ダンジョンマスターが初めにすべきこと
「さてご主人様。ダンジョンコアを設置してダンジョンマスター職となりましたが、次は何をなさいます?」
「次は……協力者を増やそうと思う。もちろん僕の召喚魔法で、だ」
「なるほど。ダンジョンマスターはダンジョンのレベルに応じて、複数の魔物や人を呼び出し契約できますからね」
ダンジョンマスターは天使、悪魔、魔物、はたまた力を持たない動物を呼び出す事が出来る。その呼び出される者は時代や世界を問わない。ただ時代や世界をまたぐために必要な魔力は非常に大きいため、人間にはまず無理だろう。アマテラス様に半分人間を辞めさせられた僕だって、異世界は多分無理だ。いつかできるかもしれないが、今から真面目に訓練しても何百年とかかるのではないだろうか。
「どこから呼び出すとかは決まっているのですか?」
「ああ、時期と場所の特定はしない予定だよ。そっちの方が面白そうだしね。まぁ属性はある程度指定するけど」
召喚する方法は幾つかある。魔法陣に位置情報をいれてその地域から引っ張ってくる方法。何かのアイテムを媒体として使用し、アイテムに縁あるものを呼びだす方法。そして完全なる無作為で呼びだす方法だ。
「へぇ、珍しいですね。ご主人様の故郷である『地球』から呼び出すかと思いましたよ?」
「確かに地球はちょっと考えたよ。だけどそもそも地球までのパスを接続させるほど魔力があるわけではないから」
それにだ、ある程度位置情報を指定できるとはいえ、何が呼ばれるか分からない。可愛い学生や、頭の回転が速いイケメンとか召喚出来れば良いが、そこら辺に居るヒキニートを召喚してしまったら目も当てられない。それを避けるための手だても無いわけではないが、魔力をより多く消費する。もともと不可能なのに、より召喚難度を上げてどうするという話だ。
「でも何故無作為式なんですか?」
「それは……単純にそっちの方が面白いと思ったからだよ」
エディスは片手で頭を抑え、小さく首を振った。
「いつもの悪い癖が出てますよ、ご主人様」
基本的に召喚は一部例外を除き決められた回数しかできない。今僕が就いているダンジョンマスター職であれば、1回だ。
ただダンジョンランク、スキルレベルの向上で召喚出来る数が増える。とはいえランクやスキルレベルが上がるのはかなり先の話となるだろう。
「初めはエルフのように頭の良い者を選ぶ方が得です。アマテラス大森林のような場所から引っ張ってくる方がよろしいかと」
ダンジョンの初期構築と言うのは結構面倒で、考えなければならないことが多い。そのため今回の召喚は、なるべく頭の良い者を召喚することが重要だ。彼女はそんな大切な1回を無作為に選ぶことに呆れているのだろう。
「良いじゃないか。よっぽどの事がない限り、召喚者が不要になることはないって。運が悪いとただのマナ喰らいになってしまうだろうけど」
オーガ系統のような筋肉馬鹿に来られたら、すぐさまに配置は無理でもいずれ守護者としてダンジョンに出てもらえばいい。頭が良いエルフ系統だったら、一緒にダンジョン作りを手伝ってもらえばいい。ドワーフ系統のように鍛冶に秀でた種族であれば、僕が改装を行っているあいだに宝箱に入れる武器を作ってもらってもいい。ただ、その場合は先に鍛冶が出来る部屋を作る必要があるが。
「口出し、失礼いたしました」
「いや、エディスには何か気になる点があったら逐一話してほしい」
僕が気づかないミスを彼女は気がついてくれるだろう。そもそもエディス先輩は僕なんかより有能だと思う。ダンジョンマスターの執事メイド業を僕以上にこなしているだろうし。
「では儀式場を作りますか?」
「うん。とりあえず今のポイントで作れる最高の儀式場を作ろうかと思う」
儀式場にポイントをケチることはしなくていいだろう。僕だってなるべく有能な人物を呼び出したいし、今後僕のダンジョンのLVが上がればまた使う機会もあるし。それに呼び出した者がリッチのように、召喚が使える者だったらそのまま儀式場を貸してしまえばいい。
「システム起動……完了。リモートシステム起動」
僕は自分の前に開かれたウィンドウを、エディスに見えるように可視化設定を変更する。するとエディスは僕の隣に立ってウインドウを覗き込んだ。
「……思っていた以上にダンジョンポイントが溜まっていますね」
エディスが驚くのも無理はない。ダンジョンを始める必要最低限のポイントだけではなく、もはや中級レベルのダンジョンが備蓄しているぐらいダンジョンポイントが入っていたからだ。
「実はダンジョンコアを買うお金は、20年前ぐらいには溜まっていたんだ。だけど初めての契約者はなるべく良い人を呼びたいし設備を整えたいから、その使用する分を計算しお金をためた」
「なるほど」
ちなみにダンジョンポイントとお金のレートはそれらの価値変動によって、レートが変わる。なるべく安くダンジョンポイントに交換出来るタイミングを狙っていたら、あるとき低価格で多くのダンジョンポイントを得ることができた。
そして貯めたこのダンジョンポイントがあれば、それなりの儀式部屋を作って、その中にいっぱいのマナを蓄えさせてもポイントはかなり余る。
「それでいて無作為召喚なんですね。抜け目がないのか、あるのか……」
「まぁまぁ、儀式部屋を作ろう」
「そうですね。何属性の儀式部屋にするのですか?」
僕はもうすでにどんな儀式部屋を作るかは考えていた。儀式部屋は自分の属性と合わせたり、呼び出したい種族や属性によって変えて作るのが基本だ。僕は一応全属性を扱えるのでどんな属性でも構わない。無属性でも良い。だけどもうすでに最初に呼び出す者の属性は決まっていた。
「闇だよ」
「私も光か闇、もしくは無だとは思っていました……一応理由をお聞かせいただいてもよろしいですか?」
「ああ、まずは火水風土とかの属性だが、融通がきかない可能性がある。周りを火の海に変えてしまう奴とか、水の中に居ないと死んでしまう奴とか出てこられても困るし」
「そうですね、でも風と土は比較的今の場所でも適応出来るのでは?」
多分彼女は分かっていてわざと聞いているのだろう。だってこの事を教えてくれたのはエディス先輩なんだから。
「それらは、知能が低い可能性が結構高い、でしたよね? 鳥族やハルピュイアの一部は危険ですね。ゴーレムも守護者としては優秀ですけど、ダンジョン運営は出来ませんからね」
「さすが、ご主人様ですね」
もちろんダンジョンにその属性専用部屋を作ればどんなのだって大丈夫だろうけど、属性部屋を作るのにはかなりのダンジョンポイントが必要になる。なるべく無駄な出費は避けたい。でてきてしまったら仕方ない、作ろう。
「これくらいならA&Aダンジョンマニュアルにも記載されてますし。そもそも何も知らなかった僕に色々教えてくれたのはエディス先輩ではないですか!」
そう、初めての召喚については、A&Aのダンジョン経営者付き執事メイド向けのマニュアルに乗っていることである。もし『火山のダンジョンにする』とか『突風吹きつける岩山ダンジョンにする』とか目標がある場合は、その属性の儀式場を造ることを推奨する。しかしそうでない場合は無か光か闇が推奨される。それはやはり汎用性が高いし無駄な出費が防げるからだ。
「もう、ご主人様。私の事はエディスでお願いします」
「あ、いや、なんか癖で……」
僕はこほんと一つ咳払いをする。
「それで無でなく光でもなく闇にした理由だけど、闇が初期ダンジョンにおいて一番汎用性があるからだ。光で有れば僕ぐらいの魔力だと天使が出てくる可能性だってある。確かに彼らは頭が良いから役には立ってくれる。だけど正義に満ちた天使は、ダンジョンにおいて融通が利かないことがままあるから……」
天使については僕の経験論だが。
「それを言ったら無の方が汎用性があると思うんですが?」
「確かに無はどこでも使える者がそろっていますよ。だけど無には命令を聞くことは出来ても喋ることが出来ない無機質系がいますから。エディスの休みの日に、話し相手が居ないのは少し困るし」
「あら、私だけでなくセツカ含むメイド隊も居るではありませんか、今日は顔合わせだけでしたので一旦帰社しましたが」
「でもさちょっと訳ありそうな子が多いじゃないか。セツカはまあ僕の後輩だし、省くとしても……。まぁ他の人もいずれ慣れるだろうけど今は気楽に話せる人が欲しい」
A&A商会は僕にメイド達に教育をしてほしいのか、たとえ失敗しても大目に見てくれるだろうとふんだのか、経験が浅いメイドが多く派遣された。
もしかしたらA&A商会としては、ここで新人教育をしたいのかもしれない。まぁ別に構わない。それに、それならそれで新たなビジネスを始めることも出来るし。
「さて、儀式場を作ってしまうか」
僕はウィンドウに表示されている文字を触って、儀式場の設定を行う。上級儀式場、闇属性、マナの補填。そして移動用の転移ゲートの設置。そして細かな内装。
僕が設定が終わると右下にあった改装ボタンを押した。
「ご主人様は何が召喚できればアタリだと思いますか?」
「ダークエルフとか上位悪魔かな?」
その辺りだったら必ず役に立ってくれるだろう。逆にハズレは腐食臭が強い奴とか、憑依系の幽霊などだろうか。前者は言わずもがなで、憑依系はいまのところ使う予定がないから、維持コストがかかるだけだ。
「じゃぁ儀式部屋をつくるのに時間がかかるし、僕の部屋とメイド達の部屋でも作りますか。メイドの部屋は任せても良いかい?」
「そうですね……それならば一部権限を譲渡してくださいませんか?」
「もちろんだよ」
僕はダンジョンコアの一部権限をエディス先輩に与え、メイド隊の部屋作成をお願いする。そのうちに僕は自部屋の作成、そしてヤガミヒメ様の部屋の作成を初めた。




