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クロスオーバー  作者: 連鎖
黄昏
73/99

破壊④

 ガチャぁあああん……


 玄関のドアが、破裂音のような轟音とともに開いた。


「たっくん! 病気なの? 倒れてるとか!?」

「オッ。お、おぉおう……」


 鍵をかけ忘れたのか。

 それとも——心のどこかで、彼女に気づいてほしかったのか。


 荒々しく部屋に踏み込んできたのは、

 泣きそうなほど怒った顔をした美琴だった。


 誰も来なくなったこの部屋に、

 あまりに若く、美しい女が風のように入り込んでくる。


 それだけで、空気が変わった気がした。


「もう……いいわ。全部わかったから。さっさと祭りに行くよ。」


 何かを見透かすような目だった。


 疲れ切った顔か、テーブルに置きっぱなしのスマホか。

 どちらか、あるいは両方で、彼女はすべてを察したのだろう。


 そしてその瞬間から、美琴の行動は——どこか、壊れ始めていった。


「いい……俺、行きたくない」

「今日、卒業させてあげるから。だから早く、行くの」


「……」

「ぐいぐい。コレ、触らせてあげるし——コッチも見せてあげるよ」


 彼女は浴衣の胸元をすっと開き、軽く日に焼けた肌をさらけ出し、

 続けて裾をずらせば、同じ色の太ももがのぞいた。


 その脚は、汗がうっすらと浮いて光っている。


 ——なんだ、この女は。


 こんなにも彼女に似ていて、こんなにも、美琴とは遠い。


「卒業って……何の?」

「神社で、お願いするの。一緒にしたら——その帰りにでも、してあげる」


 彼女の声が震えていた。


 美琴の張りついた笑顔の裏で、彼女の心が泣いていたのに、

 拓海は、その意味にまったく気づいていなかった。


「あはは……そっかぁ。そうだよな。行こうぜ、美琴」


 そうだ。こういう女だ。何を迷っていた。


 優しさも、想いも、過去も、全部無意味にしてしまえばいい。


 自分の気持ちなんて、どうせ……塗りつぶしてしまえば、

 あの男たちみたいに、俺がセフレの一人になればいい。


「さっさと着替えて!」

「待ってたよ、美琴ちゃん。俺も、今日で卒業かぁ……」


 彼女が背を向けて涙をこらえているのに、

 その姿を、もう見ようともしない拓海。


 彼女のすべてを、ただの"都合のいい女"として受け止めようとしていた。


 浴衣に着替え終わって部屋に戻ってくると、

 彼女が椅子に座って化粧を治していた。


「どうした?」

「……暑くて走ったから。化粧、崩れちゃったのよ。ちょっとだけ……」


 彼女が何かをしているかと思い、

 慌ててトートバッグを探してしまうと、拓海の胸がざわついた。


 けれど今日は、トートバッグではなく、

 彼女らしい、浴衣に合わせた可愛い巾着袋。


 ——けれど、その中に入っていた化粧ポーチを出しているので、

 口元が広がって、そこからちらりと覗く避妊具の箱。


 その姿を見た瞬間、拓海の心に冷たい氷が流れ込んだ。


「いつ見ても、いい女だよ。今日は下着……着けてないよな?」

「アハハ、自分で確認しなさいよ。後で、好きなだけ見せてあげるから」


 椅子に腰かけ、手鏡に向かって化粧を直すその横顔と、

 襟元からのぞくうなじが色っぽくて、拓海の理性を削っていく。


「触っていいよな?」

「……大声出すわよ?でも——お祈りの後なら、好きにすればいいけどね」


「ふぅ……終わったわ。

 アンタが連絡くれないから、疲れ切っちゃったじゃないの」


 睨むような目。だけど、その奥にあったのは——

 怒りじゃない。期待でもない。ただ、強がるような切なさだった。


「……ああ、ごめん」


「もぉ……謝んなくていい。全部、許してあげるから。

 だから今日だけでも、美琴でいさせてちょうだい。いい?」


「ごめん、美琴……オレ……オレって……」

「チュッ。いいの、拓海。いいのよ」


 彼女は笑っていた。


 なのに——その笑顔の奥で、心は静かに泣いていた。

 それすら拓海は気づかないまま、ただその優しさに甘えていた。


「とっても、似合うよ。美琴。でも……透けていないか?」


「ウフフ。今日は本気だから。拓海に見てもらいたかったのよ。

 君だって欲しいんでしょ? そこ……アハハ。さあ、祭りに行くわよ」



 破壊④

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