↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クロスオーバー  作者: 連鎖
リリアンとクロ(正義の味方)
1/141

初戦①

 薄暗いというほど暗くはない。


 近くには人の営みを感じさせる建物の灯りも見えるため、

 いわゆるド田舎という場所でもない。


 だが、深夜に女の子が一人で訪れるような場所でもなかった。


 もう少し暖かい季節になれば、

 何かしらの目的を持った男女が二人で訪れそうな、木々の多い公園。


 その中を、主人公の理々杏が何かを探しながら歩いていた。


「理々杏。その近くにいるはずだ! 

 探してくれ。その辺にいるはずなんだ!」


「はい、博士。理々杏、そちらに向かいます」


(クロぉ。どこにいるか分からないのぉ? もぉぉ、面倒くさいぃぃ)

(右のほうじゃないか? あの木の影だ。さっさと倒して風呂に)


(分かったわよ。お風呂ね)

(最近寒いからなぁ。熱い湯を頼むぞ。たまには熱々の風呂だ)


(燃料代がさぁ……。でも、そういえば猫って水が嫌いじゃないの?)

(アハハ。俺はスーパーキャットだ。スーパーだから平気なんだよ)


(スーパーねぇ。本当にスーパーキャットなのぉ?)

(ハハハ)


 頭の中で会話を交わすことに、もはや違和感はなかった。


 主人公の理々杏と同居人のクロは、

 寂しさや心細さを紛らわせるように、楽しそうなやり取りを続けた。


「すまない。リリアンにしか頼れないんだ。本当にすまない。  

 ゆっくりでいいから探してくれ。  

 もし相手が逃げたら、そのまま帰ってきていい」


 二人の声が聞こえているなら、そこまで心配する必要はない。


 だが、傍から見れば理々杏は一人で黙々と歩いているだけだ。


 深夜の公園を女子高生一人に捜索させている状況に、

 博士は普通の大人らしい罪悪感を抱いているようだった。


 もし何かあったら。そんな最悪の事態も考えている。

 バックアップは用意しているが近くにはいない。


 遭遇した後に割り込める保証もない。


 だからこそ犠牲が最小限で済むよう、

 ドローンと監視カメラを多数配置している。


 それが、この男にできる精一杯の大人の対応だった。


「ああ、大丈夫です。でも、お給料は楽しみにしていますね。えへへ」


 膝丈のスカート。どこにでもありそうなブレザー姿。

 肩まで伸びたセミロングの髪。


 胸は控えめ。お腹は普通。お尻も普通。


 顔だけは、未来の科学技術に感謝したくなる程度には整っている。


 高校一年生。これから成長予定。もちろん、恋愛経験なし。


 郊外から出てきて一人暮らし。

 孤児院育ちの苦学生。


 金はない。学校はアルバイト禁止。


 そして正義の味方会社所属、

 エージェント一号(仮)という肩書きを持つ特異人だった。


 そんな少女が深夜一時過ぎに公園をうろついている。


 もし常識的な大人に見つかれば即通報だろう。


 その後はどこかへ連れていかれ、

 ありがたい人生訓をたっぷり聞かされる未来まで見えていた。


「君の活躍次第では、基本給に加えてボーナスも出せるぞ」

「でも先輩とかいないんですかぁ? 他の仲間とかもですよぉ」


「ああ……まあ……アハハ。なぁ……その……あれはなぁ……」


 バックアップ要員はいる。だがエージェントなど存在しない。


 シックスがどこかで見ていると信じたいところだが、

 いざという時に本当に助けてくれるかは不明だった。


 だから仲間について聞かれても、博士は曖昧に笑うしかなかった。


「キャぁっ!? あ……あぁ!? な、なんですか!!」


(ほら、早くしろ。変身するんだよ、リリィ。早く!  

 早くぅぅぅ! 変身だ! 変身するんだよ!)


 急かすクロの声が頭に響き、理々杏は飛び上がるほど驚いた。


 だが、その胡散臭い声よりも先に、

 彼女はまともそうな大人へ助けを求めた。


「いやぁぁぁ! 何よあれ! 博士! 

 あれって何ですか!? あれですよ!」


「やっぱり見えてしまうんだなぁ……。

 はぁぁぁ。可哀想に。そうかぁ……」


(彼の言う通りだったのか。本当にこの子だったんだなぁ)


 博士は理々杏をここへ向かわせた。

 彼女も何か意味のある調査だと思っていた。


 しかし話の流れからすると、

 博士は最初から別のことを確かめていたらしい。


 理々杏は戸惑うばかりだった。


「だから博士! あの虫は何なんですか!?  

 どうして……どうしてあんなものがいるんですかぁ!」


「不可解現象を視覚化できる人間がいるんだ」

「博士?」


 理々杏はクロという超常現象を日常的に相手にしている。

 だから驚きそのものは少ない。


 しかし、まともだと思っていた博士まで、

 平然とそんな話を始めたので、逆に焦っていた。


「と、とにかく変身だぁぁぁ!  リリアン! 

 早く変身してくれ!  頼む! 早くあれを倒してくれぇぇぇ!」


 まとも枠だと思っていた大人までおかしくなった。


 理々杏は諦め半分で、まだ少しは信じたい同居人へ問いかける。


(クロ! あんた知ってるんでしょ!? あれ何よ!)

(UMAとか?)


(だからどうしているのよぉぉぉ!!)


(うぅぅん。僕と同じようなものかなぁ。

 いや、この前もさぁ……アハハハ)


 最後の希望だった同居人まで、まともな説明をする気はなかった。


 魔法少女。戦隊ヒロイン。ウルトラなんとか。ライダーなんとか。


 テレビを見ながら面白そうに語っていた連中と同じことを、

 今まさに実行しろと言っている。


(はぁぁぁ……何よこれ……)

(だからぁぁぁぁぁ! 変身だってぇぇぇぇぇ! へーんしん!)


 理々杏が諦めるのが先か。周囲の勢いに流されるのが先か。


 不可解な光景と、意味不明な声援に囲まれながら。


 この場で最後までまともでいようとしている少女は、

 本気で思い悩んでいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。