結んだ。ながかった。ただひたすらに、私は本当に永いこと、続けてきてよかった」
搾り出すような声は、やがて叫びにも似た力を放ちながら嗚咽へと変わる。
そうしてニーニの命の恩人は、ニーニに負けないくらい、その大きな体で大きな涙を流した。
静寂の中にそれはそれは長いこと響き続けていた。




