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クロスオーバー  作者: 連鎖
リーダー
109/118

旋律②

 広場の手前で火花を散らしているのは、二つの雷だった。


 筋骨たくましい大男が、巨大で無骨な両手斧を振り回し、

 赤黒い肌の美しい女が、銀色に輝く双剣で捌く。


 ――ガギィンッ。  


 ――ドンッ。


 刃が噛み合い、力が流されていく硬質な音と、

 斧が地面を砕く鈍い衝撃が、交互に夜を叩く。


 ミアの動きは舞いに近い。


 右の剣で斧の刃を受け流し、  

 左の剣が、そのわずかな隙へ滑り込み、柄や手首を狙う。


 踏み込んだ足が地面を擦り、腰がしなり、上体が矢のように伸び。

 一連の動きは途切れず、ひと続きの線となって流れた。


 攻撃を受けても、ボスは楽しそうに躱すだけ。


 ミアの引き締まった生脚が、防具で守っていない身体を押し出し、

 相手から″冷静さ″を奪っていき、飢えた獣に変えていく。


 ミアは売られたときと同じ格好――  


 防具や装備品を何もつけていない、無防備な姿。


(本当に嫌になる……そんなに、守られたいの!?)


 荒い呼吸に合わせて、ミアの大きな胸が上下に揺れ、

 炎に炙られた汗で、肩までの金髪が頬、布が身体に貼りついた。


「何を見ているの?」


 ボスの斧は、一撃ごとに地面を砕き、周囲へ礫を撒き散らす。


 ミアには、装備もない。防御魔法もない。救いも、回復さえない。

 直撃は即死。――いや、刃が強くかすめるだけでも変わらない。


 必死に隙を作ろうとする――それなのに、どうしても意識が散る。


(はぁ……邪魔。……くそっ……また、遅れた……!)


 ボスが横薙ぎに振るった刃が、上半身を通っていく。


 ――ヒュッ、と裂けた。


 横への大振りで、ボスの体勢がわずかに崩れ。


 ミアにとって追撃の好機だが、踏み込むのを躊躇った。


 ――ズガァンッ!


 そこへ――両手で持ち直した斧の、激しい振り下ろし。


 ミアは受け流さないで、大きく後ろへ跳ぶ。


 だが、地面をえぐった小さな破片が、ミアの傷を増やしていった。


「もう疲れたか? 身体が止まっているぞ」


「それは、アンタでしょ!」


 ミアは斧が“動き出す瞬間”を見極め、引き戻される刹那に滑り込み、  

 身を低く流しながら刃を差し込む。


 ――キィン、と金属が擦れ合う。


 ミアの攻撃が″軽い″と気づいたボスが、

 右手を握り拳にして槌に、左手で支えた両手斧の刃を盾に使う。


 ミアは双剣で、脇腹、膝、肩――容赦なく狙う。


 だが、攻撃を盾と体術で防がれ、隙を見せると槌で攻撃される。


 あと一歩が、どうしても踏み込めない。


 間合いが切られ振り出しへ戻り、互いに隙を見せない攻防が続いた。


 金属の響き。浅く切裂く湿った音。  

 決定打にならない音と、歯がゆい想いだけが積み重なっていく。


(恥ずかしい? 守ってほしい? そんな弱い女!?)


 双剣と両手斧が擦れ合うたび火花が散り、

 そしてまた一つ、確かな傷がお互いの身体に刻まれていった。


 ◇


 リーダーの障壁で守られている人々の視線が、自然と集まっていく。


 冒険者も、助けられた人達も、時を忘れて見入っていた。


 ――あれが「Aランクパーティ」の前衛。  

 ――噂の、《双刃の金狼》ミア。  

 ――ソロでもAランクを達成した女。


 その光景を、ミア自身が羨んで見ているなど、誰も気づかない。


 ◇


 少し離れた場所では、別の風が踊っていた。


 リアと魔法使いの攻防は、派手さではなく精密さで目を奪う。

 弓から放たれる矢は、一本一本が幾何学的な軌跡を描いていた。


 ただ真っ直ぐに飛ぶのではない。


 途中で角度を変え、二本が重なり、

 ふっと分かれ、さらに実矢を混ぜ――三本にも見える。


 風の流れを聴いているかのように、リアの腰まで伸びた銀髪が踊る。  


 射る。置く。間を測る。――呼吸と同じリズム。


(やっぱり……決定打が……また、防がれた……)


 白い頬は汗に濡れて輝き、眉間には不快そうな皺が刻まれ、

 それでも姿勢は崩れない。  


 儀式の舞台に立つ巫女のような、静けさを纏い戦っていた。


 対する魔法使いは、闇障壁、しまいには炎まで持ち出して防ぐ。


「《闇障壁》……クソッ、止まれ……《火槍》、止まれぇ!」


 闇障壁が実矢を受けて砕け、それを攻撃魔法で燃やしながら反撃。


 リアは踊るように避け、遅れた銀髪が焦げても動じない。


 高速な魔法矢を撃ち出し、魔法使いが魔障壁を張って受ける。  


 周りから見れば、追い込むリア、逃げる魔法使い、に見えてしまう。


 だが、一瞬でも動きが乱れれば――お互いに押し切られてしまう。


 今も張りつめた糸が、音もなく軋み続けていた。


(また……止められた……リーダー、何故ですか? どうして……)


 リアは別の事ばかり考えて、気づいていないのか、

 不気味な魔力のうねりが、魔法使いの足元に集まり始めていた。


 ◇


 冒険者が、思わず呟いた。


「……あれ、同格以上だぞ。この辺を破壊し尽くした魔法使いと、

 弓だけで互角以上、いや、押し込んでいやがる」


 誰かが、息を飲むように答える。


「エルフの精霊弓師、《滅弓の銀鷹》……噂は、本当だったんだな」


 矢と魔法の光が、一方的に広場の奥を支配していた。


 そこだけを切り取れば、女神のような英雄が悪を断罪する挿絵。


 だが、リア自身が自分達を羨んでいるなど、誰も気づかなかった。



 旋律②

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