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クロスオーバー  作者: 連鎖
リーダー
111/118

終幕①

 瓦礫と残り火が燻る広場で、村長宅に向かって戦うミアは、

 舞うようにボスの攻撃をかわし、隙を縫って刃を差し込んでいた。


 対するボスは巨大な両手斧を、

 左で盾のように使い、右の拳を槌のように振るう。


 少しでもミアの攻撃に隙ができると、両手で握り直し、

 小枝でも振るうかのような速度で、必殺の一撃を放った。


 今も、互いの刃が触れるたび、耳障りな金属音とともに火花が散る。


(あの刃は無理……魔法が付与されてる。なら、狙うのは――)


 ミアの狙いは、斧の長い柄。


 攻撃を誘いながら、悟られぬよう間合いを詰め、

 少しずつ、確実に亀裂を刻んでいく。


 そして――左の刃が、ついに柄を捉えた。


「ギィイイン――」


 乾いた音を立て、折れた柄が地面へ落ちる。

 重い刃に引かれ、ボスの左手が泳ぎ、体勢が崩れた。


「くそっ――!」


 その一瞬に、右の剣が滑り込み、厳つい右腕へと深く突き刺さる。


 肉を裂く嫌な音。 濃くなる血の匂い。


 そして、ほんのわずかな――ミアの油断。


 ボスは刃が刺さったままの腕を振り抜き、

 防具のないミアの腹部へ、巨大な拳を叩き込む。


 だが、ミアは剣を離さない。


 ボスの腕が大きく裂け、血が激しく噴き出し、

 宙を舞ったミアは、残っていた瓦礫に叩きつけられていた。


 ◇


 広場の手前でミアとボスが戦い続け、

 その奥では、村長宅に背を向けてリアが戦っていた。


 魔法の矢に偽装されていた実矢が、

 魔法使いの障壁を貫通し、頬に浅い傷を刻む。


「また……。アナタも懲りないですね」


 魔法使いの黄色い瞳が、呆れたように見つめ。

 その足元では、何かが完成しようとしていた。


 ◇


 村長宅の入口で、リーダーの障壁に守られた人達が、

 息を呑んで英雄が戦う姿を見つめていた。


 誰もが、ミアとリアを「主役」や「英雄」として見ている。


 ――しかし、檻は称える声を外へ漏らさない。


 すでに地下牢へと消えた黒いローブコートの背中は、

 誰の記憶にも残らず、意識されることもない。


 さらに、忘れた男の障壁に守られ、

 檻として閉じ込められている事さえ、忘れる程に興奮していた。


 黒いローブコートに包まれた男。


 太く、丸く、油じみて冴えない背中。

 だがその肩には、確かな重みと揺るぎない意志が乗っている。


 地下牢から戻ってきた彼に気づいた者が、小さく鼻で笑った。


「……あれが“英雄”――」


 誰に聞かせるでもない独り言。  

 その言葉を、地上の喧噪も、地下の静寂も、誰ひとり拾わない。


 リーダーに続いて階段を駆け上がってきた人々が、地上へ辿り着く。


 目の前に広がるのは、裂けた大地、崩れた建物、燃え盛る瓦礫、

 自分達を苦しめた男達の救いを求める叫び、終わりを告げる送り火。


 自分達がいた薄暗い地下牢。背後には燃える村長宅。

 全員が何かを悟ったように拳を握りしめた。


 リーダーから託されたのは、新しい門出への切符。


 命を拾われた者たちが歩む道はそれぞれ違う。

 だが、その最初の一歩だけは、同じ方向を向いていた。


 ◇


 夜空の下では剣と魔法が唸り、地下の闇では祈りと癒しが灯り。


 救いを求めた人々の願いが膨れ上がり、

 広場を満たしていた喧噪は、少しずつ、その色を変えていった。


 ◇


「やっぱり、来ないの?」

「だまされねえよ。さっさと来い!」


 ボスの拳に合わせて自分から飛び、瓦礫に埋もれていたミアが、

 何事もなかったかのように立ち上がる。

 

 ボスの右腕は、無理矢理動かしたせいで血が止めどなく流れ、

 睨む顔色は悪く、肩で荒く息をしていた。


 対するミアは、頬や全身に土と血の筋をつけながらも、

 まだ余裕の笑みを浮かべる。


「そろそろ終わりにしよっか。あたしも汗、かいてきたし」

「ふざけんなッ!」


 ボスは柄の短くなった両手斧を、右手も添え、力任せに振るう。


 突進しながらの横薙ぎ。相手が下がるのを見越した振り下ろし。

 続けざまの、斜め上への斬り上げ。


 当たれば一瞬で終わるほどの巨大な刃が、どれも空を切る。


 ミアは剣で受け流しもしない。

 軌道を見切り、斧の刃先から身を外すだけ。


 横薙ぎには腰を反らし、振り下ろしには身体を半身に、

 斬り上げには、嘲るように生足の踵で斧の刃を蹴った。


「無様ね、ボス……降参してみる?」


 斧が通り過ぎた空間に、わずかな風の残滓だけが残る。


 困惑した表情のボスを見て、ミアは笑う。


 その隙間を縫うように、

 左右の突きが変化を伴って次々と襲いかかる。


 腕、肩、首筋、顔。浅く、小さく、だが確実に体力を削っていく。


 激しく血が流れ出す肩、全身から血の汗を流し、

 息は絶え絶えだが、目だけが獲物を射抜くように死んでいない。


 やがて、ボスの足元が揺らぎ始め、膝が、ほんの一瞬、落ちた。


 ――その僅かな沈みを、ミアは見逃さない。


「じゃあね。多少は楽しめたわ。ありがと……」


 囁きと同時に、右の剣が軌道を変え、ボスの左膝を薙ぐ。


 膝裏の腱が断たれ、巨体が前のめりに崩れた瞬間、

 左の剣が首の中央へ突き立てられた。


「ブゴオォおお」


 ボスが筋肉を締め上げて剣を受け止め、刃に手を添えての特攻。


「はぁ……ダメね」


 その光景を、どこか呆れたようにミアが見つめ、  

 流れるように避けながら、横薙ぎに剣を振るう。


 ボスの首が裂け、血が激しく噴き出し、何かを叫ぼうとする。


 だが、声は形にならず、救いを求める手だけが虚しく宙を掴む。


「ガラン」


 血濡れた斧が地面を打ち、鈍い音が広場に響き、

 身体がぐらりと揺れ、ゆっくりと前のめりに倒れ伏す。


 ミアはその背を見下ろし、小さく肩で息を吐いた。


「……ほんと、弱くなったわ……でも、少しは戻った?」


 そして、その問いかけは視線の先――


 向こう側にいた黒衣の男へ。


 だが、何も言わずに、ミアを見つめ返していた。



 終幕①

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