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クロスオーバー  作者: 連鎖
黄昏
63/141

再会⑤

 いくら昔の知り合いだとしても、

 若く美しい女の子と他愛もない話を自然にできるほど、

 俺は女に慣れているわけじゃない。


 だから、彼女が楽しそうにスマホをいじっている姿を、

 邪魔をしないように、ただ黙って見つめる事しか出来なかった。


「今って言われたって、それってさぁ、無理。

 実家に帰ってるの。戻ったらスグに連絡するから、それまで待って!」


 気がつけば、誰かとやり取りしていたらしい。

 この三年間、俺の知らない時間を、彼女は誰かと共有していた。


(……こんなに、よく笑う子?よく話す子だっけ?)


 記憶の中の彼女は、もっと物静かで、少し恥ずかしがり屋だった。


 背が高いのも、大きな胸も気にしていて、

 陸上部なのに、周囲を追い越すことすらためらっていたと聞いていた。


「そろそろ、家に着くぞ。準備しとけよ」「はぁ~い。また後でね~」


 まだ少し距離はあるけれど、もうすぐ彼女と別れると思った瞬間、

 不意に、自分だけ見てほしいという、ワガママな気持ちが胸を刺した。


「せっかくの帰郷なんだし、ゆっくりしていくのか?」


「どーかなぁ。祭りまではいるつもりだけど……」


 ずいぶん変わった彼女を、

 あの真面目なおじいちゃんが見たら、きっと怒るだろう。


(もしかしたら、部屋を追い出されるかもな……

 いや、それより……うちに泊まってくれたら……なんて)


 そんな良くない妄想が頭をかすめて、つい表情に出てしまったらしい。


「なに〜? 胸を見たいの?また見せてあげようか〜?」


「ち、違う! そうじゃなくて……

 善治さんと初音さんが、お前を見たらびっくりするだろうなって」


「そぉお? いつもの格好だし、気にしてないと思うけど?」


「はぁ。いいから…まあ、何かあっても俺が一緒に謝ってやるよ。

 さっき、“なんでもする”って、約束したしな」


「うぅ~……やっぱ田舎って、車が無いと不便すぎる~」


 なぜだろう。


 この、のどかで何も無い田舎に、その格好はどう見ても浮いているのに、

 美琴は首を傾げて、まるでピンときていない様子だった。


 ――キィイイ。


 ブレーキの音が響いて、目的の家に車が止まる。


「ほら、着いたぞ。荷物は持ってくから、お前は先に向かえ」


「送ってくれてありがとう。

 ぜーったい、この夏でたっくんを、卒業させてあげるからね〜

 それまで捨てずに待っててね、た〜っくん」


「だっ……だから……」


「アハハハ! ばあちゃ~ん! みこ〜、美琴が帰って来たよ~~!

 ばあちゃーん、いるぅ~~?」


 二階建ての、どこにでもあるような家へ向かって彼女は駆け出す。


 その背中を見送りながら、

 俺は両手で彼女のキャスターバッグを抱えて、ゆっくりと歩き出した。


「美琴、おかえりぃ~! 本当によく来たねぇ。

 奥におじいちゃんがいるから、ちゃんと挨拶をするのよ。

 あと、それが終わったら仏壇にも手を合わせなさい」


「じっちゃーん! みこ〜来たよー! げんきぃー?」


 玄関から奥へ駆けていく姿も、大人しかった彼女が大声で話す事も――

 その全てが、まるで別人のように思えた。


「初音さん。これ、荷物です」


「ありがとう。それより拓海くん、美琴、驚いたでしょ? 

 今回も、本当に可愛くなったわね。すごく綺麗でしょう?」


「……本当ですね。まるで、別人みたいです」


「拓海くんが気に入ったら、お嫁にもらってくれていいのよ?

 美琴も好きなんだから、早く結婚しちゃいなさいよ」


「……」


「卒業したらこっちに連れ戻して、ひ孫の顔でも見せてちょうだいね。

 もちろん、私たちは反対なんてしないし、応援しているからね」


「……えっと、それより、彼女の格好なんですけど?」


「そう? 前は怒ったけど、よく見たら可愛いのよ。

 おじいちゃんなんて、“あの格好の美琴が好きだ”って言うくらいなの。

 それでね。一緒に撮影した写真を喜んで毎日見ているのぉお。アハハ」


「……前って、まさか……」


「もしかして、あれから会ってなかった? あの子、毎年帰ってるのよ。

 夏も、冬も。だから私たちは、もうすっかり、見慣れちゃって」


「毎年……?冬も?」


「……あれ? 会ってない? それで毎年帰っていたと思っていたのに…」


「…」


「違っていたのね。ごめんなさい。

 さっきの話は、忘れて……美琴に知られたら怒られちゃうから」


「はぁ、ええ……そうですね、昔の話ですし…気にしないでください」


「拓海くん、今日は本当にありがとう。

 いつもはおじいちゃんが迎えに行ってたけど、最近はもう歳でね」


「俺、いつでも暇してますから。

 何かあったら、遠慮なく何でも声をかけてください」


「そぉお。本当にありがとう。

 拓海くんも、元気でね。本当に、さっきの事はごめんね」


 初音さんはそう言って、静かに家の中へ戻っていったが、

 玄関先に取り残された俺は、しばらくその場から動けなかった。


(――知らなかった。

 あいつが、大学の休みには、この町に帰ってきていたなんて……)


 助手席で無邪気に笑っていた彼女の顔と、

 家の中から響く明るい声が重なって、胸がじくじくと痛んだ。


(あの笑顔は……別に、俺だけに見せてたわけじゃなかったんだ)


「……俺のことなんて……」


 初音さんの言葉が、心の中にずっしりと沈んでいく。

 ひとつ、ひとつ、記憶の重みを増しながら――。



 再会⑤

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