↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クロスオーバー  作者: 連鎖
黄昏
67/141

妄想④

 バキバキ…ズル…


 美琴を送った帰り道。

 畑へと戻るハンドルを握る手に、じんわりと力がこもっていた。


 「必要ない」と言われたわけじゃない。


 ──けれど、あの別れ際の笑顔が、

 どこか「もういいよ」と言っているようで。


 勝手に、胸がざわついた。


 彼女と話していた自分は、怒っていた。落ち込んでもいた。

 でも──結局は、ただ自分勝手に失望していただけだった。


 少し遅れて着いた畑では、陽射しが容赦なく降り注ぎ、

 地面からは湯気のように熱が立ちのぼっていた。


 帽子もかぶらず、手袋もしないまま、雑草を抜き、石をどけ、水を撒く。


 ──けれど、手は動いていても、心は別の場所にあった。


(変わったのは美琴じゃない。

 勝手に期待して、勝手に幻滅したのは──俺の方だ)


 思い出すのは、美琴が笑いながら持っていたトートバッグ。


 その口から、ちらりと覗いていた箱──

 薬局で買ってあげた、避妊具の箱。


(あれは──)


 脳裏に、高校時代の記憶がフラッシュバックする。


 あの頃、クラスの誰かが持っていた、羨望と背徳の象徴。

 何度も妄想し、憧れ、眠れなかった夜。


 “彼女とアイツが”という想像に、

 興奮と罪悪感がぐちゃぐちゃに絡まったあの感覚。


 今、頭に浮かぶのは──美琴がそれを“使っている”映像だった。


 歪んだ笑みが、勝手に口元に広がっていく。


「……はは。迎えに来るな、か。

 あの楽しそうな、夜の“約束”ってわけね……」


 かつて美琴を、大人びた“理想”の象徴だと見ていた自分。

 それがただの妄想に溺れたガキだったことを、今さら突きつけられる。


 感情も、欲望も、ぐつぐつと混ざり合って、

 蒸し焼きにされるような空気の中。


 畑の虫の声すらも、どこか遠く感じられた。


 無理に作業を続ければ、倒れるのも時間の問題だ。


 そんな暑さの中で──ふと、思い出すのは、美琴の言葉。


 「……卒業させてあげる」


 ──これはただの失恋でも、ただの欲望でもない。


 自分でもうまく言葉にできない興奮と感情が、

 じっとりと背中に張りついていた。


「……じゃあ、俺が抱いたっていいよな。

 あんな女で、“卒業”? ──いいぞ。俺が抱いてやるよ……」


 誰に向けるでもない独り言が、ひどく生々しく響いた。


 そして気づく。

 心だけじゃない。身体の方も、もう限界だった。


 ふらつく足取りで車に乗り込むと、

 慣れたようにエアコンを強くして、その風が頬をやさしく撫でた。


 「……涼しい、な……」


 このまま家に戻って、倒れ込むように寝てしまいたかった。


 ──けれど、身体は疲れているのに、頭だけが妙に冴えていた。


 風呂場でぬるめの水を浴びると、それは次第に冷水に変わっていき、

 ようやく、少しずつ体温が落ち着いていく。


(田舎だな……ここは)


 かつて、都会の大学で過ごしていた頃には、想像もつかなかった。

 こんなにも静かで、そして感情が濁って発酵していくような土地。


 現実は、静かに、しかし確実に──拓海の心を壊していった。



 妄想④

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。