第十七話 アイツ処女捨てるってさ
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理由は謎だが、カトリエルは自分にハーレムを作らせようと躍起になっているきらいがある。
当初は、自分が姓を持っていることから外国の貴族と思われる可能性が非常に高く、龍殺しの二つ名を狙って接近してくるであろう貴族達の遮断が目的だった。
カトリエルは「私を正妻として扱うなら二人か三人くらい娶っても構わないわよ」と、偽装結婚を提案した。
しかし寝食を共にする内に愛着が沸いたと言うか、本気になったと言うか、心変わりが起こった。気恥ずかしい話だが互い本気になったのだ。
そんな折、自分の肩書に装飾が増え、破邪の龍殺しと呼ばれるようになった。
そろそろ貴族達が本腰を入れ出す、そんな頃合いに見計らったかのようにアルキス・トリエンナの暗殺命令が舞い込んだ。
ついでに自分とは別口の暗殺集団の出現。
奴等の仕出かしたこと――屋敷に居る住人の皆殺し――が貴族達の間では自分がしたことになっているらしく、帝国派貴族の大巨頭にして、超過激派のアドルフ・ラーフェンですら最近はフェードアウト気味だ。
つまり、無理にハーレムなんて不道徳なものを作る必要性は無いのではないかという話である。
そろそろ踏み込んだ話をしようと思った矢先のことだった。
何を勘違いしたのかヴィヴィアナが女性陣と言うか、カトリエルに味方するという謎の行動に打って出た。
不老不死の影響で世代間対立が激しく、少子高齢化の著しいルカビアンなら自分と同じく一夫多妻制が不道徳的に感じるだろうと思っていただけに、まさかの展開である。
「カトリエルも何を考えているんだか、ねー胡桃さん」
胡桃さんの散歩ついでに居心地の悪い空間から逃げ出し、ギルド地区への移動に成功したわけだが――
「おねーちゃんはさみしがりやさんだからねー」
「え?」
「どうしたのー?」
「ええっと……、それはカトリエルが言っていたの?」
「そうだよー」
邪気の無い笑みを浮かべる胡桃さんの口から、なに食わぬといった調子で、思いも寄らない言葉が飛び出した。
――カトリエルが寂しがりって……。
他の人間の口から出た言葉なら『無い無い』と笑って聞き流したいところだが――、まず大前提として胡桃さんが嘘を吐くなんてことは絶対に有り得ない。
勘違いや思い違いがあることは……犬だし否定はしない。
だが――。
「かぞくも、おともだちもいないからずっとさみしくって、だいかぞくにあこがれてたんだってー」
「マジか……」
「まじだよー」
――マジかー……。
それにしたって大家族に憧れているからってハーレムを作れってのも如何なものだろうか。
ハーレムよりもサッカーチームが組めるくらい子沢山の方がずっと健全で道徳的だと思う。
けれど、帝国の文化や風習、宗教的な事情とは別に、彼女自身が持つ固有の、それも譲ることの出来ない価値観があるのかも知れない。
クラビス・ヴァスカイルで再会したカトリエルの泣き顔を思い出すと、尚更そう思えてならなかった。
「今更自分以外を愛せない、か」
あの時、彼女が漏らした言葉を自分で口にする。
気恥ずかしさや嬉しさよりも、何か根深い問題があるのかも知れないという不安が掻き立てられた。
面倒臭そうな気配を感じて逃げ出しておいて言うのも変な話だが、急にカトリエルと話がしたくなり踵を返すと、一人の男が自分達の行く手を阻むように立ちはだかっていた。
「――――――――――――」
藍色の短髪を逆立て、此方を睥睨する紅い双眸は獣じみた攻撃性を孕んでいる。
高身長で一見すると痩せ型だが、豹やチーターの様な猫科の猛獣を思わせるしなやかな筋肉に包まれているのが分かった。
人の域を遥かに越える圧倒的な魔力と、あからさまな敵意に胡桃さんが警戒心を露わにする。
だが、自分が特に視線を奪われたのは、この猛獣のような男の服装だ。
灰色のワイシャツに赤のネクタイ、ベージュのチノパン、黒のローファー。白衣を羽織っている。
言うなれば、チャラ男、もしくはチンピラが研究員のコスプレをしていると言ったところだろうか。
この世界でこういった現代的な格好をするのは魔人、ルカビアンだけだ。
今日一日だけで何人の魔人が現れたのか。治安の良さがソウブルーの特徴だと言われているが、最早それも酷く疑わしい。
周囲に視線を走らせる。人はいない――わけでは無いが、非戦闘員は一人もいない。
何かが起これば自力で離脱することが出来る程度の力はありそうな者ばかりだ。
魔人との交戦で一般人を巻き添えにして死なせる憂いは無いとは言え、肝心なレーベインベルグは工房に置きっ放しだなわけだが……どうしたものだろうか。
まあ、どうしたもこうしたも無いわけで。
胡桃さんを背にして左足を前に膝を軽く曲げ、右足の踵を浮かせ、両の掌を開けた状態で構えを取り、奴に肉薄する体勢を整える。
胡桃さんを逃がすべきかどうか悩みどころだったが、この一触即発の状態に警戒心を露にして喉から唸り声を鳴らしている。
かなり気が立っている。この状況で逃げろと言っても、素直に逃げてくれるかどうかも怪しい。
――ゼロ距離まで肉薄して体内に精霊兵器を直接召喚。それと同時に刻印装甲を起動し、内部から食い殺す。秒殺してから胡桃さんを抱っこ。後は脇目も振らずに即時撤退。これだ。
食い殺すとか秒殺するとは言ったものの生き残っている男の魔人は全員上位だ。
当然奴も上位だ。その程度で死ぬ筈がない。
――工房に駆け込み、ヴァリーに泣き付いてヴィヴィアナをぶつけさせれば反撃の糸口も見えてくる筈だ。
そこまで考えたところで奴の口が動いた。
「テメェが倉澤蒼一郎だな」
人違いです――は通じそうにもない断定的な口調と目付きだ。
「ルカビアンの一九魔人の一人、ガラベル。そう言えば、俺が何をしに来たのか分かるな」
「なんだ、味方か」
「あ゛ァ?」
さぞ、今から凄絶な殺し合いをするぞという雰囲気だっただけに溜息と共に気が抜けた。
ガラベルが見た目通りチンピラみたいな反応を示すが、奴――、もとい彼は此方側だ。
戦闘態勢を解除すると、構えたまま殺意を漲らせるガラベルが怪訝そうな顔を浮かべ、胡桃さんもまた戸惑った様子で自分の顔を見上げていた。
「何をほざいていやがる。近所のガキの敵討ちだ。さっさと構えやがれ!」
この反応は――
「あー……もしかしてヴィヴィアナから何も聞いていないのですか?」
「とぼけたけりゃ勝手にとぼけていろ。どちらにしてもテメェはこの場で殺してやる!」
敵なのかそうでないのかが分からないと言った様子で胡桃さんの視線が、自分とガラベルの間で何往復もしていた。
それで目を回したら……それはそれで可愛いらしいこと間違いなしなので見たいところだが、取り敢えず胡桃さんの頭の上に掌を乗せて視線を自分に固定させる。
――それは兎も角、ヴィヴィアナの奴め、ヴァリーを連れて自分の助命嘆願に動くって言っていた癖に、まだ何もやっていなかったのか。まさか自分が言ったことを忘れているんじゃないだろうな。自称超越種(笑)め。
取り敢えず、この場は自力で切り抜けるしかない。
此処でガラベルと殺し合うのは、あまりにも勿体無さ過ぎる。
「改めて自己紹介しましょうか。自分は姓を倉澤、名を蒼一郎と言います。ヴァリーの友人兼、ヴィヴィアナの恋愛アドバイザーです」
「……は?」
ヴァリーの友人という言葉に引っかかったのか、それともヴィヴィアナの恋愛アドバイザーという言葉に引っかかったのだろうか。ガラベルから放たれる殺気が半減し、非常に面白い顔で身体を硬直させた。
それでも彼にとって自分は、近所のガキ、つまりはライゼファーを殺した仇だ。
半減した殺意を手繰り寄せ、どうにか戦闘態勢を立て直そうとする。
「他に親交のあるルカビアンはティアメスで、彼女の彼氏の、まあ親友みたいなものです」
「…………は?」
どうやら全ての言葉に引っかかったようで、ついにガラベルから放たれる殺気が完全に霧散した。
――それにしてもこの男、途轍もない意思の持ち主だ。
全力で呆れ返り、まともに殺意を圧縮出来ない状態に陥ったにも関わらず、紅い双眸からは戦意だけは何が何でも絶対に手放さないという決意のようなものが宿っていた。
だが、自分に戦う気は無い。何度も言うが、此処で彼と戦うのはあまりにも勿体ないのだ。
「因みにヴィヴィアナから受けた相談は、ガラベルに処女を捧げたいが、どうすれば女として意識してもらえるのか分からないので男性視点で教えて欲しい、ということでした」
「……………………」
万の暴力と万の暴言よりも、近しい相手の馬鹿らしく間抜けな話を、仮想敵扱いしている相手の口から聞かされる方が余程ダメージになる。
現にガラベルは絶句したまま何とも言い難い表情で殺意のみならず、敵意や戦意さえも霧散させてしまった。
超越種とは言え、身内の恥を目の当たりにして怒りや闘志を維持するのは困難を極めるのだろう。
「何はともあれ、素直に自分の気持ちを伝えるべきだと言ったのですが、あの調子では煮え切らないまま数百年、数千年動けなくなりそうでしたので、僭越ながら自分から伝えた次第です」
沈黙するガラベルに畳みかけると、彼は愕然と崩れ落ち、地に手を着いた。
「アイツはライゼファーの仇に何やってやがんだ。ワケ分らねぇ……」
ヴィヴィアナの相談内容の表現を自分なりに意訳したつもりだったが、訳が分からないのは同意する。
しかし、ガラベルの反応と態度は男らしいとは、とても言い難い。
処女歴数千年で熟成醸造されている上に、一人称が名前&昔の職位という痛々しいことこの上無い女だが、見てくれだけは天下一品だ。
それなのに、或いはそれだから『男なんだから喜んで抱けよ』とも、『いやー、うらやましいかぎりだー』と僅か足りとも言う気になれないのがあの女の至極残念なところである。
うん、男らしくないというのは否定しよう。でも、数千年もお前のことを想っているんだぞ、四の五の言わずに受け入れてやれよ、一応は美人なんだぞと言いたくもなる。
「取りあえず、ウチにヴィヴィアナ達が遊びに来ているので合流しませんか?」
「いやいやいや、待て待て待て!! ちょっと待てい!! ライゼファーを殺したテメェが何故ヴィヴィアナと和気藹々とやっている!? それに達ってのは誰だ!? 達ってのは!?」
「色々あって許されました。ライゼファーともクラビス・ヴァスカイルで和解が成立してますし、その話は周回遅れも前に済んだ話なんですよ。今、ウチにいるルカビアンはヴァリー、ヴィヴィアナ。さっきまでティアメスもいましたが彼氏と旅行に行きました」
「訳が分からん! 訳が分からんぞ貴様! 誰か説明しろおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
「あー、もう。グダグダ、グダグダと男らしくない。良いから来い。来たら分かる。大体」
喚くガラベルの首に左腕を巻き付け、肩を組むようにして引きずり歩き、工房へ戻ることにした。
上位の魔人を相手に我ながら傍若無人なことだが、ヴィヴィアナとの交渉で一番の懸念になっていたのがガラベルの居場所だった。
それが分かるどころか、一番都合の良いタイミングで自分の目の前に現れてくれた。
今の面倒な状況を有耶無耶にする万策を得たに等しい。
最悪でもこの男を工房の中に放り込めばヴィヴィアナを黙らせるのに一役買ってくれることだろう。
――買ってくれなくても、ヴィヴィアナに無理矢理売り付けるのは決定済みだが。
「帰宅前に確認しておきたいのですが、ン千年前もからヴィヴィアナから想われていたのに全然気付いていなかったのですか? 全く? 欠片も?」
「ええい! いい加減に放しやがれ!」
ギルド地区を下り、職人地区に差し掛かった辺りで彼に尋ねると照れ隠しのつもりだろうか、引き摺り歩く自分の腕を捥ぐが如く乱暴に振り払った。
自分や魔人以外にやったら折れるを通り越して、腕が取れていたかも知れない程のパワーだ。
「別に……、全く気付いていなかったわけじゃねぇよ」
「気付いていたのに今まで放っておいたのですか? 数千年も? 男らしくないですねぇ」
「ねー」
動物的な直感で物事の本質を捉えることの出来る胡桃さんが同意する。
男らしさの無いヘタレであることが確定したも同然だ。
「ウゼェ! 一々煽ってくるんじゃねぇ!」
「まあまあ良いではありませんか。こういう話が出来る相手に会うのはかれこれ一年ぶりくらいなんですよ。もう少しくらい弄らせてくださいよ」
「大体、テメェの恋愛アドバイザーって胡散臭ェのはなんだ!?」
「ああ、それですか? 貴方なら仮腹の儀はご存知でしょうから詳しい説明を省きますが、ある女性の子宮にハーティアが封じられています」
「何……?」
近しい関係性を持つ者の名に、それまでの激しい血気が消沈し、据わった眼で静かに呟いた。
ガラベルの眼が『舐めたことをほざいたら殺す』と無言で、しかし雄弁に語っていた。
上位の魔人が放つ強烈な殺気はそれ自体が魔術のようなもので、何かが起こる前兆を察した獣人や動物達が落ち着かない様子で動き回り、息を切らせながら吠え出し、魔力との親和性が低いドワーフの職人達が体調の悪そうな血色で地面に蹲ったり、壁を背にして座り込んでいく様が視界の隅に映った。
「自分はその女性から傷一つ付ける事無く、その呪術を取り除きたい。そこでヴィヴィアナから交換条件を提示されたのです。仮腹の儀ごとハーティアの魂をヴィヴィアナの子宮に移し、ついでに処女卒業を狙ってガラベルとセックスしてハーティアを産むと」
「なんでっ、だああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
再び霧散する殺気。
落ち着きと正気を取り戻した獣人達が突如として起こしてしまった異常行動を恥じ入るような様子で足早に去り、ぐったりしていたドワーフ達は焦った様子で周囲を見回し、慌てて立ち上がると走り出した。
病気や怪我をしているわけでも無いのに、サボっている姿を親方達に見られたらどやされるかぶん殴られる。それを恐れているようだった。
「おお、流石はヴィヴィアナの想い人。リアクションが大体同じじゃないですか」
ガラベルの怒鳴り声に胡桃さんがびっくりした様子で目をぱちくりとさせるが、自分がかんらかんらと笑っているのを見て脅威では無いと判断したらしく、呑気な顔で行き交う人達の姿を眺め、見知った人を見付けたら尻尾の代わりに手を振った。
「馬鹿だろ、お前!? 馬鹿だろ、アイツ!? お前ら全員馬鹿揃いか!!」
「ま、自分を助けると思ってヴィヴィアナの処女膜を突き破ってはもらえませんかね?」
「ふざっ……ざけるなテメェ!」
「ふざけてませんよ、大真面目ですよ。自分も、ヴィヴィアナも」
いや、半分くらいはふざけてるけど――という内心をおくびにも出さず、真正面からガラベルを見据える。
残りの半分が大真面目なのは事実で、彼は気圧されたように目を逸らして舌打ちした。
「ま、少しくらい話を盛りましたけど、彼女が数千年前から貴方のことを想っていたのは事実です。今の環境でも貴方達の知識と技術があれば、失った生殖機能を取り戻すことも可能なのでしょう? だから処女膜をぶち破って孕ませてあげてくださいよ」
「だから、なんで一々卑猥なのだ、テメェは!!」
「失礼。ただ、これで八方丸く納まるんですよ。気も抜けると言うものですよ」
他のルカビアンもそうだが、殺し合いでは無く話し合いというステージに限って言えば、普通の人間と何も変わらないように思える。
未だに納得のいっていない様子のガラベルを馬鹿な悪友にするように引きずり歩き、工房に辿り着いた辺りになって何と無くだが、今更のように気付いた。
「ただいま戻りました」
「ただいまー」
「やっと帰って来たな女の敵」
出迎えてくれたのはカトリエルでは無く、仁王立ちになって目尻を吊り上げるヴィヴィアナだった。
さっきまでの自分にとっては厄介極まりない存在だったが、それも今となっては無力なもので思わず笑みが零れる。
「良いんですか、今の自分にそんな口を叩いて」
「なにさ?」
嘲笑にも似た自分の笑顔にヴィヴィアナが瞳に怪訝の色が浮かぶ。
だから、何で貴様らは一々人を不審げな目で見るのだ。
勿体付ける気だったが面倒臭くなってきたので、さっさとヴィヴィアナの前にガラベルをつき出す。
「よお……」
「ガラベル……!?」
幼馴染の明確な想いを知ったせいか、表面上こそはぶっきらぼうに見えるガラベルも何処と無く気まずそうで落ち着きが無く、緩みそうになっている表情を無理矢理噛み殺そうとしているようにも感じられた。
良く言えば初々しい。悪く言えば童貞臭い。
「ガラベルじゃん! ひさしぶりーっ!」
無邪気に声を張り上げるヴァリーの姿にガラベルが安堵した様子で笑みを浮かべる。
此処で彼に平静を取り戻されるのは些か面白くない。そろそろ攻勢に転じるとしようか。
「ヴィヴィアナ。貴女の世話になる以上、その対価は全力で支払わせて頂きます」
「ふ、ふーん。倉澤蒼一郎のくせに律儀じゃないか」
「ええ、安心してください。彼には貴方から聞いたこと、有る事無い事全部伝えておきましたので!」
「え? 全部? 全部? 全部ってお前!?」
顔を羞恥の赤に染めて視線を身体ごと右往左往させる。
ありがたいことに自分がガラベルに語った『処女膜をぶち抜かれたがっている』ことの信憑性を勝手に高めてくれた。
「ヴィヴィアナ、お前……、まさかコイツが言っていたことは全部本当だってのか?」
「う……うん。全部本当」
まあ、ヴィヴィアナの口から処女を捨てたいとか、ガラベルに抱かれたいなんて言葉は一言も出ていないわけだが。
それにも関わらず、ガラベルに『彼女の処女奪ってやって下さい。それが彼女の望みです☆彡』なんて言ってしまったわけだが、この調子なら丸く納まりそうだ。
「この馬鹿が人に聞かせる話じゃねぇだろうが」
「ご、ごめん。ただ他に相談出来る相手もいなかったし、何か倉澤蒼一郎が察したから良い機会だと思って」
有り得ないことだが、いい雰囲気になっているのは、それはそれで悪いことではない。
彼等の頭の中でどういったすれ違いが起こっているか定かでは無いし、これでガラベルが発情してヴィヴィアナを押し倒したとしても、それがこの場で無ければ少なくとも自分は笑えるから問題は無い。
何だかんだでこの女のことだ、嫌がる素振りをしながら受け入れるどころか全力で誘うことくらいのことはやってのけそうだ。
「兎に角、ハーティアを封じた仮腹の儀を移植する。話はそれからだ」
「う、うん。話はそれから、続きはそれから、それから、だね」
「お、おお」
この初々しいやり取りをしているのが御年六千歳以上のお爺ちゃんとお婆ちゃんなのが笑いどころである。
「これで仮腹の儀は何とかなるし、向こうの恋も実って笑える……じゃなくてWin―Winの結果に終わってめでたしめでたし……」
「愉しそうにしているところ悪いのだけれど」
「――――――――――――」
ガラベルをぶっ込むことで有耶無耶にする予定だったハーレム云々の話、忘れていたわけでは無いが状況を動かすキーパーソンの登場に浮かれていたのも事実で、他人の恋愛に首を突っ込むのが楽しくて仕方がなくて目的を微妙に見失っていたのもまた事実だ。
有耶無耶になる筈の話は何も有耶無耶にはなっておらず、更にはヴィヴィアナから何を吹き込まれたのだろうか雌豹のような雰囲気を匂わせるカトリエル、エーヴィア、ネフェルト、リリネットさん、リディリアさんからの視線が突き刺さる。
改めてヴィヴィアナとガラベルの方に目を向けるが、駄目だ。コイツ等、完全に二人の世界に入ってやがる――!!
もっとラブコメ的なドタバタ劇でこの場を力業で有耶無耶にする筈が、思春期の不慣れな交際に通じる静けささえ感じられた。全然使い物になりやしない。
此処はヴァリーに何とかしてもらうしかない。
「さ、さー、胡桃ちゃんはあたしとあっちで遊んでようねー」
「はーい!」
目を逸らし「が、頑張ってね。おにーちゃん」と、そそくさと表の方に出て行くヴァリー。
ヴィヴィアナが言っていたことの一部始終を聞いていたからこその態度なのだろう。
彼女に向けた縋るような視線を遮るようにカトリエルが立ちはだかった。
「さ、他人の恋愛に首を突っ込んで気分転換できたみたいだし、私達は私達で将来に向けた話し合いを再開するとしましょうか。ねぇ、あなた?」
男として喜ぶべき場面にも関わらず、そこはかとなく嬉しくないのは、きっと自分の気のせいでは無い筈だ。
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Copyright © 2017-2019 芥川一刀 All Rights Reserved.
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