破壊④
ガチャぁあああん……
玄関のドアが、破裂音のような轟音とともに開いた。
「たっくん! 病気なの? 倒れてるとか!?」
「オッ。お、おぉおう……」
鍵をかけ忘れたのか。
それとも——心のどこかで、彼女に気づいてほしかったのか。
荒々しく部屋に踏み込んできたのは、
泣きそうなほど怒った顔をした美琴だった。
誰も来なくなったこの部屋に、
あまりに若く、美しい女が風のように入り込んでくる。
それだけで、空気が変わった気がした。
「もう……いいわ。全部わかったから。さっさと祭りに行くよ。」
何かを見透かすような目だった。
疲れ切った顔か、テーブルに置きっぱなしのスマホか。
どちらか、あるいは両方で、彼女はすべてを察したのだろう。
そしてその瞬間から、美琴の行動は——どこか、壊れ始めていった。
「いい……俺、行きたくない」
「今日、卒業させてあげるから。だから早く、行くの」
「……」
「ぐいぐい。コレ、触らせてあげるし——コッチも見せてあげるよ」
彼女は浴衣の胸元をすっと開き、軽く日に焼けた肌をさらけ出し、
続けて裾をずらせば、同じ色の太ももがのぞいた。
その脚は、汗がうっすらと浮いて光っている。
——なんだ、この女は。
こんなにも彼女に似ていて、こんなにも、美琴とは遠い。
「卒業って……何の?」
「神社で、お願いするの。一緒にしたら——その帰りにでも、してあげる」
彼女の声が震えていた。
美琴の張りついた笑顔の裏で、彼女の心が泣いていたのに、
拓海は、その意味にまったく気づいていなかった。
「あはは……そっかぁ。そうだよな。行こうぜ、美琴」
そうだ。こういう女だ。何を迷っていた。
優しさも、想いも、過去も、全部無意味にしてしまえばいい。
自分の気持ちなんて、どうせ……塗りつぶしてしまえば、
あの男たちみたいに、俺がセフレの一人になればいい。
「さっさと着替えて!」
「待ってたよ、美琴ちゃん。俺も、今日で卒業かぁ……」
彼女が背を向けて涙をこらえているのに、
その姿を、もう見ようともしない拓海。
彼女のすべてを、ただの"都合のいい女"として受け止めようとしていた。
浴衣に着替え終わって部屋に戻ってくると、
彼女が椅子に座って化粧を治していた。
「どうした?」
「……暑くて走ったから。化粧、崩れちゃったのよ。ちょっとだけ……」
彼女が何かをしているかと思い、
慌ててトートバッグを探してしまうと、拓海の胸がざわついた。
けれど今日は、トートバッグではなく、
彼女らしい、浴衣に合わせた可愛い巾着袋。
——けれど、その中に入っていた化粧ポーチを出しているので、
口元が広がって、そこからちらりと覗く避妊具の箱。
その姿を見た瞬間、拓海の心に冷たい氷が流れ込んだ。
「いつ見ても、いい女だよ。今日は下着……着けてないよな?」
「アハハ、自分で確認しなさいよ。後で、好きなだけ見せてあげるから」
椅子に腰かけ、手鏡に向かって化粧を直すその横顔と、
襟元からのぞくうなじが色っぽくて、拓海の理性を削っていく。
「触っていいよな?」
「……大声出すわよ?でも——お祈りの後なら、好きにすればいいけどね」
「ふぅ……終わったわ。
アンタが連絡くれないから、疲れ切っちゃったじゃないの」
睨むような目。だけど、その奥にあったのは——
怒りじゃない。期待でもない。ただ、強がるような切なさだった。
「……ああ、ごめん」
「もぉ……謝んなくていい。全部、許してあげるから。
だから今日だけでも、美琴でいさせてちょうだい。いい?」
「ごめん、美琴……オレ……オレって……」
「チュッ。いいの、拓海。いいのよ」
彼女は笑っていた。
なのに——その笑顔の奥で、心は静かに泣いていた。
それすら拓海は気づかないまま、ただその優しさに甘えていた。
「とっても、似合うよ。美琴。でも……透けていないか?」
「ウフフ。今日は本気だから。拓海に見てもらいたかったのよ。
君だって欲しいんでしょ? そこ……アハハ。さあ、祭りに行くわよ」
破壊④




