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ダンジョン協奏曲  作者: 入栖
ついにダンジョンバトルか、こなたが蹴散らしてくれよう! またせたね、セラフィ。好きなだけ暴れていいよ。 
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20/26

第三階層 - 無限の再生 - 斬っても、叩いても、串刺しにしても再生するその体と、岩をも砕くその圧倒的腕力で敵をねじ伏せる。

 セラフィはナイスシュートだったね。見事に十字架の下に落ちたよ。

「さようでございますね」


 ミヤジとか言うダンジョンマスターはヘラヘラと笑いながら隣に居る天使と会話している。なぜこんなにもこいつが自身を持っていたのか、今なら分かる。確かにセラフィは属性狐の中でも破格の強さを持っている。


 第一階層、第二階層で見せた強さはまさに化物だ。だが俺のダンジョンも此処から難易度が一気に上がる。

(クソが。ヘラヘラ出来るのも、今のうちだぞ! 次の階層で目に物見せてやる)


- 第三階層、無限の再生 -

 

 第三階層の作成イメージは荒野だ。水気の無い大地に、干からびそうな草に葉の無い木。もう少しで完全な砂漠化するんじゃないだろうかと思わせる場所。

「この場所は温かいのう」

 気温は風景に合わせ、少し高めに設定している。ただそこまで熱く設定しているわけではない為、動きを阻害したり、異様に疲れやすいと言ったことは無いだろう。

 セラフィがある地点を超えた時に、魔法陣が発動しそいつが召喚される。

 

― 第三階層 ボス ― グレイトロル

 

 現れたのは灰色の巨人。体長5メートルと巨大で、おびただしい量の灰色の毛が体中から生えている。

 手には2メートルはあろう巨大なこん棒を持ち、身体中を鎧で覆っている。俺がダンジョンボスの中で一番装備に金をかけたのはたぶんこいつだ。金をかけたところで余り意味はなかったが。


 さて、こいつの能力ははっきり言ってヤバい。何がヤバいかと言えば斬撃や打撃をほぼ無効化してしまうことだ。

 どれだけ切っても、再生するその体。たとえ腕を切り飛ばしても、例えその足を切り捨てても、直ちに再生が始まり、人は絶望を浮かべるだろう。


 ただこいつにはいくつか弱点がある。その中でいちばん楽に倒すのは体を凍らせることだ。

 トロルの再生は寒さによって著しく速度が低下する。また傷口を凍らせてしまえば再生はできない。

 もし凍らせることが出来ないならば、斬った個所を火で焼くことでも同様の効果が得られる。ただ、それらが出来なければこいつを殺すことは不可能だ。

 セラフィは此処で多分倒れるだろう。俺にはそう思えるだけの推測が有った。


(セラフィは今まで一度も水魔法や火魔法を使ってこなかった。だからこいつは魔法があまり得意ではないのではないだろうか?)

 現にジャイアントキラービーやネクロマンサーレヴァナントでは魔法を使っていない。ならばこの戦い勝ち目がある。


 確かに相手にはあり得ないくらい力がある。だけどそれだけだ。

 相手にどれだけ攻撃力があろうと、その再生の前にはなすすべなく散るだろう。


 グレイトロルは片腕を掲げると、大きく息を吸い込む。そして大声で叫んだ。

「ォォォォォ!」

「ふむ、今度のモンスターは生きが良いのう! さっきの骸に比べても骨がありそうじゃ」


 ふふ、その余裕もいつまでもつだろうか。

 グレイトロルはゆっくりと動き出す。初めは歩行。少し早くなってはや歩き、そして、

「グオォォォ」


 疾走。5メートルを越すその巨体での全力疾走はかなりの迫力がある。以前見た冒険者は生まれたての子鹿のように足が震え、一歩も動けず死んだのも居るぐらいだ。


 「その意気やよし、かかってくるが良い!」

 どうやらセラフィは迎え撃つつもりらしい。自分の倍以上身長も体重もあるやつに。


 終わったな。グレイトロルの大きな特徴として再生があるが、もうひとつ特別な能力がある。それは怪力だ。


 その怪力は簡単な盾魔法や壁魔法を楽々粉砕しその後ろの術者にまで影響を及ぼす。以前の冒険者は土壁を作ることで安心してしまっていたが、トロルはその壁を一撃で壊し、術者を倒した。生半可な防御では崩せない。もう避けるかいなすしかないだろう。


 グレイトロルは大きくこん棒を振り上げる。

(あっけない最後になりそうだな)

 セラフィは避けようともしない。ただ指を一本立てただけだ。

 スピードをつけたグレイトロルの攻撃。その力は圧倒的だった。まるでエクスプローションを発動させたかのような轟音が辺りに響き渡り、辺りの砂ぼこりが舞う。


 セラフィは避けようともしなかった。であれば結果は見なくてもわかる。ぺちゃんこに潰され、原型なんかもうをとどめてなくて見るも無残な……なんだと!?


「お、おい、嘘だろう?」

 幻覚を見せられているかのようだった。


「ありえない、そんな事があるわけがない!」


 砂ぼこりが晴れ、画面内がクリアになっていく。そこにいたのはグレイトロルと、五体満足の・・・・・セラフィだった。無論今までの戦いでセラフィが異常な強さを持っていることはわかっていた。だからこそギリギリで回避したのならまだ分かる。だけどこれはありえない。


 そもそもセラフィはグレイトロルの半分以下の身長で、半分以下の体重だ。攻撃を受け切る事なんて無理に決まっている。それにグレイトロルは走って勢いもつけていた。もはやグレイトロルが最高の状態で最高の攻撃を放ったと言っても良い。


 だけどセラフィはその攻撃を防いでいた。それもたった一本の指・・・・・・・で防いでいたのだ。

 グレイトロルは叫び声を上げながら手に力を込める。だがセラフィは微動だにしない。


「ほれほれ、もっと頑張るがよい。そんなんじゃこなたを動かす事は出来んぞ?」

 グレイトロルはさらに力を込める。だけどやはりセラフィはピクリとも動かない。それどころか、

「グォォォォォォ。グググガガガガガガ」


 ザザ、ザザとグレイトロルの足が滑る。まるで超巨大な岩を押そうとしているかのようだった。岩は全く動かず、代わりに自分の足が滑りその場で足踏みをしているような状態だ。


 あり得ねぇ! あの超怪力のグレイトロルの攻撃を指一本で抑えるだと? そんな馬鹿な!?

「そろそろ飽きてきたのう。ほれっ」


 そう言ってセラフィは軽く指を押しだしたかのように思えた。

「ッガギャギャギャガアアアアァァァ」


 しかしそれはそう見えただけだった。グレイトロルの巨体は勢いよく飛び、数十メートル先の壁にぶち当たった。手はありえない方向に折れ曲がり、体は壁にめり込むほどの衝撃を受けた。

 

 しかしグレイトロルには無傷に等しい傷だ。

(……セラフィには腕力が有る。だが、それだけだ。まだだ。セラフィは腕力に対抗できるだけでしかない!)


 グレイトロルはゆっくり立ち上がると、折れた腕を反対の腕で簡単に直す。それから20秒もしないうちに、その腕の骨はくっついたようで、ぶんぶんと前方に拳を振っていた。まるで先ほどの大怪我などなかったかのようだった。

「なんじゃ、再生能力持ちか? ふむ質の悪い再生能力じゃのう」


(は? こいつはなんて言った? 質の悪い再生能力?)

 たったの20秒だぞ。腕一本がたった20秒で完治するんだぞ? お前はその凄さが分からないのか!?


「来るがよい、捻りつぶしてやろうぞ」

 クソが。グレイトロルよその女を潰してしまえ!

 グレイトロルは吹き飛ばされたときに落とした棍棒を手に取ると、またセラフィに向かって近づく。今度は猪突猛進ではなく、辺りとセラフィの様子を伺いながら。


「ほ。少しは頭が回るようじゃが、それじゃこなたを倒せんぞ」

 セラフィはそう言いながら、迫りくるグレイトロルの腕に合わせてと右手を振りあげた。


「チッ」

 俺は画面に向かって舌打ちをする。セラフィは先程の階層で見せた圧倒的切れ味のツメを使ったようだ。棍棒を持ったグレイトロルの腕は宙を舞い、地面に落ちた。


 だがそれだけだ。

 すぐにグレイトロルの再生は始まっている。ほらもう既に手の甲まで……。っておい、ちょっと待て。

 セラフィは手を止めない。また一つ腕が飛び、再生中の腕が飛び、足が飛び、体が削られていく。もうすでに俺の目にはセラフィの手は見えない。隣で震えているこの奴隷には見えているかもしれないが、見えた所でどうにもならない。


「ありえない、さ、再生が追いつかないだと……」

 攻撃が速すぎてグレイトロルの再生が追いつかない。

(グレイトロルの再生力は物理攻撃に対して完璧だった、筈だ……。いままで魔法使いなしでグレイトロルを突破した者は0だ。1人もいない)


「片腕の再生なぞ、1秒かけるな馬鹿もん!」

 そう言って彼女は腕を振り下ろした。

 もうグレイトロルはピクリとも動かない。此処まで細切れにされれば、再生も出来ないのだろう。


 彼女はトロルの死体を避け、次の階層への階段を上っていく。

(おちつけ。俺にはまだ2階層ある。次の層はアレだが、最終層はあいつだ)


 俺は大きく深呼吸をすると、心を落ち着ける。

 そして画面に映っている、放置されたグレイトロルの残骸を見て、こいつも不運だったなと思った。


 グレイトロルのなにが不運だったと言うのか、それはその再生力だ。本来ならば無敵の要塞となる再生力は、彼女の前では苦痛の時間を長引かせるだけでしかなかっただろう。


 セラフィは意気揚々と現れた階段を上っていく。次は第四階層だ。


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