宿屋①
安い宿屋の薄汚れた天井板には、夜の垢がこびりついていた。
窓の隙間から差し込む朝の光も、
この部屋へ入ると、どこか灰色がかって見え。
そんな場所で、きしむ音を立てながら木製のベッドが揺れた。
くたびれたベッドをつなげて寝ていた男は、
仰向けのまま目を開けて、いつものように部屋をゆっくりと見回す。
掛けられていたはずの、湿気を含んだ毛布は床に散らばり、
壁には黄ばんだ染みや、男の体液までが落ちていた。
鼻をかすめるのは、食べ物とお酒に、人の体臭が混じった獣の匂い。
その空気の中心で響くのは、男の呼吸だけ。
身を起こすと、腹の肉がどっしりと揺れ、
脂を詰め込んだような身体を、隠すものは何も着ていない。
背は低いというほどではないが太り過ぎで、
呆れるほどにそそり立つ身体が、粗末なベッドをきしませている。
横幅は、二つのベットをつなぎ合わせても寝返りをうてる程度。
禿げた頭には周囲だけ黒髪が残り、それにも白いものが混じり、
顎には剃り残しと生えかけの髭。
瞳は黒く、丸い鼻と厚い唇、そして垂れ下がった頬。
それが、リーダーと呼ばれる主人公の見た目だった。
◇
実は、他の部屋から持ってきたベッドまでもが左右に置かれていた。
その右側には、
男の腕を抱きしめ、張り付くように寝ている若く美しい女。
しかし、男が起きたのに気付き、少し眠そうな顔で声をかけてくる。
「ん……あれ、リーダー、もう起きた?」
ミアの、どこか嬉しそうに掠れた声。
伸びをした女の金髪が、身体を起こしたおかげでばさりと揺れ、
陽を受けてきらりと光る金糸が、肩のあたりまで流れ落ちる。
眠気の残る琥珀色の瞳が、男へ向けられた。
明らかに男より背の高い身体が起き上がると、
輪郭だけで暴力的な乳房が、どさりと音を立てたように揺れた。
浅黒い肌が朝日に照らされて艶めき、
しなやかに鍛え抜かれた腕や腹部には、薄く浮き上がる筋肉の魅力。
人間としては高めの身長に、健康的な肌色と、
戦場を潜り抜けてきた者特有の、しなやかな女性らしい身体。
彼女は頬にかかった金髪を指で払いながら、
男に向けて寝ぼけ眼のまま、優しそうに微笑んだ。
「さすがはリーダー、朝からタフだねぇ……って……」
明らかに、そそり立つ獲物を見ている目は真剣だった。
「顔がちょっと怖いんだけど……アハハハ。冗談よ……」
言葉では謝っているが、唇をなめる舌が怪しく蠢く。
「うふふ。別に冗談じゃなくてもいいんだけどさ……今からどう?」
自分の高揚感を主張して、男に脚を広げて見せつけていた。
リーダーは、返事をしない。
ただ、呆れたように小さく息を吐き、
ベットから降りながら、相手を見ずに首を振るだけだった。
◇
左に追加されていたベットに寝ていた女は、起きていたのだろう。
リアの柔らかく澄んだ声が響く。
「……もう朝ですか。今朝までありがとうございました。リーダー。
ミアが寝た後は静かな夜でしたね。ぐっすりと眠れましたか?」
リアも、そそり立つ身体を目を細めて見ながら、
ミアと同じように唇をなめて濡らしていく。
「もちろん、私も……今からいいですよ ねえ、ミアもでしょう?」
つつましく穏やかとは言えない、
大胆な格好でお尻を突出して軽く振っていた。
リーダーは、ミアと同じ態度で応える。
何処か嬉しそうにリアは笑い返し、身体をユックリ戻していく。
銀糸のように腰まで続く長い髪が、滑り落ちるように流れ。
その月光を思わせる淡い光沢を帯びた髪は、
腰をとうに過ぎ、布団の上にさらさらとこぼれ落ちる。
尖った耳が長い髪の隙間からひっそりと覗き、
エメラルドグリーンの瞳に眠気の色はない。
だが、その奥には冷静な光の裏側で欲望に染まった色が滲んでいた。
種族的に見ても長身で、無駄な贅肉のないしなやかな裸体。
白磁のように滑らかな肌は、薄暗い部屋の中でも淡く光を反射し、
彼女の輪郭をくっきりと浮かび上がらせている。
ミアの健康的で力強い魅力とは対照的に、
彼女は静かな湖面のような美しさと、種族的な気品を漂わせていた。
◇
「残念です。では、夜のお楽しみということですね?」
リアが、ベッドの上で正座をして頭を下げる。
「リーダー。おはよう。今日もよろしく」
ミアは、腕を上げてぶんぶんと手を振っていた。
対照的な二人に、リーダーは、ほんのわずかに笑い、
顎を引いて軽く頭を下げた。
ミアは、ベッドから降りて立ち上がる。
朝日を浴びた巨大な乳房が盛り上がり、女であることを誇示し、
引き締まった腹部と、丸みを帯びたラインを見せつけ。
そこから続く、健康的な太腿と浅黒いふくらはぎ。
戦士としての力強さと、女の魅力が同居した姿。
「さ、着替えよっかな。リーダー、
こんな格好でうろついていたら、本当に襲いたくなっちゃうから」
ミアは、からかうように言いながら、ベッドの下に散乱した下着と、
部屋の隅にまとめて置いた荷物へ向かう。
しかし、戦士としての誇りなのだろう。
二本の剣は、荷物とは別の場所に並んで立て掛けられていた。
「今日も、よろしくお願いします。リーダー」
続いて同じ格好のリアも、静かにベッドを降りる。
真っ白い足が床板に触れると、冷たさにほんの少しだけ眉を寄せ、
その仕草すら、どこか絵画の一場面のように美しい。
「リーダー。着替えている間は、襲われたら何も出来ません。
私から視線をそらすのは、禁止ですよ」
誘うような顔のリアが、
細長い指で身体を指差し、リーダーの視線を奪い返す。
真っ白い肌は魅力的で、身体が赤みを帯びているのが分かりやすく、
明るく光を反射している銀色の髪は、産毛まで輝いている。
華奢な身体に似合う、
引き締まったお尻から続く、長い脚のラインも美しい。
「そっちじゃないですよ。リーダー。私を見てください」
「アタシだって、近くで守ってくれてもいいからな。アハハハ」
ミアも笑いながら、胸を揺らして視線を奪い返そうとしていた。
宿屋①




