ダンジョンバトル
DPを得るためには幾つか方法がある。
一つ。冒険者を呼び込むことでDPを得る方法。一番シンプルで、真っ当で、なにより安定的で効率も良い。もちろんこれは冒険者が必要不可欠で、ソレを相手取るモンスターもまた必要だ。
二つ。何か別の方法で金を稼ぐ手段を作り、商会から金を得る方法。これは以前僕が作った、冒険者なしダンジョンだ。
三つ。ダンジョンバトルや賭けで勝利してDPを得る方法。
「のう、ミヤジ。こなたはダンジョンバトルと言うのは軽くじゃが知っている。しかし、詳しくは知らぬのだ……」
「そういえば、まだ話していなかったっけ? ダンジョンバトルと言うのはね、ダンジョンマスターがダンジョンを使って勝負する事。勝者は敗者のDP、もしくはDPに代わる何かを貰えるんだ。って、さすがに此処まではわかるよね?」
「……ああ、むしろそこまでしか分からないのう」
「うん、そこまで知ってればとりあえずは問題ないかな。本当なら詳しくルールを説明したいところだけど、ちょっと難しい」
僕の言葉で小さく首をひねるセラフィ。そんな彼女にエディスは補足をしてくれた。
「ダンジョンバトルと言うのは、戦うルールを戦うダンジョンマスターが決めます。決まったルールなどはありません。対戦者はそのルールにのっとって戦います」
「なんじゃ、ルールがない?」
「厳密に言えば『必ずこうしろ』と言うルールはないけど、テンプレート的なルールはいくつかあるよ。たとえば、対戦者全員に一定額のDPを初期配布してダンジョンを作り攻略しあい、どちらが先に最深部までたどり着けるか競うもの。互いのダンジョンに住むモンスター同士を戦わせて勝敗を競うもの。ちょっと変わり種の奴は、どちらが美しいダンジョンを作れるか、なんてのもあったなぁ」
仕事柄引きこもりに近いように見えるダンジョンマスターではあるが、ダンジョンバトルは結構な頻度で発生していている。意外と皆アグレッシブだ。僕が色んなダンジョンを担当していた時も、沢山のダンジョンバトルを見て来た。
「……ダンジョンマスターとは、ダンジョンの最深部に籠って居るようなイメージをもっておったのじゃが……。他のダンジョンマスターとどうやって知りあったり、繋がりをもつんじゃ?」
確かにセラフィの疑問はもっともだ。ダンジョンマスターは最深部でくつろいでいることが多い。ついでに言えばいろんな意味で駄目人間が多い。
「実はね、ダンジョンコアはね、ダンジョンネットワークが繋がっているんだ」
「はて、ダンジョンネットワークじゃと?」
「そうそう、とりあえずダンジョンコアは不思議な何かで繋がっていて、DPを譲渡したり連絡できたり、と色々できると思っていてくれればいいよ」
ダンジョンネットワークに関してはかなり専門的な知識が必要になるので説明はしない。もし知識がある人ならダンジョンネットワークの虚弱性について話したかったんだけど。これについては後でアマテラス様に頼んで最高神様に進言してもらおうか。
まだ首をひねるセラフィにエディスは解説を入れてくれる
「つまるところ、ダンジョンネットワークとよばれるものがございまして、それでミヤジ様達ダンジョンマスターたちは日々対話をしていると考えて下されば良いです。マスター様によっては、一日中ずっと対話されている方もいらっしゃるくらいです」
ダンジョンネットワークはそれこそインターネットのようだ。ただし、インターネットよりも数段上ではあるが。
「ふむ、ならばミヤジはダンジョンバトルをしてDPを稼ぐと言っているのじゃな。するのは構わないが勝つことは出来るのかのう?」
「ルールによっては楽勝だよ?」
僕がそう言うとエディスはセラフィを見て大きく頷いた。
「そうですね。セラフィがいますし、ご主人様の能力なら8割の戦いで勝てると思います」
げに、こなたが? だなんてセラフィは思っているだろうが理由は簡単だ。たいていのダンジョンバトルで一番重要なのは戦力なのだから。ダンジョン防衛するにも力、ダンジョン攻略するのも力、モンスター同士で戦うのも力。セラフィと言うもはやチートに近い最強戦力があるうちのダンジョンは、頭一つどころじゃなく飛びぬけて強い。
「しかしご主人様。ダンジョンバトルを受けてくれる所があるのでしょうか?」
「うん、あるよ。初心者狩りをしている所とか……ね? 幸い僕のダンジョンは10ランクあるうちの一番下『Gランク』ダンジョンとして認定されるだろうから、彼らにしたら格好の餌に見えるだろうね」
以前から幾つかのダンジョンが初心者狩りを行っていることが、A&A商会で問題になっていた。既にそのダンジョンらとA&A商会とは完全に縁が切れていて、お金やDPのやり取りは一切ない。僕が彼らが集めたDPを徹底的に貰ってしまってもA&A商会としてはまったく構わないだろう。むしろアマテラス様に褒められそうなぐらいだ。
まぁもうひとつ、裏で稼ぐためにとあることをするんだけどね。
「最近は目にあまる行動が多かったから、一部ダンジョンマスターは彼らの事を嫌っているだろうね」
そのダンジョンマスターによって潰されたダンジョンだってあるくらいだ。潰されたダンジョンと関係を持っていたマスターは戦々恐々だったり、深い怒りを抱いている。
「なるほど……」
「まぁ、それをする前にいくらか根回しをしなきゃいけないんだけどね」
「根回しじゃと?」
そう、実現するためにはある程度準備が必要だ。
「実を言うとダンジョンマスターには幾つか派閥があってね。その派閥の一部と話をつけておかなきゃいけないんだ。僕はバックに何もいませんよってアピールするつもりだからね。本当はA&Aとアマテラス様がバックに居るんだけど、それを知られたら誰も手を出さないでしょ?」
僕は一応A&A商会もといアマテラス様と深いつながりがある。それ知れ渡ってしまえば、ダンジョンバトルをしたいと思うダンジョンが現れるだろうか? だから僕はアマテラス様とつながりがあることを隠しつつ、なおかつ鴨が葱を背負って来るように見せかけ無ければならない。
「とりあえず、エディス。以前頼んでいた電報の作成は終わった?」
「はい、アマテラス様、アスモウデス様、ツクヨミ様を初めとしたダンジョン経営者様の電報は作成し終わっております」
「じゃぁダンジョンコアを起動して送信してしまおう」
僕はそう言ってリモート画面でダンジョンコアを操作し、エディスが作った電報の内容を確認する。その電報は非の打ちどころのない素晴らしいものだった。
「なんじゃか、ダンジョンマスターとはこなたが想像していたのと全然違うのじゃ……。冒険者は? モンスターは? 今あるのはただの洞窟じゃな……」
そんなつぶやきを漏らしたセラフィに苦笑いを返し、僕はメッセージをチェックする。そして宛先を入れ、一部の人に自分なりのメッセージを追加して送信した。
ため息をつき、ダンジョンコア設定のメインメニュー画面に表示を変える。
さあ、他のダンジョンマスターへのメッセージを送ったし一息つこう、そう思っていた。だけどそれは出来なかった。
それはある一人のダンジョンマスターが返信を送ってきたからだ。僕は思わずエディスに目線向ける。
「……僕メッセージ送って何分くらいたったっけ?」
「……ご主人様、分も経っておりません。あえて分で言うならば、1/3分でしょうか。メッセージを開きますね」
20秒か……それなりに長い文章を送ったつもりなのだが。最近のダンジョンマスターは返信をすぐ送らないといけないと言う暗黙の決まりでもあるのだろうか。
僕はそのメッセージを見て思わず笑ってしまった。そして笑いながらセツカを呼ぶようにエディスに頼んだ。
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■ヤガミダンジョン
□ダンジョン評価(DR、ダンジョンランク):G
◇ダンジョンレベル(DL):1LV
・フロアレベル:1LV
・トラップレベル:1LV
・モンスターレベル:1LV
・ボスモンスターレベル:1LV
◇ダンジョンコア能力(DC):E
・ダンジョンコア処理能力(DCPC):C
・ダンジョンコア容量(DCC):F
◇来場者ランク:G
・来場者数:0名
・来場者質:-(まだ誰も来ていません)
◇ダンジョンポイント(DP):14000DP
エディス購入必要金額(DP換算):12460000DP
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※セラフィがいるのにボスモンスターレベルが1っておかしくね? と思うかもしれません。ですがセラフィはダンジョンフロアに設置していないので、現状ボスモンスターは1匹もいないことになっています。そのため1LVです。