表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クロスオーバー  作者: 連鎖
リーダー
99/115

販売②

 ボスとリーダーの顔が近づく。だが、そのとき。


「ボス」


 黄色い瞳を細く光らせ、痩せた魔法使いが一歩前へ進み出た。


「少し抑えてください。……その間に確認しますから」


 魔法使いは杖をくるりと回し、ミアとリアに近づく。


 ミアが反射的に身を引こうとしたが、リーダーが強く引き許さない。


 魔法使いの指が手枷と首輪へ触れ、呪文を囁くと青い光が走った。


「ふん……魔力抑制。スキル封印……。こっちの首輪は……」


 魔法使いの唇が、わずかに引きつった。


「ずいぶん凝った造りだな。あの男に隷属している……が、

 女からの解除は不可能……こんな高度な術……」


 同じようにリアにも触れ、怯える彼女には優しい笑みを浮かべ。

 

「どちらも本物ですぜ…‥。まがい物や、玩具じゃねえぇ。

 女たちから何もできない。“死ぬ事さえ出来ない”のが、着いてるぜ」


 何故か興奮した顔を向けて、ボスに説明をしていた。


「……だとよ」


 リーダーは、つまらなさそうに肩をすくめ、

 馬鹿にしたように目を細めて、ボスに話しかける。


 ボスの眼光が探るように鋭くなり、

 重苦しい沈黙が続くと、一段と部屋の空気が張り詰めた。


「……だからって、五百はねえだろう?」


「嫌なら、他を当たれ。貴族に回しゃ、単体でもそれぐらいだ」

「……」


「……ああ、混ざり物のエルフで、スグに元が取れるよな?」

「…」


「ガキを売れよ。まさか、そんな事も知らねえのか?」

「オマエ……本当に神官か?」


「だ……から、俺が“施してやる”って言ってんだよ」

「クズだな」


「抵抗出来ないいい女の玩具。カネのなる木を一緒に売ってやる。

 それで、どうするんだ? 買わねえのか?」


 考え込んでいるボスを見ても、黒衣の男は一歩も引かない。


 腹を突き出しただらしない姿勢のままだが、

 眼差しだけは獣のように鋭かった。


 見た目や態度に言動も怪しいリーダーとボスが睨み合う。


「ハァ~。気づいただろ。売る気は“ほとんど”ねえんだよ。

 これから、日暮れの街に連れていくってのが面倒ってだけだ」


 ボスの口角がぴくぴくと痙攣し、斧の柄を握る手に血管が浮き、

 折れそうなほどの力が込められていた。


「知ってるか?……女より、カネのほうが、色々と軽いんだよ」


 殺気に囲まれ、今にも襲われそうだというのに、

 リーダーは「どうでもいい」と言わんばかり。


 ミアとリアの身体に緊張感が走っていき。


 部屋の隅々で手下たちが息を潜め、誰もが武器へ手をかけ、

 いつでも飛びかかれるよう身構え。


 魔法使いが面白そうに笑って詠唱を始めた。


「……」


 お互いの睨み合いは、長くは続かなかった。


 ボスがふっと息を吐き、顔を覆うように大きな手で額を押さえる。


 そして――


「クッ、ハハハハハッ!」


 腹の底から笑い声を上げ、斧が何度も強く振り下ろされるが、

 さっきと違い、床が揺れる程度。


「気に入ったぞ、豚野郎!そのツラ。言い草といい……

 教会上がりのくせに、なかなか肝が据わってるじゃねえか!」


 笑いながら、ボスは魔法使いに手を振った。


「払ってやれ」


「……は?」


 リアを見ていた魔法使いが露骨に顔をしかめる。


「ボス、本気で――」


「うるせえ。今回の女を動かしゃ、スグに回収できる。

 豚を手懐けりゃ、安全に他のも連れてくんだろ?」


 ボスはにやりと笑い、親指でリーダーを指し、

 不満そうな魔法使いへ手招きをして、顔を近づける。


「それに……こういう“わかりやすい”のは、

 後で色々扱いやすい。後でだぞ。忘れるな。あ、とで……だ」


 魔法使いは、しばらく不満げに黙っていたが、

 やがて諦めたように俯いき、リアを見て残念そうに肩を落とす。


「わかりました。もう、何も言いません」


 魔法使いは、リーダーに向けて嫌そうな顔を貼り付け、

 ボスの背に積んであった袋の山から、いくつかを持ってくる。


 じゃらりと、重い音がする袋が開かれ、

 硬貨が入っているのを見せながら、一つ、二つと床に並べていった。


 リーダーはそれをじっと見つめながら、ゆっくりと近づく。


「ボス。数は?」「五だ」「……わかりました」


 淡々と二人の演技が続く。


「ありがとよ。神のお導きだな」


 カネの入った袋しか見ていない男の目が半月に歪んでいった。


「これで文句はねえだろ。おっと、後で届けてやってもいいぞ」


「この程度、女と比べりゃ軽いもんさ」


 リーダーは袋に入っていた金貨を適当に取り出し、

 掌の上で軽く転がして感触を確かめる。


 金属の重さ。乾いた音。縁の摩耗。刻印の合わせ。


 光にかざして輝きを確認すると、口元を嬉しそうに歪めた。


 その笑みは、完全に「カネに目が眩んだ男」のそれだった。


 ミアとリアの、先ほどわずかに戻った希望が目に見えて曇っていき、

 猿轡越しに声は出せないが、瞳が確かに問いかけていた。


 リーダーは金貨の入った袋を全て荷袋にしまい、

 二人の視線に気づいているはずなのに、そちらを見もしない。


 それを見て、二人の表情が絶望に染まった。


 自分たちが“売られ”、そのカネを嬉しそうに受け取る――

 その光景を見た現実を、簡単に飲み込めるはずもなかった。


 ボスは背もたれにふんぞり返る。


「よし。……おい」


 顎で合図する。


「よこせ」


 魔法使いが渋々といった態度で進み出て、

 ミアとリアの繋がった縄をリーダーから奪い取った。


「ああ、連れてけ。あと俺との隷属は外れねえがな。

 欲しければ言ってくれよ。格安で譲ってやるぞ」


 周囲の部下が出てきて、

 にやにやと不快な笑みを浮かべ、二人を品定めするように囲んだ。


「ボス?」


「地下だ。傷をつけるんじゃねえぞ。俺が楽しむまでな!」


 その一言で、空気がいやに生々しく歪み。


 ボスが楽しそうに柄で床を何度も小突く。


 ミアの琥珀色の瞳が鋭くボスを睨み、目尻に涙が薄く滲む。


 リアのエメラルドの瞳は、真っ直ぐにリーダーを見たが、

 その澄んだ光が少しずつ淀んで消えていった。


 紐を引かれた二人は、救いを求めて何度も振り返る。


 そこに立っていたのは、優しく頼もしいリーダーだった者の背中。


 黒いローブコートと、腹の出た輪郭。

 カネの入った袋を大事そうに抱える厚い手。


 顔にはカネに溺れた俗悪な笑みが、こびりついている……だろう。


 二人が扉へ向かうたび、視界からリーダーが消え、

 重い扉が閉じられると、木と鉄が噛み合う鈍い音が心に響いた。


 ◇


「いいのかよ、豚野郎。あんな上玉、手放しちまって」


 残された静けさの中で、ボスがジョッキを置いて笑う。


「女は、カネと違って、簡単に裏切るんでね」


 リーダーは、わざとらしく肩をすくめ。


「ま、そっちが“使い潰した”あとで、買い戻しに来る予定だがな」


 続けて厚い唇の端を吊り上げ、少しも後悔していない顔で答えた。


「……?」 


 ボスは、″買い戻し″と言う言葉に一瞬戸惑い。


「ハハハ!そうだ! お前ら、そういう奴らだったな!」

 

 だが、意味がわかると、声を上げて激しく笑っていた。


「そうさ、生きるのを諦めた。

 悲しく壊れた命を、女神が望む通りに、俺が救ってやらんとな」


 二人の笑い声が、汚れた部屋に重なって響き渡る。


 だが、その響きの奥で――リーダーの黒い瞳が、

 懺悔をする人達に向ける、優しく穏やかな光を宿していた。



 販売②

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ