弐 午前
――何か夢を見ていた気がするが、どうにも思い出せない。不吉な夢だったような幸福な夢だったような、それすらもわからなかった。時計の針は丁度午前の陸時を指している。起きるのには聊か早いような気もするが、もう一度眠るのにも少し晩いだろう。それを起こさないように、僕はそっと寝床を抜け出した。
少し立て付けの悪い木窓を力ずくで開けると、胸がつまるほどに清爽な青空ときらめく朝日がまだ覚めたばかりの目に飛び込んできた。それと同時に涼やかな風が窓に吹き込み、清い朝の空気がこの薄暗い部屋に充満してゆく。今日は釣りにでも行こう。空の眩しさに目を細めながら、そう思った。
朝の支度を整え寝床に戻ると、それはまだ、ちいさな体を丸めて眠っていた。さらりとした美しい亜麻色の髪が白い頬にかかっている。何となしにそれをそっと指先で払いのけると、長い睫毛がぴくりと震え、続いて薄く瞼が開いた。ちらりと灰色の瞳が覗く。
「んん……。おはよう……ぼく……」眠たげに目を擦り、それはどこか焦点の合っていないぼんやりとした瞳で僕を見た。
「おはよう、ぼく。すまないね、起こすつもりはなかったんだ」
「いい……。それより、ぼくが起きるなら、ぼくも起きる……」
呟くようにそう言うと、それはゆっくりと体を起こし大きく伸びをする。後頭部に咲いている花が、微かに揺れた。