卒業③
「いいわよ」
美琴は四つん這いになり、まるで犬のような姿勢で俺を誘っていた。
……俺が、いつまでも決断しなかったせいで、
こんな、動物の交尾みたいな体勢をさせてしまった。
少し前は違っていた。
「おいで、たっくん。最初だし……これがいいでしょ?」
美琴は、薄い浴衣一枚で地面に寝転び、
両腕を広げて――まるで子供を抱きしめるような格好で、
さっきと同じように呼んでいる。
その姿は、校庭の砂利の上に身を横たえて、
美琴の白い背中も、柔らかな脚も、丸みを帯びたお尻や腰も、
すべてが無防備に、地面に押しつけられていた。
もちろん、そんな格好で体を動かせば、
皮膚が擦れて血が滲み、土が入り込めば激しい痛みが走るはず。
――その事に今さら気づいた。
それでも美琴は、さっきと同じく微笑んで俺を迎え入れようとしていた。
――ごめん、美琴。
襲いかかってきた俺を許した後に、アレを着けろと要求をした後も、
彼女はそれを咎めずに、優しく笑って受け入れてくれた。
「暗いから、顔もよく見えないし……嫌なら、目、つぶってあげるよ?」
「違うんだ、美琴……」
「ふふ……そういうことね。――でも、叩かないでよ?
あれ、ほんと痛いんだから。もしどうしてもなら、また今度にしてね」
「だから……」
「アッチは、外じゃ嫌。どうしてもって言うなら、考えるけど…」
「……違う、違うんだよ」
「アハハ、よかった。そうじゃないのね。
――ほら、拓海。これなら恥ずかしくないでしょ?
早くしないと、誰か通るかもしれないし……通報されたら、大変よ?」
まるで子供をあやすように、経験豊富な彼女が声をかけてくる。
――ここじゃなくてもいいだろ? 部屋でだって、できるじゃないか。
そう思って声をかけようとしたが、何故か彼女が話を続けた。
「はやくぅ。誰かに見られたら、一番困るのは……拓海さん、だよ?」
こんなところで目立てば、すぐに噂は広がる。
若い男女が少ないこの町では、格好の話題になるし、
誰かに話せば、知った顔が必ず出てくるような、閉じた田舎。
でも――本当に一番困るのは、美琴のほうで。
彼女はさっきも、何も知らない連中から、
心ない傷つけるような言葉を、人前で投げつけられていた。
「もう……はやく~」「…」
俺を心配させたくないのだろう。
美琴は一段と優しく、誘うような声で続けた。
「ねえ、拓海先生、残り……あと1個だから。ちゃんと大事に使ってね」
「えっ……?」「私みたいに、誰にでも抱かれる女が相手だと……」
「やめろ……だまれ。だまれ、黙れぇえ!」
美琴の言葉に、頭の中が真っ白になった。
もういい。もういいから、やめてくれ…
誰に聞かれたっていい。二人を見て通報されたってかまわない。
俺が村八分にされたって、彼女と噂になったって――どうでもいい。
彼女の告白に怒ったのか。
それとも……こんな場所で抱こうとした自分に腹が立ったのか。
あるいは――全部を受け入れて、笑っている彼女に絶望したのか。
わからない。ただ、気づいたときには、
何をしたのかも、何を叫んだのかも覚えていなかった。
ただ怒りのままに、美琴を抱き、
あの男たち以上に、酷いことをしてやろうとさえ思った。
そんな俺を見て、彼女が悲しんでいるとわかっていながら――
一方的に自分の欲望をぶつけて彼女を壊していった。
卒業③




