連絡②
「ガサ……ゴソゴソ……うぅぅぅ……んっ?……じゃらら……うぅん?」
(これって何かな?)
(あはは。何だろうねぇ。いやぁ、何かなァ。)
さっきは何かが壊れたような音がしていた。
だが、段ボールの中に入っていた物に傷が入った様子もなく、
もちろん割れた破片のような物も入っていない。
「じゃらら……ハート? うぅうん……ハートでしょ?……じゃらら。」
(うーぅぅん。早く捨てた方がいいかなァ。いやぁ、危ないかもォ。
得体の知れない会社から送られてきた物を……だよね?)
見た目は手のひらほどの大きさ、透明なハート型のペンダント。
だが、現代では考えられないほどプラスチックの純度が悪く、
少しくすんでいて安っぽく見えていた。
しかし、そのペンダントの中には輝きを失った金色の板には、
小さな赤い花のような装飾と金色の意匠が複数。
さらに、長く細い金色のチェーンがハートのくぼみから伸びており、
首に掛けて使う物だと分かる作り。
「クロぉおおお。可愛い?じゃらら……アハ……可愛いかなぁ。」
(待って!早く外して!
そんな物を着けたりしたらダメだよ!絶対にダメ!)
彼女の部屋には姿見も飾りもなく、
可愛らしい玩具など、自分の物として貰った記憶もなかった。
だからこそ理々杏は、
この贈り物を初めて貰った自分だけの宝物だと思ってしまい、
箱から取り出すとすぐに首へ掛けていく。
(早く外すんだっ!リリ!ダメだったら、ダメぇええ!)
「クロ。久しぶりだねぇ。あはは。こんな物で何を驚いているの?」
(……いや……。あの、理々杏?
知らない人から送られてきた物にだな……。ゴホン。
そういう物には……ど……。そうだ、ゴホンゴホン。
毒が……毒が付いているかもしれない。
やっぱり危ないかもしれないから、早く外そうな。)
同居人が、ここまで慌てる事は滅多にない。
たまにはあるが、古びた玩具を嬉しそうに首へ掛けている事に、
彼が嫉妬しているようにも見えた。
そう思った理々杏は、もっと困らせてやろうと、
ペンダントに何か仕掛けがないか探り始めていた。
「あはは……あれぇえ。このハート?
クロぉお? これって!」
(触るな!離れろ! 早くそれを外すんだっ!
そのボタン、それを押すなぁああ!)
理々杏がよく見ると、
中心部分には金色に縁取られた真っ赤なハートがはめ込まれていた。
そして、その部分だけが、電池切れ寸前のようにぼんやりと光った。
「そうなんだぁ。アハハ。いやぁ、そうなんだねぇ。これっかなぁ。」
(今なら戻れるから!今なら普通に!普通の人になれるってぇええ!)
もちろん同居人の忠告など、
まだまだ子供らしい探究心を持つ、可愛い理々杏には届かなかった。
むしろ、
そこを押してみろと勧められているようにしか聞こえていなかった。
「ガッ……チャッ。ピカァアアアン。ドクン。ドクン……んっ?」
(ハァァァ……。押しちゃった。押したんだよねぇ。ハァ……。)
(何が起こったの? クロ。これから何が起こるの?これって何っ?)
(ハァァァ……。解剖されるかもねぇ。
身体をバラバラにされて標本にされ、牢獄に監禁されるかもねぇ!)
(どういう事?)
(起こった事は仕方ないから、待ってればいいよ!!)
(クロぉおおお! ごめん! ごめんね! 謝るから!)
(……。)
(ごめんね! ごめんね! クロったら、クロぉおおお!)
(……。)
理々杏が中央部分へ触れた事で、何かが起きたらしかった。
さっきまで微かに光っていたハートは、
真っ赤な炎のような色へ変わり、
まるで生き物の鼓動のように、ドクドクと脈打っていた。
◇
「ごめんね。リリが悪かった!だから返事してよ!ねえ、クロぉお。」
(……。)
最初は何もかも捨てて、ここから逃げ出そうかとも思った。
だが、何度呼び掛けても、同居人は何も答えない。
鳥のスプラッター。見えない新聞広告。同じ覚醒をした先輩。
新聞と同じ宅配便。そして……このペンダント。
こんな不思議な出来事が立て続けに起こってしまえば、
自分が逃げられない運命へ巻き込まれているのだと気付いてしまう。
だから理々杏は同居人が言っていた通り、待つ事しかできなかった。
◇
部屋の中で何もしていないのに、首に掛けられたペンダントは、
持ち主の帰還を喜んでいるかのように脈動を続けていた。
そんなペンダントを首に掛けたまま、しばらく待っている。
理々杏が何もしていないにもかかわらず、
向かいの壁が突然明るくなり、誰かの声が聞こえてきた。
「ブッフォ……ゴホン……ゴホホン……。ちょっと待っ……ブホホ。」
(わかりました。わかりましたって。
ちゃんとしますから。いいですよ!)
その声と共に、ペンダントから映像が投影され。
そこには、少し年を取った男性の姿が映し出されていた。
「誰?」
「ええっと……。正義の味方会社の……そうだ!
博士とでも呼んでもらおう。名前はシークレットだからな。
そう、シークレット。アハハ。」
(こんな感じでいいですか?いいですよね?ああ、ハイ大丈夫です。
社員全員に連絡済みです。忙しくなるとも言いましたァ!)
この男も理々杏と同じように第六感が使えるのか、
何か別の存在と会話しているようだった。
「博士?」
「そうだよ。私は博士だ!そう呼んでくれたらいい。
博士だぞォ。理々杏。君は、
そのペンダントに選ばれた。ったったったァああ。
正義の味方。そう……
正義の味方になるために、君は選ばれたんだったぁあ。」
(あっち方面は管轄外ですよ。頼みますよォ。あの国も。
あの国。それはそっちで頼みますよ。いいですね。頼みますよ。)
理々杏が見ている光景も、博士と名乗る男もどこかおかしかった。
だが、理々杏が見たスプラッターも、考えれば十分おかしい。
なぜ動くのか。どうして大きくなったのか。なぜ鳥になったのか。
特別な人にしか見えない新聞もそうだ。
普通ではない事ばかりが、彼女の周囲で起きていた。
そして、それらを一企業だけで管理できるとは思えない。
もし国家レベルで知られれば、抹殺、拉致、隠蔽。
そんな対応が取られても不思議ではない内容だった。
博士は、どうやらそういった話を別の誰かとしているらしかった。
「選ばれた! 私、選ばれたんですか?」
「そうっ……イタッ。いや……違います。ちぐんです……。」
(痛いって。はい……わかっていますって!)
「連絡は受け取ったよね。最終試験は、それの結果で決めるからね。
ダメだったらそれでもいいからね。やめてもいいよぉおぉ。」
(もうバレていますよ。もう無理ですってぇええ。
この会社にだって、沢山潜り込んでいるんですから。隠せません。)
シックスも、普通という誘惑には勝てないらしい。
まだ理々杏が元の生活へ戻れると信じて、
博士へ願い続けているようだった。
「ハイ! 大丈夫です! 私、正義の味方に絶対なります!」
「理々杏。試験に合格するのを楽しみに待っているよ。プツン――。」
(もう無理ですって。どうせ各国が動いていますからぁ。
無理ですよ。滅ぼせばいいって……。本当に物騒……。
えっ……アハハ。いやぁ……。)
博士が話している情報は重要だった。
知っているだけで、さまざまな対処において大きな優位を得られる。
しかしシックスは、
知らなかったというだけで滅ぼせばいいと口にする。
その短絡的な発想に、博士も頭を抱えているようだった。




